第86話 ヨージョ神殿(10)
「アルティさん! いい加減にしてくだい……」
と後ろから声がした。セシリアさんだ。
僕達が遅いので様子を見に来たのだろう。
「以前もそんな事を言っておきながら、色々と壊してますよね……」
そう言って、セシリアさんは笑顔を浮かべている。
けれど、目は笑っていない。内心は怒っているようだ。
(どうやら、アルティさんは神殿を壊す常習犯らしい……)
「それに
セシリアさんは早速、アルティさんの恰好を注意する。
「暑いのだ……仕方がないだろう?」
反省する気のないアルティさんにセシリアさんは
常に神官服を身に着けている彼女からしてみれば、言いたい事があるのだろう。
相手は同じ信徒でありながら、普段から個性的な格好をしているのだ。
一方、アルティさんは『それは聞き
「それに救世主殿もワタシの身体に興味があるようだ」
先程から胸元をチラチラ見ているぞ!――とんでもない事を言い出す。
「いえ、『ダークエルフ』って思ったより『ぬちょぬちょ』してるんだなぁ――と思っていただけです」
取り
すると――ぬちょぬちょ!――とショックを受けるアルティさん。
「こ、これは汗ですよ!」
と僕に説明する。
(そんな事は分かっている……)
――セシリアさんからも、
僕は期待を込めて視線を送る。
すると彼女は――コホンッ――と
「いいですか、アルティさん! アスカ君が興味津津なのは、わたしの胸です!」
ポヨン!――とその大きな胸を揺らし、言い放った。
(ホント、誰かこの人達――どうにかしてくれないかな?)
僕が頭を悩ませていると、
「セシリア――それは聞き
とアルティさん。腕を組み、自らの胸を強調させるような
セシリアさんが特別大きいだけで、サイズ的には彼女も小さい訳ではない。
「いえいえ、勝負するまでもないでしょう……」
アルティさんの
こちらは腕に収まりきらず、今にも
(大変だ! 早く支えなくては……)
――いやいや、そうじゃない!
このままの流れだと、面倒な事になりそうだ。
(
「では、こういうのはどうだ?」
とアルティさん。
そして、頬を赤くして
「救世主様に選んで
と片手で胸を押さえたまま、もう片方の手を広げ、僕に向ける。
(いったい、
そんな提案に真面目なセシリアさんが乗る訳――
「分かりました……受けて立ちましょう!」
とセシリアさん。こちらも顔を赤くして僕を見る。
(
どうやら――僕に選べ――という事らしい。
(やっぱり、面倒な事になった……)
「救世主様……さ、
アルティさんが自分の下着に指を掛け、引っ張る。
見えそうで見えない――というのも
「触るのなら、わたしの方が先約です!」
とセシリアさん。
僕の目の前に――たゆん!――と大きな胸を突き出す。
(この二人、
僕は溜息を
こういう時の対応は決まっている。
二人を手招きすると、
「
そう言って顔を近づけてくる。僕は片手を高らかに上げた。
――
「
二人の頭部に手刀をお見舞いする。
アルティさんとセシリアさんが頭を抑えた。
(やれやれだ……)
「メルク達の教育に悪いので
と僕は
すると――ハッ――とした表情を浮かべる二人。
「わ、わたしとした事が……」
申し訳ございません!――とメルク達に土下座するセシリアさん。
(そういうのが教育に悪いのだけれど……)
「
常に<ロリモン>様達の事をお考えとは――と言って、アルティさんは僕の手を取る。どうやら、感動して泣いているらしい。
「いや、アルティさんの場合は先に汗を
しかし――
「ワタシの心配をしてくださるとは……」
アルティさんは更に感動する。
(ダメだ――この人達……)
† † †
神殿で休むつもりが、
当然、彼女は
けれど、『ロリライブ』を行う
僕としてはただの口実だったけれど、セシリアさんはその理由で納得してくれた。
(後でお金を集める方法も考えないと……)
彼女には『ロリライブ』の場所の確保やスケジュールの調整をお願いする。
(これで開催の
一方、アルティさんにはギルドの方針をやんわりと伝えた。
最初に『ロリライブ』を成功させる
依頼については――僕が引き継いだ――という事にした。
「アルティさんには、他に頼みたい事があるんだ」
そう付け足しておく。
(後で、その『頼み事』を考えないと……)
また、セシリアさんには、
「明日はメルク達を休ませます」
と伝える。彼女はいつもメルク達が来るのを楽しみにしている
きちんと伝えておかないと心配するだろう。
案の定、しゅんとするセシリアさん。
僕は申し訳ない気分になる。
明日は『師匠の家』で休息する
「メルク様、わたしの事を忘れないでくださいね!」
とセシリアさん。
「うん、大丈夫だよ!――セシリアお姉ちゃん……」
そんなメルクの返答に、再び鼻を押さえるセシリアさん。
「セシリアの
とはイルミナ。
「出血で死ぬでち」
ルキフェも
詳しい事は、また後日、相談した方が良さそうだ。
僕達は神殿を出る事にした。
会議室を出る前に、アルティさんは僕に耳打ちをする。
「申し訳ありませんが、ワタシは『ダークエルフ』のため、お見送り出来ません」
と告げた。やはり、ゲームと同じで『ダークエルフ』は敵対する勢力のようだ。
それを隠す意味でも、
(まぁ、趣味でもあるんだろうけど……)
「それと――」
言い
(今更、恥ずかしがるような事はない気もするけど……)
「あの……ワタシは『ダークエルフ』なのですが、救世主殿は怖くないのですか?」
と聞かれた。本当に今更である。
僕は苦笑すると、
「アルティさんは綺麗で優しくて、とても頼りになる女性ですよ」
そう言って、会議室を後にした。
(あっ、そうだ!)
――
僕が振り返ると、彼女は両手で顔を
(どうやら、疲れているようだ……)
仕方なく、僕達は徒歩で帰る事にする。
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