第11話 うちの料理がやばい

統一歴62年3月12日

○食聖 ロメオ・サンディウス


 お前ら、ただ漫然と飯を食ってないか?


 食事ってぇのはそういうもんじゃねぇとおいらは思ってる。ただ、腹を膨らますだけ、生きる為に食うのはただの『食』だ。


 誰かと一緒に楽しむ、好きな物を上手く料理して美味しく食べる、誰かの為に料理をする、こういうのが『食事』ってものじゃないのか?

 

 おいらは食事に救われた。だから、その恩返しを食事にしたいんだよ。


 知ってたか?本当の食事は腹だけじゃなく、心まで満腹にするんだぜ?


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4-6 マーロ

統一歴0年4月22日

○ ロメオ・サンディウス


 腹ぁ、へったぁー。


 もう、全く動くこどができねぇ。なんどが安全なマーロの領都についだのに、道の端っごで休んでだら動げなくなっだ。おいら、このまま死んじまうんだろうなぁ。おいらの人生ほんど、なぁーんもいいごどなかっだなぁ。


 おいらの故郷はここよりも、ずーっと北にある寒さの厳しい領にある小さい村だったらしい。魔物が強く、人間は隅っごで震えながら生活してるような厳しい故郷。


 ちっちゃかったからほとんど覚えてねぇんだが、あどから聞いた話だど故郷の村は魔物に襲われて滅びたらしい。


 物心着く頃には、おっ母と村の生き残り10人程度で旅してだ。あったがくて、安全な場所を探しで何年も何年も。どの土地に流れても、余所者のおいらたちが安心して住める場所はながった。


 いっづも腹を空かせてるおいらに、村のみんなは優しくで、自分だちも食ってねぇのに食いもんを食わせてくれだ。おいらの覚えているおっ母もガリガリに痩せてたのに、それでも自分の食いもんを食べさせてくれる、優しいおっ母だった。


 3年くれぇ前に、そのおっ母が死んだ。突然襲ってきた魔物からなんとか逃げ切って安心しでた時に、急に胸を押さえて、苦しそうに。


 おいら、なぁんにもできなかった。おっ母が苦しんでる間も、みんながおっ母を埋めてる間も、なぁんにも出来ずに、だだただ腹が減っだなぁって思ってた。


 おいらの身体ぁ、なんかおかしぐなったのか、それからずぅーっと、何食ってもずーっと腹が減っでる。食いもんが無げれば木の根っこさ食べて、その辺の草も食って、泥も食った。


 腹は膨れてても、ずーっと腹が減ってた。


 村のみんなはそんなおいらを気味悪がっていつのまにかいなくなっでだ。みんなは悪ぐねぇ、おいらがおかしいんだ。


 そこから1人で歩いて歩いて歩いて、領主がいるマーロになんとがたどり着いだ。でも、どうやらこごらでおいらも終わりみてぇだ。


 だんだん考えるのも億劫になっできだ。腹が減ってるのがも分からなくなっできだ。なんか、気持ちよくなっできてる。なんか、眠い。もうすぐ、おっ母と会える気がする。美味いもの2人で食えるがなぁ。


 


 すげぇいい匂いがする!!!目の前に、いい匂いがする何かがある!さっぎはちっとも動かながった手が動いてそれに触れた!


 ふんわりとあっだかぐて、柔らかい。


 おっ母!?


 目を開けて見てみる。これは、なんだ?手からはみ出るほどの丸くて、柔らかい、パン?


 口まで運んで一口噛みちぎってみる。


 喉から鼻を甘くて優しい香りが包んでいぐ。カラカラだった口の中に唾があふれでぎだ。


 うめぇ。

 うめぇ。うめぇ。


 こんなにうめぇもん初めで食ったのに、懐かしくて、柔らかくて物凄くうめぇ。なんでがわがんねぇけどおっ母の顔が思い出せた。


 おっ母、こんなうめぇもんをおっ母にも食わせてやりだかったぁ。


「おっ母・・・」


 持ってだはずのパンはいつのまにか全部食べちまったみたいだ。腹はすげえへっでるのに、腹がいっぱいだ。心にあった飢えがすっがり消えでいた。



 突然、頭の中にいろんな料理の作りかたが流れごんできた。さっき食ったパン、酵母?を使って膨らませた、牛の乳や牛の乳の脂をたっぷり使ったパン。言葉の意味はわがらねぇのに、作り方だけが頭に浮かんでぐる。


 なんだこれ?おいら、やっぱりおかしなままなのか?


 目の前に強い光を放つ何かが浮かんでる!?さっきまでこんなもん浮かんでなかった!なんだ?これ?頭に言葉が流れごんできた。


『お前には料理の才がある。領主館に向かい、料理人として雇われ、世界中に美味いもの広げてみせろ。』


 なんだぁ?何言ってんだ!?料理人?料理を作るやつのごとが!?おいらが!?なんで!?ていうか、こいつなんだ!?神様ってやづか!?


 おいらに料理の才能?あるの!?あんな美味いもの、おいらが作れるの?おいらが作っていいの?おいらは生きていいの?


 おっ母!生きていいの?


 光が消えた後に、さっきのパンがたくさん入った袋が落ちでいた。いつのまにか、身体が綺麗になっでいで、疲れや飢えもなぐなっていた。


 おっ母、会うのはもうちょっと後でいいかな。おいら、こっちでやりたいことができちまった。


 身体を起こして、立ち上がる。身体が嘘のように軽い。パンを齧りながら領主館への行き方を聞いて回った。



 領主館に着ぐと、家宰をしているっていうキャベリっておじさんが迎え入れてくれた。


「話は伺っております。あなたにはシーザー様の料理人になってもらうために、これから働いていただきます。」


 おいら、なーんも言ってねぇのに、雇われたけど?どういうこど!?シーザー様って誰!?


 そのまま、ベッドや箪笥のある綺麗な部屋に連れて行かれた。


「ここがあなたの部屋です。服を用意しますので、水を浴びて綺麗にしてきてください。」


 えっ!?おいら、ここに住んでいいの?どゆこと?おいらに何が起こったの???おいら、ここで料理人になれるの!?まじか!!!神様!!!


4-6 マーロ

統一歴0年4月23日

○ キャベリ・オルファーニ


 昨日、シーザー様から、1人の子供を雇うようにと指示を頂きました。現れた子供は痩せて貧相な身体にボロを着た孤児のようです。話し方も癖があり、マーロの出身では無い流浪の民のそれでした。


 この子を料理人に?疑問が残りますが、シーザー様の指示は絶対です。館に仕える料理人に弟子とするように預けておきました。なんの意味があるか分かりませんが、指示は完遂したと考えてよろしいでしょう。


「キャベリ様!キャベリ様!入室の許可を!」


 応える前に館の料理人が入ってきました。いつも落ち着いた男なのに珍しく焦っていますね。


「どうしたのです?珍しいですね?」


「キャベリ様!あの子供!私には、弟子にできません!」


 どういうことでしょう?何かあったのでしょうか?素行が悪そうには見えなかったのですが?


「私をあの子供に弟子入りさせて下さい!!!」


はっ?今なんて?40過ぎの大人が今なんて?


「とにかく!食事場に来て下さい!」


 よく分かりませんが真相を知る為ついて行きましょう。


 食事場ではカリーナ様がお一人で食事を摂っています。いえ、言い換えましょう。食事を貪り食っております。お美しい顔で小さな口でありったけの料理を口に含んで貪り食っております。頬がパンパンに膨れてリスのようです。


「これは、なにが起こっているんでしょう。」


「あの料理!全てあの子供が作ったものです!」


 料理人の言葉に耳を疑います。あれだけの数の料理を?あの子供が?


 シーザー様、また何かしましたね!!!


「キャベリ様も、食べてみてください!こちらにご用意しますので!あの子は!!!あの子は、天才だ!」


 まだ食事の時間ではないのですが、仕方ありません。食べてみましょう。目の前に並べられた料理、パンのような物を口に入れてみます。


うんめぇーーーー!!!

なんや!これ!?

うんめえぇえええ!!!

芳醇で芳しい香り?

鼻腔を抜けるこれは?牛酪の香り?

そして驚くほど柔らかーーーーい!

ほんま、これは、香りと味の宝石箱やー!


 両手に持っていたパンはいつの間にか口の中に収まり、鶏肉?の料理をいつのまにか切り分け口に運んでいる自分に気がつきました。これはまずいです。落ち着いて、ちゃんとパンを飲み込んでから、肉料理を口に。


うんまーーーー!!!

これは、ほんま

うんまぁぁあ!!!

カリッと焼かれた皮面にふっくらとした肉から肉汁が口の中に広がり、脳味噌に直撃!

肉から漂う絶妙な香草の香り!

ほんま、これは肉の旨みの合唱隊やー!


 はっ、しまった、また我を忘れてしまっていました。この料理は本当に危険ですね。ですが、あの子供がいれば、毎日このように美味しいものが食べられる。いえ、マーロの料理がどんどん美味しいものになるでしょう。


 なんにせよ、うちの料理がやばい!

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