第13話 道がやばい
「奇跡って言葉があるだろ?
奇跡ってのはな、人間が手を抜かず、小さなことを地道に飽きることなく何年もコツコツとやり続けた結果なんだよ。
運良く神様に与えられるものだって思ってないか?違うんだよ、人間が起こすんだよ。
だから俺は人の嫌がる地味な作業をやる奴が好きなんだ。間近で奇跡を拝めるかもしれないんだ。あたりまえだろ?」
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統一歴1308年6月30日 記
○ポルト・ランケウス
シーザーとバルディの史書の編纂を始め、あっという間の10年であった。各地の伝承や口伝を集めることで当初の狙い通りバルディの功績が浮き彫りになりつつある。
今回筆を取ったのはバルディに関して記載するためではない。史書には、その目的と大きくずれるため、大きく取り上げることが出来ない。だが、各地で調べていくうちにその偉業の大きさが到底無視できないものであることに気づいた、ある人物に関して、せめて私の日記の中で記しておきたい。
マーロの生活基盤を作った男
ピアス・ドルニウス
歴史好きや、史跡の探索が趣味の人間には馴染みのある名かもしれない。しかし、より詳しく調べていくうちに、その名が過小評価されていることに気づく。
世間では生涯をかけてユリウス朝マーロ帝国の道路を建設した男、として認識されている筈だ。
断言しよう。
彼の功績はそんなに生優しいものではない。
生涯をかけてマーロ帝国の道路を建設した。
確かにそうだ。だが違う。
道路を建設し始めて、たった30年で
すべての領土に
全ての領都と村を繋ぐように
当時最も最新鋭の道路と
畑と水道と
後に街となる休憩所を
たった100名の兵士を連れて
建設したのだ。
あえて崩した言葉で言わせてほしい。
この道がやばい。
特筆すべきは、その全てが1300年経った今もなお現役で使われている、という点であろう。
ピアスの作った道路は三層構造になっている。道路幅8メードを2メードまで掘り、最下層に大きめの砂利、その上に細かな砂利と粘土を混ぜたもの、さらにその上に大きな石を平らに切ったものを乗せている。今で言うところの石畳の隙間には当時最先端の漆喰が流し込まれ、さらに土魔法で強化されていたようだ。非常に頑丈な作りをしており、今でも劣化はあるものの通常道路として使用に耐えている。
道路幅8メードは各方向に二車線ずつ使用する様に設計されており、ちょうど馬車が2台、計4台が同時に行き違っても問題がないようになっている。中央がごく最小限に盛り上がり勾配がつけられ両端には排水溝が設けられている。人が歩けるように幅2メードの側道が設けられ、その脇には魔物避けの1メードほどの壁まで築かれている。
これほどの道をたった100名で何万メードも建設していったのだ。途中に川や山もある。川には橋をかけ、山は切り抜いた。道はまっすぐであるべきだと言うかのように。
そう、まっすぐなのだ。彼が作った道は。数メード先ならまっすぐも作れよう。それが何千メード先ならどうだ?一直線の道を作るのは非常に難しい。いや、不可能な筈なのだ。であるのにどうやってか分からないが、それをやってのけたのだ。
道路を作っただけではない。1万メードごとに休憩所を作り、あたかもその周辺に人が住むことが確定事項のように周囲の広大な土地を畑として使えるように開墾までしていたのだ。後に休憩所は村になり、街になる。
彼が活動を始めてからマーロの税収は大幅に成長している。当たり前なのだ。道は人の動きを活発にする。動いた人が住む場所まである。マーロがこの後栄えていくのは確定事項なのだ。
史家の中にはピアスが戦闘のために道を作ったと評するものもいる。確かにそういった側面もあるがあまりに浅慮であろう。
彼はマーロの民の生活基盤を作り上げたのだ。
シーザーとバルディの史書を書き終えたら、是非ピアスの史書も書き上げたい。これほどの功績がありながら、ピアスに関する史書は少ない。生年どころか没年も不明のままだ。
彼を調べるということは、全てが謎に包まれた「栄光の流民」を調べることでもある。マーロ初期に変革をもたらした5000名の流民、ピアスはその中の1人だからだ。史家として最高の題材だ。長生きしなくては書き残せまい。
私もピアスを見習い健康のために地道に努力をしよう。まずは寝る前の酒をやめなくてはな。
4-6 マーロ
統一歴0年5月1日
○ ピアス・ドルニウス
道を作る。
主に与えられた私の使命だ。
スロンで目が覚めたとき、私は空っぽだった。何もないただの器。喜びも悲しみも、何も考えることのない肉の塊でしかなかった私に、主は全てを与えて下さった。
頭に流れ込んでくる知識、主の思考、様々な力、主を知ることで空っぽだった私の中に人格が形成されていった。主が私に命を与えたのだ。
『お前の名は、そうだな。ピアスでどうだ?ピアス・ドルニウスにしようか。』
名をいただいた際、身体が光り大きな力が流れ込んできたように感じた。私は主の僕、使徒になったのだ。
『ピアス、お前には領内に道を作って貰いたいんだが、お願いできるか?』
主が使命を与えてくださった。望外の悦びに身体中が震える。
『別に無理強いするわけじゃないんだ。お前の人生だから、他にやりたいことがあるなら、見つかったなら、それを優先してくれ。ただ、まぁ、手伝ってくれたら嬉しい。』
主の命に否やあろうか。命令してほしい。私は主の僕なのだから。
「しかと承りました。」
『そうか、ありがとう。地味な作業だ。嫌になったら言ってくれ。』
今、マーロの領都からナーブの領都を結ぶ道を作っている。主に与えられた土魔法と土人形を用いて。共に作業をする100名もスロンからの同胞で主から土魔法と土人形を与えられている。
同胞たちも話すことなく黙々と自身の作業を行なっている。土を掘り返し、土魔法で砂利を作り、粘土を作り、漆喰で塗り固める。淡々と静かに。
『お前たちが作った道を何千、何万という人々が使い、その人たちの生活を支えるんだ。それって素晴らしいことだと思わないか?』
作業をしながら、主の言葉を頭の中で反芻する。感情の乏しい私にはまだよく分からない。きっと、この使命をやり遂げたとき、意味がわかるのだろう。
○名もなき村人
おら、夢でも見てただか?今、目の前で何が起こっただか?10メードくらいのでっけー土人形がわんさか現れで、土さ掘り返していっだと思っだら、10人ぐらいの人間が砂利さ引き詰めていっただ。その後にも10人ずつ通りすぎでったと思ったら、目の前に立派な道路ができてるだ。
おら、何言ってんだ?いや、でも、目の前にさっきまでながっだ道路があるぺさ!すかも、ずーっと向ごうまで続いでる!?これ、夢だっぺ?夢だよな?
4-6 マーロ
統一歴0年5月3日
○ キャベリ・オルファーニ
5000の移民のうち300を領兵として加えました。シーザー様が手回ししたもの達なので当たり前なのですが、非常に有能な集団です。特に隊長格はお館様に匹敵する力を持っているような気がします。
なんにせよ、戦力の補強は有り難いですね。
「キャベリ様!工兵隊がナーブに着いたそうです!」
伝令が慌てたように伝えてきました。何を慌てているのでしょう。ナーブに着いた?何を言っているのでしょう。まだ3日も経っていないじゃないですか。道路を建設しながら進んでいるのですよ?
「道も作らずにナーブに着いたと言うことですか?情報は正確に伝えなさい。」
「いえ、私もおかしいと思って確かめたのですが・・・・確かに道ができております。調べていませんが、多分、ナーブまで。」
「そんなわけないでしょう。まったく。面倒です。私が見てきます。」
なんでやーーーー!!!!!
できてるーーーー!!!!!
道ができてるーー!!!!!
めっちゃ立派なのがずーーーーーーーっと続いてるー!!!!!
うわ、スッゲェ歩きやす!!!
この道、歩きやす!!!
地平線まで続く道路を見ながら声の限り叫びます。
あの工兵隊なんやーーー!!!
シーザー様!なにしてんやーーー!!!
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