第102話 宵闇の森(14)


 僕は<魔族>の死体を【アイテムボックス】へ収納した。


(あの道具アイテムがあるかも知れない……)


 【解体】すると『黒い結晶クリスタル』を見付ける。


「やっぱり、あった!」


 どうやら、浄化する必要があるようだ。


「お兄ちゃん、なにがあったの?」


 と森の火を消し終えたメルク。

 イルミナとガネットも興味きょうみ津津しんしんだ。


「『ロリスタル』だよ」


 僕は『黒い結晶クリスタル』を皆に見せる。


くろぉ!」「それ、大丈夫?」「ふぇ~!」


 メルク、イルミナ、ガネットがそれぞれの反応をした。

 一方、ルキフェとアリスはトレビウスを攻撃している。


「コイツ<ヘンタイ>でち!」「うおーっ!」


めなさい!)


 レベルの上がったルキフェの攻撃力だと洒落シャレにならない。

 アリスは真似まねをしているだけだろう。


 ただし、振り回しているのが大きな金槌ハンマーなので笑えない。


「問題ないでゴザル!」


 むしろ、ご褒美ほうびでゴザルよ♥――と嬉しそうにするトレビウス。


(やれやれ、困ったモノだ……)


 ――どちらにしろ、教育上よろしくない!


 僕はルキフェ達をめさせる。


拙者せっしゃとしては、一向に構わないでゴザルよ」


 とトレビウス。何故なぜかは分からない。

 けれど、あれほどの攻撃を受けていたのにピンピンしている。


 セシリアさん経由で受け取ったとおぼしき、Tシャツも綺麗きれいなままだ。

 あっさり<魔族>を倒してしまう実力といい、謎の人物である。


「あの……」


 とはラニス。状況が飲み込めていないようだ。


(トレビウスは存在自体が理解出来ないので、無理もないか……)


「この人は『ロリス教徒』のトレビウスさん」


 僕が紹介すると、


「この方が……」


 とラニスはつぶやく。

 どうやら、王族にもうわさが届いているらしい。


(『ロリスⅩⅢサーティーン』なだけの事はある……)


 一方、ユーリアは『はじめまして~』と呑気のんき挨拶あいさつをする。

 同じ<魔族>を『目の前で倒された』というのに、大丈夫なのだろうか?


「無理をしない方が……」


 僕が心配して声を掛けると、


「いえ、恐らく――わたくしを探して現れたのでしょう……」


 ユーリアは申し訳なく答えた。

 これでは、僕が悪者みたいだ。


「取りえず、この場を後にしようか?」


 再び<魔族>におそわれてもかなわない。

 僕はツルギに肩を貸すと急いで『宵闇よいやみの森』を出た。



 †   †   †



 街道かいどうに出ると、運良く馬車をひろう事が出来た。

 そのため、神殿都市ファーヴニルへは早めに到着する。


 ギルドへの報告が先だろうけど、ユーリアの件もある。

 ずは彼女を『ヨージョ神殿』へ送るべきだろう。


 しかし、都市へ入る門の前で、


「頼みがある!」


 とツルギ。馬車の中でも、彼にしては珍しく大人しかった。

 ずっと考え事をしていたようだ。


 ツルギが申し出たのはトレビウスで、


なんでゴザルかな? <勇者>殿……」


 髪をかきあげる。

 無駄にさわやかだけれど、特に需要じゅようはない。


「オレを弟子にしてくれ!」


 とツルギは頭を下げた。

 するとトレビウスは無言で、すごく嫌そうな顔をする。


 ラニスはなにか言いたそうにしていたけれど、黙っていた。

 ツルギとしても、自分の無力さを痛感しての決断だろう。


(<魔族>との戦いではなにも出来なかった……)


 トレビウスに剣技を教われば、強くなれるかも知れない。

 そんな結論けつろんいたったようだ。


 しかし、この様子では断られてしまうだろう。

 一方、ラニスは心配そうな表情かおをしている。


 なんだかんだで、ツルギの事が気になるようだ。

 強くなってはもらいたい。


 けれど、彼女の立場としてはめるべきである。


 ――仕方がない。


「トレビウス……」


 僕が声を掛けると、


「メルク達がレべルアップしたんだ」


 静かにげる。


「ほほぉ……」


 それは『おめでたい』でゴザルな!――トレビウスは喜んだ。


「君のお陰だよ」


 これで『ロリライブ』が出来る――と僕は微笑ほほえむ。

 すると彼の目から涙がこぼれた。


拙者せっしゃが、拙者せっしゃが役に立てたのでゴザルな……」


 ひざき――ううっ!――と声をらして泣いた。

 予想以上の反応に僕は困ってしまう。


 ――『ロリス教徒』としては『ロリライブ』は悲願だ。


(自分が、その手助けをする事が出来て嬉しいんだろうな……)


 しかし、僕が狼狽うろたえる訳にもいかない。

 冷静をよそおうと、


「ただ、問題があってね……」


 <勇者>を強くする必要があるんだ――と説明する。


「<魔族>の件もある――人々が不安になる中……」


 お祭りをする訳にもいかないよね?――僕の言葉に、


「確かに、そうでゴザルな……」


 トレビウスは涙をぬぐいながら納得する。


(どうやら、上手うまく説得出来そうだ……)


「人々を安心させるためには<勇者>が強い必要があるんだ」


 少なくとも、あの<魔族>と戦える位には――そんな僕の想いが通じたのだろう。


「なるほど、分かったでゴザル!」


 とトレビウスは立ち上がった。

 彼自身も、複雑な心境なのは分かる。


 マルガレーテさんの話だと、幼少期から父親の特訓を受けていた。

 その辛い特訓の反動で、こうなってしまったようだ。


 時代錯誤とも言えるきびしい父親のしごき。

 その経験から――他人ひとから拘束こうそくされる事が苦手になった――と推測出来る。


 また、自分が父親にされたように、誰にかに厳しくもしたくはない。

 そんな思いが先行していたはずだ。


「トレビウス――信用出来る君にしか頼めないんだ」


 そう言って、僕は彼の手を取ると、


「僕達を助けてくれたように<勇者>に手を貸してあげて欲しい……」


 と続ける。これでダメなら、ルキフェにお願いするしかない。

 彼女の言う事なら、トレビウスは聞くだろう。


 しかし、その必要は無かった。


「『ツルギ』と言ったでゴザルな!」


 彼のマイブームなのだろうか?

 トレビウスはロボットダンスをおどると――クルリ♪――とターンを決める。


拙者せっしゃの修行はきびしいでゴザルよ!」


 ツルギに向かって言いはなつ。

 するとツルギもロボットダンスを踊り、


「ああ、頼むぜ! 師匠……」


 クルリ♪――とターンを決めて返す。


(案外この二人、気が合うのかも知れないな……)


 男同士、向かい合って不敵ふてきに笑った後、


「おっと、ルキフェたんは何処いずこに?」


 ひたいに手を当ながら、トレビウスはキョロキョロと周囲を見回す。

 興味がないのか、ルキフェはメルク達と遊んでいた。


「すまない……」


 僕が謝ると、


「なぁに、構わないでゴザルよ」


 とトレビウス。


むしろ、微笑ほほえましいでゴザル」


 そう言って、幸せそうな表情を浮かべる。


「ありがとう」


 そんな彼に僕はお礼を言った。しかし、


「お礼を言うのはこちらでゴザル……」


 あの親父オヤジ殿が頭を下げた――トレビウスは静かにつぶやく。

 それ以上は語らない。


 ただ少なくとも、その強さはバルクスさんに認められた。

 その位は僕でも理解出来る。


(きっと、実績を積み重ねていけば……)


 ――認めてもらえる日が来るかも知れない。


「さあ、弟子よ!」


 拙者せっしゃの修行はきびしいでゴザルよ!――トレビウスが元気に言い放つ。

 そして、駆け出して行く。


「はい、師匠!」


 とツルギは彼の後を追った。


(急過ぎるような気もするけど……)


 ――仕方ないのかな?


 僕は不安そうにしているラニスに向かって、


「ゴメン……」


 と謝る。これで<勇者>達は全員、離脱してしまった。


「『ロリライブ』の日には戻ると思うけど……」


 僕の台詞セリフに彼女は首を横に振ると、


「<勇者>は強くなければなりません」


 おだやかに答える。


(確かにその通りだけど……)


 ――ギルドにどうやって報告しよう?


 僕は頭をかかえるのだった。

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