第103話 ヨージョ神殿(11)


 神殿都市ファーヴニルへ入ると、僕はラニスにことわって『ユーリアをあずかる事』の了承をもらう。

 どうやら、彼女もユーリアのあつかいには困っているようだ。


 一緒に『ヨージョ神殿』へと向かった。


(少なくとも、神殿の中にさえ居れば……)


 ――ユーリアに危害を加えようとする人間は少ないはずだ。


「お帰りなさいませ♪」


 とセシリアさんが優しく出迎えてくれる。

 念のため、人型兵器ロリガインの事を聞いておく。


 何処どこへ行ってしまったのか、謎だったからだ。


(てっきり『神殿に戻ってきている』と思っていたのだけれど……)


 するとセシリアさんは、その単語にまゆひそめた。

 しかし、ぐに元の優しい笑顔を浮かべ、


「いいえ、まだ戻られてはいません」


 と教えてくれる。


 ――どうやら、ハナツの修行は別の場所で行っているようだ。


「ええと、お願いがあるんですけど……」


 流石さすがに『元<魔王>の娘をあずかってくれ』とは言いにくい。


「彼女の事なんだけれど……」


 僕はメルクと手をつなぎ、楽しそうにしているユーリアに視線を向けた。

 すると――よよよよよ――セシリアさんは、その場にくずれ落ちる。


(いったい、どうしたのだろうか?)


「大丈夫ですか?」


 僕が手を差しべると、


「メルク様と手をつなぐなんて、うらやましいです……」


 そう言って、しっかりと手を取った。


(こういう人だった……)


 よいしょっ!――と立ち上がらせると、


「それくらい、メルクならたのめばつないでくれますよ」


 苦笑する僕に、


まで、自然につなぐのがいいのです!」


 変なこだわりを見せるセシリアさん。


 ――面倒くさい。


 なんだか、遠慮していた自分が馬鹿らしくなった。


「それより、彼女をしばらかくまって欲しいんです」


 とお願いする。

 セシリアさんは僕を見詰めると、


「訳ありのようですね……」


 承知しました――と答えた。

 随分ずいぶんとあっさりしていたので、僕は拍子抜ひょうしぬけしてしまう。


「理由を聞かなくてもいいんですか?」


 僕の台詞セリフに、


「メルク様が仲良くされているようなので、問題はありません」


 それよりも――とセシリアさんは僕に顔を近づけた。

 洗髪剤シャンプーのいいにおいがする。


 ――いや、違った。


「トレビウスさんは一緒ではないのですか?」


 と質問された。彼女からしてみれば――<ロリモン>Tシャツを着て、何処どこかに行ってしまった――という認識なのだろう。


 一番高い可能性として『僕達と一緒に行動している』と思っていたようだ。


(実際、さっきまでは一緒に居たしな……)


「彼には【剣】の<勇者>の修行をお願いしました」


 と僕は答える。


「そうでしたか……」


 アスカ君が頼んだのであれば、仕方ありません――とセシリアさん。

 常に神殿に居る彼女が『ロリス教徒』達のまとめ役なのだろう。


(連絡役などをねているのかも知れない……)


 ――苦労していそうだ。


 僕は人型兵器ロリガインの事も説明した。


「分かりました」


 ワタシはその方の面倒を看ればよろしいのですね――とセシリアさん。

 僕は首を横に振ると、


「目立たないようにかくまって欲しいんです……」


 『ロリス教徒』の恰好をさせるのがいいと思って――とげる。

 彼女はそれで納得したのか、


「後で神官服を用意しましょう」


 と受け入れてくれた。


「ありがとうございます」


 僕は頭を下げるとユーリアを呼んだ。

 メルクと一緒にニコニコと近づいてくるユーリア。


「ユーリア、許可をもらったよ」


 挨拶あいさつして――とげる。

 彼女には事前に説明をしていたので、


「はい♪」


 と返事をする。そして、


「わたくし『ユーリア』と申します……」


 よろしくお願いします――そう言って頭を下げた。

 すると同時に外套マントが落ちる。


 ツルギから借りたままだったけれど、今はそこじゃない。

 ほぼ水着姿と言っていい、ユーリアの姿があらわになる。


「あら?」


 彼女が首をかしげると――ぷるん♪――形のいい胸が揺れた。

 ツルギがこの場に居たのなら、大喜びだろう。


 僕とラニスは――あちゃーっ!――と手でひたいを押さえた。


「まあまあ……」


 とセシリアさん。

 おどろいてはいるのだろうけど、穏やかな表情はそのままだ。


ずは、着替えた方が良さそうですね」


 そう言って、ニコニコと両手を合わせる。


「お願いいたします♪」


 とユーリア。


(この二人も波長が合っているようだ……)


「じゃあ、僕達はいつもの部屋を借りますね……」


 着替えのため、奥へと向かう二人に僕はそうげると、いつもの会議室へ移動した。



 †   †   †



「早速、ユーリアが居てくれて助かったよ……」


 僕の言葉に――そうですね――とラニスはうなずく。

 街中では顔を隠す必要があるため、彼女は外套フードかぶっている。


 僕達はメルク、ルキフェ、イルミナを連れて歩いていた。

 <冒険者ギルド>へと向かっているのだ。


 というのも――セシリアさんが鼻血を出して倒れてしまったからだ。

 今はユーリアが介抱してくれている。


 理由は説明するまでもない。

 レベルの上がったアリスとガネットを『進化』させたからである。


 アリスを<一角いっかくウサギ>から<ファイヤーホーンラビット>に――

 ガネットを<穴掘あなほりモグラ>から<アーストレジャーモール>に――


 それぞれの成長した姿を見て、興奮したのだろう。

 後はいつもの展開だ。


 成長した二人をギルドに連れて行った場合、説明も必要になるだろう。

 現状では<勇者>や<魔族>の件もあるので面倒だ。


 後日、報告するという事で――ユーリアの護衛もねて――二人は置いてきた。


おどろかせてスミマセン」


 僕はラニスに謝ると、


「いえ、やはり楽しいです♪」


 彼女は言葉通り、笑顔で返す。

 お城での暮らしが余程、窮屈きゅくつだったようだ。


「後はメルク達の『進化』だけれど……」


 それには『水の結晶クリスタル』『闇の結晶クリスタル』『光の結晶クリスタル』が必要だ。

 正直、高い上に希少品でもある。


 手に入れるには、色々と障害ハードルが高い。

 そんな事をラニスに話していると、


「あっ! レイアお姉ちゃんだ……」


 とメルク。


アメ寄越よこせでち!」


 ルキフェも一緒にけ出す。


アメをくれるのは『おばちゃん』達なんだけど……)


 イルミナは――困ったものね――と言って肩をすくめた。


「あら、あの方は……」


 とラニス。慌てて外套フード目深まぶかかぶり直す。


 ――かえって怪しまれないだろうか?


(そう言えば、レイアは騎士団に居たんだっけ……)


 メルク達と手をつなぎながら、レイアがこちらに歩いてくる。


「やあ!」


 僕が挨拶あいさつをすると、レイアが行き成り顔を近づけてきた。


なんで『姫様』と一緒なの?」


 とささやくレイア。


(どうやら、バレバレだったみたいだ……)


 でも、彼女になら隠す必要もないだろう。


「例の森の調査だよ……」


 <魔族>に殺されかけた――僕が冗談じょうだんめかして言うと、


「そ、それは大丈夫なの⁉」


 レイアは慌てて僕の身体をさわる。

 どうやら、無事を確認しているらしい。


 しかし、はたから見れば抱き合っているように見えなくもないだろう。


「大胆!」


 とはメルク。両手で目をおおっている。

 けれど、身体がけている<スライム>では意味がない。


「アタイもっこするでち!」


 ルキフェは変なところで甘えん坊を発揮する。


「兄さん、大衆の面前で……」


 とはイルミナ。彼女の場合、分かっていて揶揄からかっているのだろう。

 レイアは状況を把握はあくし、顔を赤くすると、


「す、すまなかった! し、仕事中だから……」


 と言って、逃げるように行ってしまう。


「ギルドへの連絡、ありがとう!」


 僕はお礼を言ったのだけれど、聞こえているだろうか?

 一方、ラニスは、


好敵手ライバルがいっぱいね……」


 ウラッカは大丈夫かしら――となにやらつぶやいている。


「あの……ラニス?」


 僕が声を掛けると、


「アスカ様!」


 突然、彼女は僕の手を握ってきた。そして、


「『水の結晶クリスタル』『闇の結晶クリスタル』『光の結晶クリスタル』」


 こちらで用意させていただきます!――とげる。


有難ありがたい話だけれど……)


 ――突然、どうしたのだろう?


 ラニスは僕の手を離し、深呼吸をすると、


「ですから、ウラッカの事をよろしくお願いしますね♥」


 そう言って、笑顔を浮かべた。


(別にあらためて頼むような事じゃないと思うけど……)


「わ、分かりました」


 勢いに押され、僕は答えるのだった。

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