第9話 幕間 会計官の毒吐く

「新規事業のために銀行に融資の依頼を出しますか?当社ならいくらでも借りられると思いますが?」


 秘書の山下が賢しげに進言してくる。


「融資?借金だろ?自分で金を準備できなくて何も分かってねぇ銀行のど素人に口出されるとか俺はゴメンだね。自由に事業を動かせねぇなら新規事業なんかやめちまえ。」


 俺の言葉に山下が困り顔だ。


「はぁ、カッコつけてもお金は出てきませんが?」


 なんでこの女いちいち喧嘩売ってくるの?


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4-6 マーロ

統一歴0年3月26日

○ジモディ・ヴァンニウス


 領域主の討伐が終わり、一時騒然としていた領内に落ち着きが取り戻された。


俺以外はね!!!

こちとら討伐にかかった経費の支払いにてんやわんやだよ!


だいたいな!!!

領域主の討伐だからって370人もゾロゾロ引き連れてく意味あんのか?

ないよね!!!絶対!

370人の糧食、移動に必要な金!用意すんの誰だよ!


お!れ!だ!よ!


あの糞領主、強いんだから一人で行ってこいよ!


 うちの領で真っ当に数字を理解していて、唯一俺の味方だったキャベリ様が何があったのか急に敵に回った!今回の370人ゾロゾロもキャベリ様の提案らしい。


味方いないな!

もうこの仕事辞めようかな!!!


 マーロの会計士(金にまつわる雑用全部押し付けられる人!)にさせられて、はや8年。


完全にあの糞領主に騙された!!!

何が三食昼寝付き高給を用意だよ!

三食も高給も事実だが、昼寝どころか夜も寝る暇がないわ!領主館の金勘定全部一人でやるとか聞いてないわ!


 今日の夕方には討伐時の糧食や秣、武具の購入費用を回収しに御用商人がやってくる。通常ならそこまで無理をしなくても払えるような額だが、領域主の復活を知った領民が他領に移る行動をとったため税収が減っている。予想ではかなりギリギリだ。


 地下にある倉庫と金庫の状況から把握する必要がある。この世界はどういった仕組みか分からないが領内の収穫物の3割、商人の利益の2割、領内で倒された魔物から落とされる貨幣の3割が自動的に倉庫と金庫に収集される。これら税収により領主館は維持運営されている。


 一度どういった仕組みか調べるために農民や商人に確認したが、収穫物なら収穫したあとすぐに、きっちりと3割突然消えるようだ。商人だけでなく宿屋などでも、きっちり2割、勝手に計算された利益から消えているそうだ。便利だが、仕組みが全くわからん。こういうものとして納得するしかない。


 倉庫と金庫は領主であるお館様と家宰のキャベリ様にしか開けられないため、キャベリ様に同行してもらう。


「やはり、ギリギリ足りませんね。」


 金庫の中に転がった2枚の金貨と数枚の銀貨に銅貨を見てキャベリ様に告げる。


「支払いはいくらなんですか?」

「3デナスです。これでもかなりまけてもらってます。」


 俺の言葉にキャベリ様の顔が曇る。


「数日ほど待ってもらえれば、支払えるんですがねぇ。」


「前回の支払いも待たせているんです。あまり続くと商人からの信用を失ってしまいますよ?」


 領主館の運営は商人に見放されると立ち行かなくなる。それだけは避けなくてはいけない。


 だいたい毎月領の税収は120デナスくらいあるのだ。これだけあれば維持運営はそんなに難しいことじゃない。


だが!あの馬鹿領主!

毎月領軍の兵一人当たりに平均して20アスも支払っている!

それだけで月に74デナス吹っ飛んでんだよ!

俺のように領主館で働いてる奴らの給与を払ったらほとんど残らねねぇだろうが!


ねぇ、なんかあったらどうすんの!?

蓄えなしでどう乗り切るつもりなの?あいつ?


だいたい腹立つのが、脳みそに筋肉が詰まった領軍の兵士たち!!!

あいつらが何故かモテんだよ!!!

俺の方が給与貰ってるよ?

何もなければタダ飯食らいのあいつらよりよっぽど役に立ってるよ?


なんで俺は今まで彼女が出来たことないの!!!?

見た目が悪いからだよ!!!

分かってるよ!!!

言わせんな!


 仕方ないので今回も少しだけ支払いを待ってもらうように商人に頭を下げるしかないだろうな。


なんで俺が!!?

俺、あの御用商人嫌いなんだけど!

性格とか見た目じゃなく、声がね!!!

なんか生理的に受け付けないの!

あのダミ声!


 心の中で毒づきながら自室に戻り、商人が来るまで会計報告書の作成に筆を走らせていると目の前に光の塊が現れた!眩しい!目を開けられない!が、決して耐えられないほどではない。


 『ジモディ、ジモディよ。

  神のお告げである。

  これを使って領主を助けよ。』


 目の前にドサっと何かが落ちた音がした。


 『なんか、すまん。近いうちに可愛い女の補佐を用意するから頑張れ。あと、仕事を早く回せる能力もあげるから、まぁ、とにかく頑張れ。』


えっ?なに、この神様!!?

なんで同情されてるの!?

えっ?そんなに可哀想に見えたの!!?

というか、それより女の子紹介してくれるの!!?

マジで!!?


 眩しさに目が慣れできたので目を凝らすと光の中心に赤子が見えた。


あっ!これシーザー様だわ!!!

お館様、もといあのボケ領主の息子のシーザー様だわ!!!

えっ?神様のフリして何してんの!!?なんで!!?


 光が収まり、部屋に落ちた物を見る。両手で抱えるほどの布袋が5つ。恐る恐る開けてみると中にぎっしりと金貨が詰まっていた!


シーザー様、マジ神だわ!!!

糞領主の数百倍分かってるわ!!!

俺、シーザー様についてくわ!

もう、早く領主交代してほしいわ!!!


そんなこと一切合切置いておいて、シーザー様!!!

女の子お願いしますね!!!

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