第7話 うちの奴らがすごい
生きる意味?
生きるのに意味が必要なんて気楽な人生だな。こちとらそんなに生優しい人生を過ごしちゃいないんだよ。
腹一杯飯が食えて、息子や娘がいて、無難にしてりゃ死ぬこともない、そこに意味なんて必要か?
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4-6 マーロ
統一歴0年3月18日
○????
暗闇の中から徐々に意識が覚醒してくる。記憶が断片的に思い出され不快になる。誇り高き狼を統べる自分が、人ごときに敗れた記憶。不快感から声を上げる。横を見ると自分と同時に生まれたのであろう小さき狼達が王者の威圧に震えていることに気づく。
種を統べるものとしての矜持がある。守るべき種を導き繁栄させる。この地で長く種を保ち、家族を増やしてきた。その前に立ち塞がったあの赤い毛の人族。
周囲の気配を探るとあれだけいた狼たちが数えられるほどに減り、あれだけ大きく猛々しかったもの達が小さくか弱くなっている。ふつふつと湧いてくる怒りに身を震わせ、赤い人族の気配を探る。近くには人だからか生き物の気配も感じられない。気配の探知を広げていくと人族の多く集まる場所が見つかった。
その中心に、あの人族の???
あれが、あの人族の気配か?
マズイマズイマズイマズイマズイマズイ
あれはダメだダメだダメだ
いや、あの人族以上にそのそばにある、より大きな気配
あれはヤバいヤバいヤバいヤバい
我にとっての死そのもの、いや、我が種にとっての滅亡そのもの、暴虐の気配。
あんなものに勝てるわけが無い。逃げるか?どこに?
無理だ、我は我の縄張りから出られない。縄張りを逃げ回ってもいつか見つかる。我が子ウサギを狩るようにあっさりと、絶対に、確実に容赦なく殺される。あの気配はそれほどに禍々しい。
どうするどうするどうするどうするどうする
生きるために、いや、種を守るために我に何ができる?
我の兄弟である3匹の子狼が近づいてきて、我の毛を舐め始めた。焦る我を尻目にのんびりと、可愛らしく。この小さきものたちを守らなくてはいけない。
出来るだけ逃げる。
だが見つかった時は?
我の命は諦めよう。我の命を使い、この種のために出来ることだけに徹する。せめてこの3匹だけでもなんとか。たとえ、我の誇りを失おうとも。
○バルディ・ソリニウス・マーロ
薄い雲が空を覆った。空の光が遮られ、辺りが暗くなっていく。領域主が、カースウルフが、復活した。
扉を叩く音の後にキャベリから声がかかった。
「お館様、領域主が復活いたしましたな。」
信頼する側近の落ち着いた声に、俺の焦りが収まっていく。扉を開けながら応える。
「あぁ、とうとうきたな。今後の動きを相談したい。入ってくれ。」
入ってきたキャベリの顔は思っている以上に落ち着いていた。余裕の笑みさえ溢れている。
「落ち着いているな。頼もしい限りだ。」
キャベリが微かな笑みを浮かべて応える。
「世界の統一を目指すのです。この程度のことで慌てていては何も始まりません。お館様、統一はここから始まるのです。」
俺のそばでどこか控えめで弱々しかったキャベリが自信にみなぎっている。なんだ、何があった?だが、確かに、そうだ。俺はこの世界の統一を目指すんだ。この程度で狼狽えていてなんになる。
「俺よりもお前の方が肝が据わっているな。たしかに、これからのことを考えるとこの程度、どうということはないな。で、即時討伐で問題ないか?」
「問題ございません。明日には全軍を整え出発ができる準備を整えております。」
いつも以上に用意周到なキャベリが守りを捨てる提案をしてきた。
「全軍?領の守りはどうする?」
「必要ございません。領都にはシーザ、ウォッホンゴホン、失礼、領都には私が残っております。半月程度でしたら、民と共に防衛可能でございます。今は特に、速度を重視していただきたい。領域主の在位が長引けば、民が逃げ出してしまいます。」
いや、いま、絶対シーザーって言いかけたよね?
確かに、気の早い民はすでにナーブなどの領主がいる領への移動の準備を始めている。民が減る、そして税が減る、ということは自領の衰退を意味する。
「分かった。留守は任せる。カースウルフの巣が前と変わらなければビオス山の中腹になるだろう。ここからなら往復で8日もかからない筈だ。討伐の時間を5日と考え半月で帰ってくる。死ぬなよ、キャベリ。」
もう少し早く帰ってこれる、という予感はあるが長めに時間をとっておく。
「承知いたしました。では、明日出られるように軍の準備をいたします。あ、忘れておりました。領域主は必ずお館様が討伐するようお願い致します。」
今回の討伐で気を使わなくてはいけないことが、領域主の討伐を他の者が行うと領主権が移ってしまうということだ。そのため、危険を冒してでも俺自身が領域主と対峙する必要がある。
「分かっている。もろもろ頼むぞ。」
「はい、なにとぞ、お気をつけくださいませ。」
その言葉に頷き、俺も自分の準備を始める。
翌朝、領主館前に全軍が集結した。歩兵300に魔法兵20、騎馬兵50、出発の準備を整え、整列していた。数はそこまで多くないが、職業軍人として育てた俺の軍だ。
鼓舞の意味を込めて全軍に語りかける。
「分かっていると思うが、領域主が復活した。」
全員が神妙な顔つきでこちらを見ている。
「軍を発し、即戦をもって討伐する!」
「「「「「応!!!」」」」」
ドンっっ!!!
全員が同時に槍で地面を叩いた。地面が揺れる。
えっ?なにこれ?こ、怖くない?
「領都に軍は残さず全軍でもって叩く!民のため!家族のため!全ての魔を滅ぼせ!一心不乱に駆けろ!遅れたものは置いていく!足が千切れるまで走れ!」
「「「「「応!!!」」」」」
ドンっっ!!!
えっ?このドンってやつ毎回やるの?
「目標、ビオス山、出発!!!」
「「「「「応!!!」」」」」
ドンっっ!!!
なんか、領都全体が揺れてない?大丈夫?こいつらいつからこんなことするようになったの?
動き出した騎馬隊の先頭で指揮を取り始めたレチェに追いつき指示を出す。
「レチェ!騎馬隊は大きく横に広がって進め。ビオスまで魔物を見つけ次第、狩れるだけ狩れ!」
レチェの細い目に狂気が宿る。
「いいねぇ、じゃあ、根絶やしにしてくるわぁ」
「カースウルフは俺がやる!ビオスに先についても手を出さずに見つけたら報告にこい。」
「へいへーい、わーってるよー。」
絶対こいつ分かってない。
「カースに手を出したら俺がお前を殺すことになる。やるなら覚悟だけしておけ。」
こいつは何をするか分からない、少し強めに威圧をしておく。
「だっ、だ、だだ、だから分かってるってば!」
青ざめて引き攣った顔で返事をしてきた。そこまでビビらなくてもよくないか?
騎馬隊の先行を見届け、歩兵隊と共に進む。領都からビオスまで、馬で駆け続けても3日はかかる。歩兵か急いでも4日はかかるだろう。その間に領都を襲われる可能性もある。兵には悪いが、休みも出来るだけ取らずに駆け続けるしかない。ビオスにどれだけ早く、脱落者なしに兵が到着できるか。これは一種の賭けだろう。
と思っておりましたが!
なんの問題もございませんでしたー!!!
なんか、全員もんのすごいスピードで進んでるんですけどー?
えっ?こいつら、こんなに走るの早かったっけ?
楽勝みたいな顔で全力疾走してるんですが?
というか、後ろ振り返って見てみたら、歩兵隊が進んだ跡の地面がめり込んでるんですが?
走ってるっていうか地面掘り返しながら進んでるみたいになってるんですが?
先頭で平然と駆けているルベリコとレフィの兄弟、こいつらも明らかにやばい。さっきから前方に魔物が見えた瞬間に駆け寄り、瞬殺している。
いや、訓練の時から分かってたけどさ、分かってたけど、見ないようにしてた。
うちの部下たち、明らかに強くなってる。それも、鍛錬で少し強くなったとかではない。1が100、200になった、というくらい強くなってる。
うちの部下たちの強さに怯えながら進んでいたら、ビオス山が目の前に迫ってきた。
はい。1日でつきましたよ。
なにか?問題でも?
うちの奴らすげぇーー!!!!!
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