第15話 ジュリアス教がやばい
宗教ってやつは一つの信仰を信じる奴らが集まった会社みたいなもんだ。うちの会社にもあるだろ?社是、理念ってやつが。うちの理念に共感して一緒に働いてる奴らがいる。そういう意味ではうちも宗教みたいなもんだよ。
いろんな理由で会社で働けなくなった奴ら、世界から弾き出された奴ら、何も信じられなくなった奴ら、そういう奴らの受け皿になって、居場所を与えてやる会社。それが本当の宗教だと俺は思ってる。
金ばっか集ってくるやつら、必要のねぇ人間まで勧誘するやつら、ありゃただの詐欺師だよ。
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5-7 マーロ
統一歴0年5月5日
○ ナローラ・モロジウス
マーロの領都、領主館で領兵として雇用されました。マーロの領都は主の御座所としては残念なほど田舎です。こんな殺風景で汚らしい領は主に似つかわしくありません。スロンから連れてきた同志と共に、主に相応しい華麗で美しい都に変えていかなくては。そのために邪魔になるものは全て敵。排除、排除、排除。
雇われてすぐに魔法兵の隊長に選ばれたのですが、そんなことにはあまり興味がありません。隊長就任を受ける代わりに、キャベリ殿に領内での宗教組織の立ち上げを提案いたしました。
キャベリ殿はその提案をあっさり了承し、協力も申し入れてきました。公にはしていませんが、彼も主の僕に違いありません。こんな爺が私より長く?主の僕に?
今はその場を貸し出しておきます。が、主の第一の僕は私、私にのみ許された称号、私こそが主の忠実な第一の僕、その代表であるべきなのです。あの爺もそのうち排除、排除、排除。
スロンで目覚めた後、主が私に全てを与えてくださりました。主、自ら私に名前を与えてくださり、使徒に選んでくれたのです。そう、私は主に選ばれた。主のためにこの命を使い、主の命に応えなくてはいけません。その邪魔になるものは全て排除、排除、排除。
主が私に命じた役目は
・宗教を起こすこと
・各地に教会を作り転移魔法陣を設置すること
・教会に時計を設置し、民に時を知らせること
・暦を作成し公布すること
・民の助けとなること
この5つとなります。
わかりますでしょうか?まさに先兵。主がこの世を支配するための準備。民の助けとなり信用を買い、信用を信仰に変え、思考を支配する。主のための宗教を作り、信仰を支配し、時計と暦を公布し民の時を支配する。主が降臨される前に、主の支配を確立するのです。
道を作る?民を外敵から守る?そんなものはゴミでも出来ます。主は私にしか出来ない、最も難しい、支配の準備を託されたのです。嗚呼、この命に替えても、きっと全うしてみせます。そのために邪魔になるものは全て排除、排除、排除。
まずは主の宗教を広めるために邪魔な他の宗教を滅ぼしましょう。主に恨みが及ばぬよう、密かに秘密裏に。いいですね。とてもいい。そうして主の救いに邪魔になりそうな書物や思想も全て無くしましょう。民など主さえ信じ、主に尽くすことだけを楽しみにすれば良いのです。そう私のように。私がこんなに充実した楽しい日々を送っているのです。きっと民も喜んで受け入れてくれるでしょう。受け入れない民は、排除、排除、排除。
突然目の前を光が埋め尽くしました。嗚呼、主の降臨です。主が私の目の前に、私のためだけに。
『怖いから!!!怖いからやめて!!!深読みしないで!!!支配とか排除とかしなくていいから!』
主の声が、私に。私は何かを間違ったのでしょうか?
はっ!つまり、主は私の間違いを正しに?私のためだけに!つまり、常に私を見ていて下さる!なんと素晴らしい!
ですが、私は間違いを犯したのです。後で自身に鞭打たなくては!棘の生えた薔薇の茎を集めて、私の背中を鞭打たなくては。間違えた私自身への罰を主に見ていただかなくてわ。
『いや!だから怖いから!!!そんなことしなくていいから!まだ何もしてないんだから。とにかく!支配とか気にせず、この世界の人たちを救うために色々考えてくれればいいから。時計も暦もあったほうが便利なだけだから。』
なんと!では、本当に?ただ民を救うだけ?民のためにただ与えればいいと?
『そうだから。普通に宗教作って奉仕活動とかしてくれればいいから。やりたくなかったらやらなくてもいいし。あ、あと、他の宗教の排除とかもやめてね!』
嗚呼!つまり主は、自身を信じないものも!すべからく救うと!なんと、慈悲深い!支配や排除のためではなく、安寧と共存のためだけに、その御力を使われると。
『いや、そんな大袈裟じゃないんだけど・・・まぁいいや。どう?出来そう?出来ればお前も自分のやりたいこと見つけるなり、楽しみながら皆んなを助けて欲しいんだけど?やれる?』
「主の御心のままに!」
嗚呼、涙が溢れてきます。大いなる慈愛の心。民だけでなく私の心も救おうとする。私のこの命を捧げます。すべての民に、主の偉大さを理解してもらえるよう!全身全霊をかけて!!!そうです!まずは主が降臨されるに適した、荘厳で華麗な教会を!いえ、主の記憶で言うところの大聖堂を建てなくては!主の慈愛を皆に届け、今の私の感動を共有するのです。すぐに動かなくては!まずはあの爺、キャベリ殿に土地を用意させて、土魔法を使えるエルフたちを集めましょう。我が主の為に。
『あかん!だめだ、こりゃ!』
○名もなき村人
マーロの領都で広まっでるジュリアス教?っでのに誘われただ。なんか、最近いろんな所でエルフだちが飯配っだり、ただで怪我を治しだりしでるらしい。
それがなぐどもナローラ様っでいう教祖様?がものすげぇ美人のエルフらしぐ、顔見て声聞ぐためだけに集会に行っでる男連中もいるみでぇだ。
オラには小難しい話はわかんねぇだが、なんか、せいいっぺえ頑張って生きで、誠実でいましょう。そしだら神様がすぐってくれる、ぐれぇの簡単な話らしい。
なら簡単じゃねえが。オラがいつも通りにしでだらいいってこどだろ?それで怪我治したりしでぐれるんだろ?なんとなぐジュリアス教に入っだほうが良さそうだべ。特になんぞ信仰があるわねでもねぇし、美人の教祖様に会えるなら、今度の集会さ行っでみっがな。
5-7 マーロ
統一歴0年5月12日
○ キャベリ・オルファーニ
先日、魔法兵隊隊長のナローラが教会建設の許可を取りに来ました。シーザー様が動かれているようですし、すぐに許可を出しました。領都の南、領主館の対面に開発中の土地が余っていましたので、その土地も提供することにしました。
最近領都で広まりつつあるジュリアス教の活動拠点として使用するのでしょう。ナローラが教祖を務めるジュリアス教は民からの評判もよく、怪我の治療や、貧民への施しなど非常に有意義な活動をしてくれています。シーザー様がモデルの信仰のようですし止める理由がありません。
教会には時計を設置するとのことでした。領都の民は日時計で大体の時間を把握していますが、領主館にある時計ほど正確ではありません。教会で民に時を共有してくれるのであれば願ってもないことです。同時に暦の公布もしてくれるそうです。正確な暦を毎年発表してくれれば、作付けなどの助けになるでしょう。
移民を率いてきた隊長たちが優秀で本当に助かります。私も負けてはいられません。引き続きお館様、シーザー様のために尽力して参りましょう。
ゴーン
何事でしょう!大きな鉄を叩いたような音が聞こえました!
ゴーン
またです!今は?朝!?どうやら仕事をしたまま眠っていたようです。
ゴーン
また?なんの音ですか!?
「キャベリ様!!!大変です!窓から南の方を見てください!」
ゴーン
「朝から何事です!この音はなんですか!?」
「それを知る為にも窓から外を!」
わけもわからず外を見ます。南に?何が?
はっ?なんやあれ!?
神殿!!!?
にしてはデカすぎや!!!?
領主館よりデカいやないかい!!?
真ん中に見たことないほどの大きさの時計?
の上の鐘が鳴ってる!?
ちょうど音が7回鳴ったところで音が止まりました。両脇に2本ずつ、4本の尖塔を備えた巨大な教会。その中央備え付けられた時計の短い針が7の位置にあります。
やってもいいって言ったけど!
やることデカすぎい!!!
そして早すぎぃ!!!
ジュリアス教やべぇ!!!!!
またシーザー様ですね。もういいです。驚きすぎて麻痺してきました。どうぞ好きにしてください。
でも、どうか、お手柔らかに!!!
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