第12話 俺がやばい

「HPに載せている昔の社長の写真ですが、お世辞にも洗練されているとは言い難いです。写真の撮り直しを進言いたします。」


えっ?なんなの?この秘書?

秘書だよね?なんでいきなり喧嘩売ってくるの?


「あのな。自分の過去を黒歴史だなんだって封じて隠してどうするの?その過去も俺を作った一部なんだから堂々としてればいいんだよ。」


「はぁ。ですが、マジでダサいんで。」


なんなんだよぉ!こいつぅ!もう!!!


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5-6 リポリ

統一歴0年4月26日

○バルディ・ソリニウス・マーロ


 義父殿との約を守るため、マーロの南リポリへ兵を進めた。今回の3領の平定はとにかく速さが肝心となる。魔物の討伐や領の安定は後回しとし、領域主の打倒のみを行う。


 マーロから南に降りリポリを、その後東に向かいロイカ、最後に北上しカバンを征する予定で進む。全行程を1ヶ月、30日で行うため、1領10日で進まなくてはいけない。


 連れてきた兵は騎馬隊50騎のみ。領域主を一撃で討伐し離脱するつもりだ。


「オヤジィ!アッチーよぉ!」


 騎馬隊を連れて行くため、必然、隊長であるレチェもついてくることになる。リポリに入ってから気温が上がりずっとこの調子だ。


「レチェ、余計に暑くなる。少しは黙ってられないのか。」


「いや、だってよぉ。リポリに入ってから3日、ずっとこの調子じゃねぇかぁ。暑いし、ジメジメするし、出てくる魔物は弱っちい兎だし、落とす金はしょぼいし、良いことなしじゃねぇか!」


 結局はこれだ。魔物が弱いため、やる気が出ないのだろう。リポリの魔物は兎型のようで、領内に入ってから何度も遭遇している。大型の兎だが恐ろしさよりも可愛さが先行してしまい気が抜けるのは理解できる。


「昨晩泊まった村でこの辺りでの領域主の目撃が確認されている。実際魔物も大きくなってきているようだ。あまり気を抜かずに警戒してろ。」


 リポリの領域主はマーロよりも格下、石碑には格Dと刻まれている。村での話では領域主は角の生えた大型の兎であるらしい。


 確かに兎と狼では迫力に差があるが、かなり大型の兎であるらしいので油断は禁物だ。たとえ、俺自身が強くなろうと、兵が強くなろうと、戦いの場では何が起こるか分からない。


 親父やお袋が死んだのも戦闘中の油断からだと聞いている。


 22年前、西方のとある領のそこそこデカ目の村で、親父が団長をしていた傭兵団『鉄腕』は、周囲の魔物の討伐を請け負った。鉄腕は当時から腕利きとして引っ張りだこで、領域主でなければある程度の魔物を狩る実力がある集団だった。


 当時10歳、親父の子供で、自分で言うのもなんだがそれなりの才もあり、周りから武の鍛錬を施されていた。団の同世代、幼馴染たちの中で体格、才能ともに頭ひとつ抜けていた俺はかなり増長していた。


 あの日、魔物の討伐で初陣を飾りたいと両親に我儘を言ったの覚えている。子供の我儘に苦笑で応え、もう少し大きくなれば連れて行ってやる、今日は早めに帰ってくると約束をしてくれた両親。


 不貞腐れた俺は見送りもしなかった。


 夕方、幼馴染たちと剣の鍛錬をしていた。周囲が騒がしくなり、団が帰還したことを告げる。約束を守って早めに帰ってきたんだな、と思ったが迎えには行かなかった。


 キャベリが息を切らせながら走って近づいてきた。顔は血と涙で濡れている。


「ご両親が亡くなられました!!!」


 キャベリの言葉の意味が理解できず思考が真っ白になった。そこからは怒涛のように時間が過ぎ去る。親父のいなくなった団は瓦解し、実力者たちがどんどん抜けていった。


 幼馴染の1人が去り際に言った言葉が脳裏にこびりついている。


「お前が!我儘を言わなければ!!!団長は死ぬことはなかった!お前が急がせるから!全部、お前のせいだ!」


 今なら俺の我儘と両親の死に因果関係はないと分かる。だが当時の俺にはその言葉を受け止めるだけの力はなかった。深く傷つき、周囲に自身の願望や努力を見せないように振る舞い、飄々となんとなく流れるように生きることを選んだのだ。妻に出会うまで。


 シーザーや、カリーナに同じような想いをさせるわけにはいかない。今回の遠征、最優先は俺と兵士たちの命。一切の油断は禁物だ。


「オヤジっ!何ボーッとしてんだょ!囲まれてんぞ!」


 レチェが叫ぶ。前方から人間4,5人分ほどの大きさの白い球体が転がって突進してくる。少し小さくなるが左右斜め前からも、後ろからも迫ってきているようだ。レチェ含む騎馬隊も別方向から迫る球体に各自対応しているようだ。


 最も大きな前方の球体が迫る。馬から降り、剣を抜く。かなりの大きさだが避けずに衝突の瞬間上段から切り下げる。


 両断した半球が血を撒き散らしながら左右に転がる。右斜め前からの球体は蹴り上げ時を稼ぎ、左斜め前からの球体を袈裟斬りにした。

 後方からもう一つ迫ってきている。先程蹴り上げ落ちてきた球体を、後方のものに向けて蹴りつける。二つの球体がぶつかり動かなくなった。


 血を流して動かなくなった球体を見る。どうやら兎型の魔物が丸まり突進してきていたようだ。かなりの大きさで、リポリでも上位種に当たる魔物と思われる。


「おい!オヤジぃ!空見てみろ!」


 レチェが何か言っている。戦闘中に?空を?何を言っている。すでに油断で先制を受けている。上位種が来たということは領域主に捕捉された可能性が高い。まだ攻撃が続くかもしれんのに。


「いや、オヤジぃ!さっさと見ろよ!こっちはあらかた殺し終わってっから。」


「レチェ!黙れ!近くに領域主が迫っているはずだ!俺の勘がそう告げている!警戒を緩めるな。」


「いや、だからぁ!その領域主をあんた、今、倒したんじゃないの?さっさと上見ろよ!」


 はっ?何を言ってるんだあいつは。領域主ってやつはもっと強く威圧感のあるものだろ。空がなんだってんだ。


 空を見上げると、リポリを覆っていた雲が薄れ、太陽が直に現れ始めた。領域主打倒後の現象だ。


あっれーー???

えっ!俺が倒したの?

えっ?どいつ?

どいつが領域主だったの?

両断?蹴り上げ?袈裟斬り?


「わ、分かっている。まだ死んでいないかもしれない!警戒を解くんじゃない!」


 なんとか威厳を保つため言い返す。分かっている。無理がある。ここから挽回は不可能だ。


「いや、最初の両断のやつだろ?生きてるわけねぇだろが!ほら、リポリは解放だから!カッコつけてねぇで、次の指示くれよ!」


 両断のやつか・・・全然気づかなかった。


うん、分かった。

このくらいの領域主なら油断してても大丈夫。

俺、思ってる以上にやばい!!!

まだまったく本気出してないもん。


「リポリの領域主は滅びた!鬨の声を上げろ!」


「「「「応!」」」」ドンッ!!!!


「進路を東へ!ロイカに進軍する!ついてこい!!!」


 失った威厳、次で取り返さないと。レチェの視線が痛い。

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