第16話 二人がやばい

「正攻法ってのは誰かが勝手に決めたルートの一つでしかねぇ。本当に勝ちたい、手に入れたいものがあるなら、ルールの範囲内でなんでもやるのが本当の商人だろ?」


「社長、そのせいで今警察に目をつけられてるのでは?」


わかってるよ!うるさいなぁ!!!


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4-7 カバン

統一歴0年5月14日

○ ゲミル・コレリウス


 視界には砂利と岩だらけの荒野が広がっています。昼間なのに分厚い雲は低く、どんよりと暗い。何もかもが陰気くさい領です。


 時折現れるカバンの魔物が非常に厄介で、半透明の身体で空中を飛び回り、遠方から闇魔法を飛ばしてきます。闇魔法自体は大した攻撃力もない為、脅威にはならないのですが、こちらの剣や槍も、身体をすり抜け当てることができません。物理的な攻撃は効かない、ということなのでしょう。


 速さ主体、騎馬隊のみの遠征で魔法兵を連れてこなかったことがここにきて仇となりました。


 どちらも相手に損傷を与えることのできない手詰まり感のある戦い。結局我々は無駄な時間を避ける為、魔物と遭遇しても無視して通り抜けるようになりました。


 ロイカから北上しカバン領の探索を始めてすでに7日が経っています。1ヶ月にわたる強行軍での疲労蓄積に、騎馬隊でも進みづらい土地を当てもなく領域主を探す日々。流石に全員の顔に疲労の色が見え始めました。私もレチェ様との遠征でなければ音を上げていたでしょう。


 レチェ様が不満と鬱憤を爆発させるのも仕方ありません。


「オヤジぃ!だからこの領は後回しにしようぜ!俺たちとは相性が悪すぎるって!!!」


「あぁ、分かっている。分かってはいるんだが、後々のことを考えると、カバンは落としておきたい。」


 珍しくお館様の歯切れが悪いですねぇ。たしかに、マーロからリポリ、ロイカ、カバンと4領を抑えれば、飛び地で領を持つより統治のしやすさが段違いでしょう。


「いや、わかるけどよぉ。こっちの手が通じねえ魔物ばっかじゃねぇか。領域主もぜってぇ倒せねぇって。領域主見つけてどう対処すんのよ。」


 レチェ様の言うとおりなのです。領域主はその領の上位個体。雑魚も倒せない我々の手が通用するとは思えません。


「あぁ、それに関しては試してみたい策があるんだ。最悪その手が通じなければ、一度マーロに戻り魔法兵を連れてくるか、北上してヴィエンナを落とすかにに変更する。」


「策?策ってなんだよ。オヤジも俺らも魔法は使えないだろ?やりようがないじゃねぇか。」


「あぁ、確かにあの手の奴らは、聖魔法や光魔法を使うか、属性魔法でゴリ押しするしかない。後は、太陽の光に当てるくらいか。」


 レチェ様が空を見上げます。分厚く暗い雲が空を覆っています。領域主がいる以上、太陽の光はあてにできません。


「レチェにも手伝って貰うことになるかもしれん。ちょっと耳を貸せ。」


「いや、ここで話せばよくねぇ?」


「失敗したら恥ずかしいだろ!いいからこっち来い。いいか、確かにあいつらは剣も打撃もきかない。だが、剣圧で生じる風の影響は受けてるだろ?そこでだな・・・」


 お館様がレチェ様の肩をがっしと掴んで連れて行きました。


なんなのよ!

レチェ様も満更でもない顔して!

私というものがいながら!

二人でイチャイチャするんじゃないわよ!


「いや、オヤジ、そりゃ無理だって!!!」


 レチェ様の大きな声だけ聞こえてきました。


「いや、確かに出来るだろうけどさ!届くとは思えねぇぞ!?」

「えっ!?俺が?いや、まぁ、出来るけど。ぶっつけでやんのかよ、それ!」

「あー、本当にやんのかよ!わかったよ!一回だけだぞ!」


ちょっと聴こえるのが一番気になるのよ!

もっと離れてやりなさいよ!!!


 二人が戻ってきました。レチェ様の表情もどこかイキイキしています。非常に腹立たしい。


「おぅ!おめーら!!!後1日耐えろ!後1日!領域主を探して、いなければ北上してヴィエンナを叩く!領域主を見つけても一度試して無理そうなら離脱だ!分かったら相方のケツ引っ叩いてついて来い!」


「「「「応!!!」」」」ドンッ!!!


 その日も夕暮れまで捜索を続けましたが見つからず。翌日も早朝から捜索を続けました。


 昼過ぎ、遠くに巨大な柱、数十本で支えられた屋根のようなものが見えてきました。あれは、巨大な神殿ですか?近づくにつれ全容が見えてきました。


 村一つを覆えるほどの大きな神殿。その前方に、我々を迎えるように魔物の群れが待ち構えています。


 中央に大型の魔物!領域主ですね!!!珍しい人型の領域主。ですが、肉も皮もない骨だけの身体に黒い布を纏っています。人型の人ならざるものが大きな鎌を構え、宙に浮いています。


「レチェ!手筈通りに!」


「ほんとにやんだなぁ!野郎ども!相方と二人一組!敵の攻撃は避けながら雑魚を引き連れて動き回れ!馬にケガさすんじゃねぇぞ!」


 また、無茶苦茶な指示を出してますね。ですが、戦場のレチェ様はやはり雄々しく美しい。


「おら!分かったら行け!ゲミルは俺と来い!俺のケツでも守っとけ!余裕があったら俺の真似でもしてろ!」


 そうこなくては。16年前からレチェ様のケツを守るのは私の役目。私のケツは・・・。


 お館様、レチェ様が先頭を駆け始めました。馬に大きな差はないはずですが、着いていくのがやっとです。


 領域主が宙で止まり、両手を広げました。浮かび上がる黒色の球体。大型の闇魔法!?が複数!!!無数の球体が駆ける騎馬隊に目掛けて襲いかかってきました。


 いくつかが騎馬隊をかする。地面に落ちた黒球が弾け、地面に大きな穴が出来る。あれを食らったら不味いですね。


「らぁぁあ!!!」


 私の目の前に迫っていた黒球を、いつのまにかそばに来ていたレチェ様の槍が弾き飛ばしました。


「ゲミル!!!よそ見してんじょねぇぞ!おらぁ!誰もケガしてねぇなぁ!チャキチャキ避けろやぁ!」


レチェ様、素敵。


「レチェ!今のやつの技!大技ゆえに動きが止まる!次に同じのが来たらやるぞ!それまでに出来るだけ近づけ!」


「はいはい。ゲミル、テメェの心配だけしてろぉ!ついてこいや!」


 再度二人が駆け始めました。先ほどより、速い。黒球を避ける。避ける。球が尽きたか?奴まで残り100メードあるか?


「メザワリナ ニンゲンゴトギガ サッサトシネ」


 領域主が話す?人型なだけでなく、言葉も?宙に浮いた領域主が停止し、両手を再度広げた。もう一度黒球が浮かび上がってくる。


「レチェ!いまだ!」


「あぁ!オラァ!オラオラォラォラォラ!!!」


 領域主に向けてレチェ様が槍を振り始めました。まだ50メードほどの距離があります。もちろん攻撃は届きません。ですが、斬撃に伴う風が、領域主にまで届き、動きが、止まる?


「ゲミル!お前もやれやぁ!!!」


 私もレチェ様を真似て槍を振り回す。剣や槍の物理的な攻撃は通らないのに、領域主が空中で風に翻弄されている。


 その隙をついたお館様が領域主の真下に。そこから剣を振りかぶり、頭上の領域主目掛けて斬撃を放つ。


 ロイカの領域主を殺した斬撃が大きく広がり上空の領域主に到達しました。いけるか?


 だめです。やはり斬撃は領域主をすり抜けます。


「ハ ハ ハ ナ ナンダ イマノハ ナンダ? オマエラ ヒトナノカ? ダガ アタラナケレバ ドウトイウコトハナイ」


 明らかに領域主が動揺しています。そこへ、斬撃が生んだ風が領域主を襲い、上空に押し上げました。


「オオオオォオォォォォ ナンダ コノ カゼハ」


 風に抗しきれずどんどん上空に舞い上がっていきます。


「レチェー!狙い通りだぞぉ!オラもっとだ!オラ!オラオラオラォラォラォララァラァ!!!!!」


 お館様が剣を振り回し、無数の斬撃を飛ばす。やはり領域主をすり抜けるが斬撃の風が暴風となり、竜巻となり領域主がさらに上に巻き上げられていく。


あのオッサン、何やってんのよぉ!

えっ?人なの?あれ?人なの?

普通の人って竜巻起こせたっけ?

起こせるわけがないでしょうがーーーー!!!


「オヤジぃ!やっぱ高さたんねえぞ!」


「分かってる。レチェ!じゃあやってくれ!」


「上手くいくか知らねえぞ!ちゃんと合わせろよ!」


 いつのまにかお館様の側にいるレチェ様が槍を下段に構えました。お館様が剣を止め、飛び上がる。レチェ様がお館様の足の裏めがけて槍を振り上げる。槍に飛び乗った形のお館様ごと。天高く、槍を振り上げる。


「いってこいやーーー!!!」


 振り上げた槍の力を利用し、お館様が飛び上がる。


えっ?どんだけ飛ぶのよぉ!


 押し上げられた領域主の側まで飛び上がったお館様が性懲りも無く斬撃を放つ、放つ、放つ。領域主がさらに高く押し上げられる。上空でさらに竜巻が巻き起こる。


 とうとう雲にまで達した竜巻が雲を切り裂く。太陽が、姿を見せ、周囲が明るくなる?太陽の光を浴びた魔物たちが断末魔の叫びと共に消えていく。


 雲を突き抜けた竜巻はそのまま上空で止まり、しばらくして消えた。太陽の光を浴びた領域主と共に。


 カバンを覆っていた雲が晴れていく。


 何事もなかったかのようにお館様が上空から降り立った。地面が1メードくらい凹んでいます。


あの高さから降りてきて死なないってなんなのよ!!!

あのオッサンもう人じゃないでしょ!!!


「ほらな?なんとかなっただろ?」


「あれやって第一声それ!!!?普通はなんないの!!!?無茶苦茶なことやってんの!!!なんなの?もう慣れたの?その身体に?」


 いつも非常識なレチェ様が常識的なツッコミをいれています。


「ま、まあ、いいじゃないか。なんとかなったんだし。そんな怒るなよ。さぁ、これで遠征は終わりだ。マーロに帰るぞ!」


 馬上で突き出したお館様の拳にレチェ様も拳をぶつけました。光降り注ぐ、太陽の下で。


つーか、何爽やかに終わろうとしてんのよ!

オッサンに合わせるレチェ様も無茶苦茶でしょ!!!

うちの二人がやばすぎてどんだけょぉーーー!!!!!

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