第121話 アスカとルナ(3)


 僕の手に『ロリの紋章』が浮かぶ。

 どうやら、今こそ、この力を使う時のようだ。


「では、名誉ある最初の攻撃はお譲りしますわ」


 とルキフェ。軽やかに回り込むとイルミナの背中を押す。


「笑止な事を言う……ルキフェ、アナタが行きなさい」


 イルミナはクルリと反転するとルキフェをつかんだ。


「オホホ……遠慮しますわっ!」


 当然、ルキフェもつかみ返す。

 突如として始まった二人の力比ちからくらべにメルクは、


「二人共……な、仲良くしようよぉ~」


 と仲裁をする。


(まぁ、ルナが相手じゃ、こうなるよな……)


 誰だって命はしい。ルナに歯向かえる訳がない。

 だからといって、光り出した紋章の力が無かった事になる訳でもなかった。


 紋章の光が強くなると同時にメルク達、三人の身体が光りに包まれる。


「えっ⁉ なにこれ?」


 と戸惑うメルク。


「あら、なんですの?」「いつものと違う⁉」


 ルキフェとイルミナも訳が分からないまま、光の球体となる。

 次にそれは、一つの球体となった。


 ――どういう事だ?


 僕が不思議に思っていると、


「ほう、融合による『進化』か……」


 確かに、それなら――とルナ。

 その姿はほとんどが黒に染まりつつあった。


 一方、光の球体となってしまったメルク達。

 その光の中に一人の少女の姿シルエットが浮かび上がる。


 同時に光の球体はシャボン玉のように弾けた。

 上空へと舞う光の粒子。それらはぐに消えて無くなってしまう。


 中から現れたのは、


「お待たせ、お兄ちゃん!」


 成長したメルクだけだ。ルナと同じ位だろうか?

 中学生にしては発育がいい方なので、目のやり場に困る。



  <ウンディーネ>――


  四大精霊の内<水>を司る精霊です。

  湖や泉などに住んでいて、美しい女性の姿をしています。



(ルキフェとイルミナの姿はないけれど……)


 ――いったい、どうなってしまったのだろうか?


 心配する僕の様子に、


「大丈夫だよ……二人共、私の中にいるから……」


 とメルク。【ステータス】画面には、カウントのようなモノが表示されていた。

 どうやら、時間制限タイムリミットのあるパワーアップのようだ。


 よく見ると、メルクの背中には翼が生えている。

 <悪魔>のような黒い翼と<天使>のような白い翼だ。


 同時に、彼女を守るように幾本いくほんの流水が周囲を取り巻いている。


「その力なら、わしを殺せるかも知れないのう……」


 とはルナ。


(この期に及んでまだ、そんな事を言っているのか……)


 僕は悲しくなったけれど、それはメルクも一緒のようだ。


「ルナお姉ちゃんのバカッ! 誰もそんな事を望んでないよ……」


 そう言って、メルクは身構える。


「フンッ! わしは一人だったのじゃ!」


 ずっと、アスカと一緒のお前には分かるまい!――と反論した。

 同時に――うっ!――と苦悶の声を上げ、頭を押さえる。


 『黒い魔素』を取り込んだ影響だろうか?


「どうやら、ここまでのようじゃな……」


 とルナ。やはり、彼女一人では『黒い魔素』を吸収しきれなかったようだ。

 けれど、それは予想通りである。だから、僕はメルク達を連れてきた。


 しかし、彼女は、


わしが自分を抑えている間に……」


 頼むのじゃ!――まるで、僕達が従うと思っているような言葉だ。

 言い終えた途端、すさまじい魔力の奔流ほんりゅうがルナを包み込む。


「お兄ちゃん、危ない!」


 とメルクが僕をかばう。

 抱き締められると同時に――ふよんっ!――柔らかな双丘が顔に当たった。


 本人は気にしていないのだろうが<スライム>とはいえ、裸の少女だ。

 成長して大きくなった胸が押し当てられるのは、如何いかんせん困る。


 メルクは両翼で僕を包み込むように、爆風から守ってくれた。しかし、


「うわぁ~っ!」「ふぇ~っ!」


 アリスとガネットだ。

 彼女達は突然の出来事に、悲鳴を上げて飛ばされてしまう。


「だ、大丈夫か⁉」


 僕が大声をあげると、


「な、なんとかーっ!」「ふぇ~ん!」


 とクレーターの外から声が聞こえた。

 どうやら、無事なようだ。一先ひとまず安心する。


 一方、魔力の流れが収まると、そこには少女の姿に戻ったルナが立っていた。

 違うのは髪や鱗の色が黒く染まっている事だろう。


「フッフッフッ!――力があふれてくるのじゃ」


 何故なぜかルキフェみたいな事を言い出した。

 『黒い魔素』の影響で、可笑おかしくなってしまったらしい。


 メルクが僕を抱えたまま飛翔する。

 力の差を感じているのだろう。


 彼女の瞳が――どうしよう? お兄ちゃん――とうったえていた。

 周囲にはルナが集めた『黒い魔素』が密集している。


 僕は耳元で、メルクに作戦を伝えた。


「出来るかい?」


 その問いに、


「うん、大丈夫だけど……」


 とメルクは返す。自信がない訳ではない。

 僕を心配しているだけだ。


「どうした? 逃げるのか? やはり、おぬしも居なくなってしまうのか?」


 とルナ。さびしそうに僕を見詰める。

 僕はメルクと視線を合わせると、互いにうなずいた。


 メルクはそっと僕を離す。着地すると、


何処どこにも行かないよ」


 そう言って、ルナのもとへと歩みる。


(メルクが準備を終えるまで、時間をかせがなければ……)


「フムッ! よい心掛けじゃ……しかし、今のわしは――」


 うんん、あたしは力の加減が出来ないよ♪――と楽しそうに言う。


「望むところだ!」


 僕が身構えると、ルナの姿が消えた。


(み、見えない……)


 思った以上に戦闘能力に差があるようだ。

 まずは彼女の動きを抑える必要があったのだけれど――


(うん、無理かも知れない……)


 気が付いた時には、ルナが僕の正面に立っていた。

 そして、抱き付いてくる。


不味まずい、逃げられない……?)


 ――いや、様子が可笑おかしい。


 何故なぜ、彼女は僕に抱き付いているのだろう。

 ルナは『すーはー』と深呼吸を終えると、


「えへへ♪ お兄ちゃんにおい」


 と嬉しそうに顔を上げた。


「もう、好き好き♥ お兄ちゃん大好き♥」


 そう言って顔をこすり付けてくる。


「ルナ、ずっとさびしかったんだからね♥」


 もう離さないんだから!――と僕を抱き締める腕に『ぎゅっ!』と力を入れた。


 ――あれ? 思っていた展開と違うぞ⁉

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