第85話 神殿都市ファーヴニル(11)


 取りえず、色々な意味で人目が気になる。


(今は人が居ないからいいけど……)


 この騒ぎで集まってくる前に、場所を移動したい。

 僕は『明後日、再会する約束』をして『ハナツ』とは別れた。


「そ、そうですね! ずはお友達からですね……」


 と彼女はつぶやく。


(正直、友達以上の関係になるつもりはないのだけれど……)


 しかし、今は刺激しない方がいいだろう。

 多分、ぼっちキャラだと予想される。


 一人で〇〇するなんて<勇者>よね――などと言われていた可能性が高い。


(これは下手に触れない方がいいな……)


 人は痛み知る事で優しくなれる。


(次に会った時は、もう少し優しくしよう……)


 僕達は『ヨージョ神殿』へと戻る事にした。



 †   †   †



 神殿に着くと真っ先に出迎でむかえてくれたのはメルク達だ。


「お兄ちゃん!」


 と声を上げ、僕に抱き付いて――は来なかった。

 メルクも、ルキフェの事を心配していたようだ。


 イルミナと一緒に彼女を注意する。

 見ている側としては微笑ほほえましい光景だ。


(少しさびしいけど……)


 また、セシリアさんにも迷惑を掛けてしまった。

 謝らなければいけない。


 ただ、彼女の場合は<ロリモン>達と一緒に居る事が出来た。

 むしろ、ご褒美だったのかも知れない。


「お帰りなさい」


 とセシリアさんは僕達を優しく出迎でむかえてくれる。

 ただいま――僕は返すと、


「早速ですが、お話があります」


 とげた。また、会議室を借りる事にする。


(いつも借りているので、悪い気もするのだけれど……)


 彼女の事だ。

 使っていないので、問題ありません――と言うのだろう。


「まぁ、ついに! この神殿で一緒に暮らしてくれるのですね♥」


 とセシリアさん。


(それはことわりましたよ……)


 僕の表情でさとったのか、


「冗談ですよ……」


 フフフッ――と彼女は笑った。


(目は笑っていない気がする……)


 ――油断も隙もない。


 <ロリス教>を取り巻く環境が分かった今では、彼女の気持ちも理解出来る。

 人間と<ロリモン>が仲良く暮らせる世界を創る。


(そのためにも、協力してあげたい所だけれど……)


 今は下手へたに動く時ではないだろう。

 やはり、メルク達を強くする事は急務だ。


(だからと言って、師匠は急ぎ過ぎだけど……)


「では、いつもの会議室へ行きましょう」


 セシリアさんはそう言った後、人型兵器ロリガインを見上げた。

 いつも、ほんわかしている彼女にしては、いささ強張こわばった表情に見える。


 明らかに神殿には入らない大きさだ。


(いや、無理をすれば大丈夫なのだろうけど……)


 ――色々と壊し兼ねない。


 なんとなくだけど、気不味きまずい空気を感じたので、


「ああ、人型兵器ロリガインにも話があるんだけれど……」


 僕は言葉をつむぐ。

 セシリアさんは――それでは仕方ありませんね――という表情かおで、


「では、アルティさん――それから出てください……」


 人型兵器ロリガインに視線を向けると、静かにそう言った。

 どうやら、中の人の名前は『アルティ』と言うらしい。


 ――女性だったのか⁉


 てっきり、少年の心を持った『おっさん』が出て来るのかと思っていた。


「……出ないとダメ?」


 と人型兵器ロリガイン

 確かに女性だと考えると、仕草がそれっぽい気がする。


「また、神殿を壊す気ですか?」


 セシリアさんの冷たい口調に、


「うっ!」


 言葉に詰まる人型兵器ロリガイン


(前科があるらしい……)


 変形すると空を飛んで、中庭へと移動するようだ。


(魔法で空を飛んでいるのなら、変形する必要はないはずだけれど……)


 僕はメルク達を連れ、中庭へ移動する事にした。


(正直、中身の構造は気になっていたんだよね……)


 セシリアさんは『準備をしますね』との事だったので、その場で別れた。

 メルク達のために、お茶とお菓子を用意してくれるのだろう。


なんだか、悪い気がする……)


 僕達が中庭へ辿たどり着くと、丁度、飛行形態ロリガインが上空からやって来た。


 再び、人型へと戻って着地する。

 頭部が後方へ倒れ、胸部が開く。


 ――ガシュッ! ウィーン! プシュー!


 相変わらず、変なところだけ演出が凝っている。

 メルクとイルミナは僕の後ろに隠れた。


 一方、ルキフェとアリスは興味津津なのか、僕よりも前に出ている。

 ガネットだけは背嚢リュックの中でお休みのようだ。


 人型兵器ロリガインの中から出て来たのは、細身の女性だった。

 フルフェイスヘルメットにレーシングスーツという恰好だ。


 明らかに、この世界の産物ではない。

 女性にしては『やや長身』といった所だろう。


 人型兵器ロリガインの操縦は立ったまま行うようだ。

 一応、腰を掛ける椅子イスのような部分もある。


(身体の動きに反応して、動くタイプかな?)


 残念ながら、僕が入って操縦するには少し狭い。アルティさんは『操縦席から飛び降りる』のかと思いきや――ふわり――と空中に浮いた。


 そのまま、ゆっくりと地面に着地する。

 どうやら、浮遊魔法を使ったようだ。


 僕達の前に立ち、ヘルメットをはずす。

 銀色の長い髪に褐色の肌。


 そこには綺麗な女性の顔があった。

 耳がとがっているので妖精エルフ――いや、『ダークエルフ』だろう。


 ――珍しい種族だ。


 ゲームでは、人間族や妖精エルフ族と対立していた気がする。


(<魔族>側の勢力のはずだけど……)


 彼女は首から下腹部に掛けて、ファスナーを下ろした。

 スポーツインナーをつけているが、とても煽情せんじょう的な姿だ。


 汗をいているため、ピッタリと下着が素肌に張りついていた。

 身体のラインが強調され、健康的な素肌があらわになる。


「ふぅーっ! 暑かった……」


 とつぶやくと同時に空いている右手で魔法を使い、風を起こす。


(彼女は魔法のあつかいにけているらしい……)


 ――それを操縦に応用しているのだろうか?


 僕達の視線に――ハタッ――と気が付き姿勢を正す。


「お、お見苦しいもにょをお見せして――ふにゃあ! か、噛んでしまったぁ」


 その場にうずくまる。

 どうやら、人型兵器ロリガインから降りるとポンコツになるようだ。


 ――いや、こっちが素なのかな?


 普段はコスプレしているようなモノかも知れない。

 別の人格として、使い分けているようだ。


 僕は――大丈夫ですよ――とげると、


人型兵器ロリガインって、カッコイイですね!」


 と機体をめた。


わざとらしかったかな?)


 しかし、彼女には効果が抜群のようで、


「分かりますか⁉」


 と目をキラキラさせ、立ち上がると僕に顔を近づける。

 根がオタクなのだろう。趣味の話になると饒舌じょうぜつになるようだ。


 ペラペラと聞いていない説明を始める。

 その間、ルキフェとアリスはがらとなった人型兵器ロリガインの周りをウロウロしていた。


 興味があるのだろう。


「勝手にさわったらダメだよ!」


 と僕が注意すると、


かまいません!」


 とアルティさん。


「ワタシの『魔力』にしか反応しませんので!」


 得意気に胸を張る。

 正直、今は前がはだけているので目のやり場に困ってしまう。


「アルティさん……いい加減にしてください!」


 と僕の後ろから声がした。

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