第6話 うちの孫がすごい
長女が孫を産んでから、人を愛する楽しさを味わうことができている。なんの使命感も義務もない。ただ愛することができる存在。子供たちはいい顔をしないが、俺が俺の孫を甘やかして何が悪い!
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4-6マーロ
統一歴0年3月13日
○キャベリ・オルファーニ
お館様にお子が産まれました。産まれると同時に強力な治癒魔法を使ったことから神子なのだと推測できます。お館様も小さい頃から頭の回転が早く、身体能力も高かったですが人の域を出るものではありませんでした。シーザー様は人の領域をすでに越えられている。
優秀な領主に、優秀な後継ぎが生まれた。そろそろ私も引退を考える頃なのかもしれません。
16の頃にお館様の父上、ソリーニ様に拾われなければとうの昔に死んでいたでしょう。多少の学と強くもない魔法を使えるだけの私を、ソリーニ様はなぜか弟のように可愛がってくれました。
『鉄腕』という傭兵団を率いていたソリーニ様に、命の借りをお返ししようとお仕えしたところ、数年で傭兵団の副団長に指名されていました。
傭兵団には魔力で身体強化をした戦士や魔術師など、女性も多数所属していました。その中の一人、赤髪の女性戦士を見染めたのはいつの頃だったでしょう。特別美人な訳ではありませんが、笑うと愛嬌があり、えくぼが右頬にだけ出る可愛らしい女性でした。
残念ながら、その方への恋は実りませんでした。私が初めての恋にオロオロしている数ヶ月のうちに、ソリーニ様のお子を孕ったためです。ソリーニ様が恋敵となるのですが、憎しみや嫉妬よりも、自分が恋した女性をソリーニ様が選んだという喜びの方が強かったように感じます。
産まれたお子は赤髪に笑うと左頬にエクボの出る可愛い男の子でした。バルディと名付けられたその子が今のお館様になります。
剣や戦いに関してはソリーニ様が、魔法と学問に関しては私が教え込むことで、お館様はすくすくと成長されました。が、お館様が10の頃、ソリーニ様と女戦士が魔物との戦いの中で命を落としました。
一時、解散の危機にまで瀕した『鉄腕』ですが、私がお館様の後見につき、まとめることで往時の半数に減ったとはいえ、なんとか存続させることができました。
両親を失ったお館様ですが、強く、賢く、そして気高く成長し、18の頃には私の後見を必要としない団長となりました。しかし、1領や2領を治めるだけの実力がありながら、その目はどこか別の場所を見るかのようで、何かを強く求めることはありませんでした。可能な限り働く時間を減らし、空いた時間で賭け事や遊びに興じ、どこか人生に投げ槍なように見えました。
所領を周り、小さな村の要請を受け細々と働きながら流浪の旅を続けていたある日、ナーブでカリーナ様と出会い状況は一変します。お館様の冷めていた目に熱が灯り、命からがらではありましたがマーロの領主になることができたのです。
マーロの領主になってからは、その責務に応え、領主として立派にマーロを治めてきたました。そんなお館様を横で支え、誇りに思い、この子こそ自分の息子なのだと声に出したい衝動を抑えここまで過ごしてまいりました。
シーザー様が産まれたことで、寂しい限りではありますが、このお役目ももうすぐ終わりになるのでしょう。今夜、お館様に呼ばれていますので、辞意を伝えましょう。
夜、お館様の部屋を尋ねました。
「キャベリか、夜に呼び立ててすまないな。」
団長として独り立ちし、領主になった後も私には丁寧な言葉を使ってくれます。
「お館様、私は家宰でございます。いつでもお呼びいただいて問題ございません。」
お館様の顔に苦笑が浮かぶ。
「変わらんな、キャベリは。そんなキャベリだからこそ、最初に伝えたい。俺は、王を、いや、皇帝を目指す。」
冗談か?と思いましたが、お館様の顔には真剣さ以外ありません。
「つまり、50領を治めると?」
この世界では、1領を治めると領主に、20領で王に、50領で皇帝になる。皇帝になったものはいまだ一人もいません。
「そうだ、今まで誰もなし得なかった帝位を取り、シーザーに継がせる。」
「本気、なのですね。シーザー様のために、覇道を行くということでしょうか?」
「そうだ、シーザーは神子だ。そして、我々の思っている以上の才があると思う。あの子の代で、この世界を統一させることができるかもしれん。そのための礎に俺はなりたい。キャベリ、手伝ってくれるか?」
肌が粟立ちました。親子二代での覇業の構想。自身を礎として捨て、シーザー様に賭ける。両親をなくしてからどこかで世の中を捨てていたお館様が家族を得て目指す覇道。
「先ほどもお伝えいたしました。私はお館様の家宰でございます。ついてこいとお命じください。」
緊張した雰囲気だったお館様の顔に笑顔がさした。私の初恋の相手によく似たあの笑顔が。
「今夜、今一度しか言わんが、俺はどこかでキャベリを親父のように思ってきた。だから命じるのではなく、お願いしたい。親父、その命尽きるまで、俺に付き合ってくれないか?」
心が震える。親父、最も呼ばれたかった言葉を最ももらいたかった相手から貰えた。世界に大声で告げたい。我が息子はここまで大きくなった。この命、大した重さはないが、共に賭けてみせましょう。
「是非、共に。」
部屋に帰っても当たり前ですが眠気など来ません。大した才などない私ですが、お館様とシーザー様の踏み台や矢面くらいにならなれるかもしれない。
自分の非才がこれほど悔しく感じたことはありません。せめてもう少し智や魔があれば、あの二人と並び立てるのに。
頭の中ではまとまらない想いが渦巻いていますが、明日も仕事はあります。横になって目だけは閉じておきましょう。
少し眠気がやってきた頃、突如部屋の中を強烈な光が包みました。
『起きよ!キャベリ・オルフォーニよ。』
突然、頭の中に声が響きます。目の前の光から話しかけられているのでしょうか。
『聞け!
貴様には戦神の加護を与えた!
領主をよく助け!
この世界を負の連鎖を終わらせよ!』
加護?戦神?なんですか?頭の中が澄み渡っています?マーロの行く末が取るべき道がいく通りも想像できます!身体に感じたことのない魔力が湧き上がってきている?これが・・・加護・・・?
目の前の光に目を凝らす。眩しい・・・確かに眩しい、だが耐えられないほどではありません。光の中に赤子が浮かんでいるのがうっすらと見えてきました。
これは・・・シーザー様!!!??
「もしや!シーザー様!!!?」
光は答えません。神のふりをしているのでしょうか?正体をバラしたくないということですか。
『貴様の働きに期待している。』
その言葉を最後に目の前が暗転しました。
朝目覚めると昨晩のことが夢ではなく、現実なのだということを自分の魔力で理解しました。魔力や智力だけでなく、闇魔法も使えるようになっているようです。
全身を駆け巡る喜びを抑えられません。これで、お館様やシーザー様のお役にたてます。シーザー様、これまで聞いたことのないほどの神子の力、あの方であれば、必ず、この世界を統一できる、そう確信出来ます。世界よ、うちの息子と孫の凄さを知るまで、もうしばし待っていなさい。
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