第84話 神殿都市ファーヴニル(10)


(いったい、ルキフェは何処どこに行ってしまったのだろう?)


 周囲を見渡すが見付からない。

 こうなると、大通りから狭い路地に入った可能性がある。


 確か――怪しいヤツを見付けた――と言っていた。

 僕はしばしし、考え込む。


(ダメだ! 心当たりが多過ぎる……)


 ――この街には『怪しいヤツ』しかいないのか⁉


 仕方がないので【魔物感知】の<スキル>を使用する。


(ルキフェが引っ掛かってくれるといいのだけれど……)


 すると、ぐに反応があった。

 街の中に<魔物>モンスターが居る――とは考えにくい。


(ルキフェで間違いないはずだ……)


 僕は急いで反応のあった狭い路地を抜ける。

 流石さすが神殿都市ファーヴニル


 大通りから外れても治安は良さそうだ。

 しかし――キャーッ!――と女性の悲鳴が木霊こだました。


 僕は杖を取り出し、走る速度を上げる。

 更に狭い路地を抜けると、そこにはルキフェの他に見覚えのある人物が居た。


 ――『幼女鉄騎ようじょてっきロリガイン』だ!


 思わず、地面につんのめりそうになる。


(いや、待て――)


 人型兵器ロリガインを見付けたくらいで、わざわざルキフェが追い掛けるだろうか?

 怪しいヤツは人型兵器ロリガインではない。


(そうだ! 女性の悲鳴が聞こえたんだった……)


 よく見ると、ルキフェが外套フードの人物をつかまていた。


「捕まえたでち!」


 とルキフェ。相手に馬乗りになって勝ち誇っている。


「お役に立てたようでなによりです」


 とは人型兵器ロリガイン。道をふさぐように立っている。


「ひぃ~ん、誤解です~!」


 最後に外套フードの女性が地面に倒れていた。


(これはどういう状況なのだろう?)


 推測するに――


 ルキフェが追い掛けたので、外套フードの女性が逃げる。

 しかし、その先には運悪く人型兵器ロリガインがいた。


 ――という所だろう。


(取りえず、女性を助けるのが先かな?)


 僕は近づくと、ルキフェを後ろから両手で持ち上げる。

 そして、女性から離した。


あるじ? なにをするでちか……」


 とルキフェ。納得がいかないようだ。

 一旦、倒れている女性から話を聞こう。


「大丈夫ですか?」


 僕は手を差し伸べると、その女性を立たせる。

 同時に汚れを払った。


「あ、あのっ! ありがとうございます……」


 と女性はお礼を言う。どうやら、少女のようだ。

 僕と同年代だろうか? 特に怪しい感じはしない。


「ルキフェ……どうして、彼女を追い掛けたの?」


 僕の質問に、


「こいつ、隠れてチラチラとこっちを見ていたのでち!」


 ルキフェは少女を指差す。『外套フードかぶった姿』でだろうか?

 なるほど、それは確かに怪しい。


「でも、一人で追いかけるのは危ないよ……」


 僕の言葉に、


「フッ……出来る女は言われる前に行動するのでち!」


 と返し、自分の前髪の毛を払った。


(う~ん、困っただ……)


「次からは、ちゃんと僕に教えてね?」


 と言っておく。ルキフェは少し考えた後、


「分かったでち!」


 と答えた。


(大丈夫かな?)


人型兵器ロリガインも助かったよ、ありがとう」


 僕は人型兵器ロリガインにお礼を言う。


「いえいえ、守護者ガーディアンとして当然の事をしたまでです」


 と答える。どうやら、役に立てた事が嬉しいらしい。

 相変わらず表情は分からないけど、上機嫌に見える。


 さて、最後に少女の話を聞こう。

 僕は逃げられない様に、しっかりと手をつないでいた。


 しかし、逃げるどころか、彼女は僕の後ろに隠れている。

 どうやら、人型兵器ロリガインが怖いようだ。


(とことん、女性から人気がないな……)


 僕は外套フードの少女と向き合うと、


「えっと……どうして、僕達を隠れて見ていたの?」


 と問う。すると少女は、


「お、お礼を言いたくて……」


 と答え、外套フードを下ろす。

 現れたのは大人しい雰囲気の黒髪の少女だ。


(日本人だろうか?)


 髪型はサイドテールだ。側頭部で髪を束ねている。


「お礼?」


 僕は首をかしげた。


(そう言えば以前……)


 なんとか記憶を手繰たぐせる。


(確か、三人組にからまれていた女性を助けた事があったような……)


「ああ、あの時の?」


 僕に思い出してもらった事が嬉しかったのだろう。

 彼女は笑顔になると、


「はい、そうです! あの時、助けて頂いた者です……」


 運命ですね!――などと付け加えた。


 ――随分ずいぶん大袈裟おおげさだな。


なんだろう? 危険な感じがする……)


 一旦、この場を離れるべきだろうか?

 僕はルキフェを抱えると、


「そう言えば、人型兵器ロリガインに話があったんだ……」


 神殿に行こう!――この場からの移動をうながす。


「ま、待ってください! アスカ君……」


 と少女。何故なぜ、僕の名前を知っているのだろうか?


 ――いや、答えは簡単だ。


「えっと、もしかして――雷電院らいでんいんさん?」


 ツルギ達から名前は聞いている。

 三人目の勇者『雷電院らいでんいんハナツ』の事を思い出した。


 僕はその場を離れようとしているのに、彼女は必死に僕へとしがみ付く。


(彼女の何処どこにこんな力が……)


「は、はい――あたしの事を知っていてくれるなんて……」


 やっぱり、運命ですね!――と目を輝かせた。

 どうやら、思い込みの激しい性格タイプのようだ。


「いや、ツルギ達から聞いていただけ……」


 僕の説明に、


「じゃあ、これから仲良くなればいいんです!」


 あたしの事は『ハナツ』と呼び捨てにしてくだい!――そう言った後、


「うへへっ♥」


 とハナツさん。


なんだろう? 仲良くしたくない感じだ……)


あるじ、モテモテでちね……」


 とルキフェ。他人事だと思って、呑気なモノだ。


流石さすが、救世主殿! 見事な人心掌握術です……」


 とは人型兵器ロリガイン

 こっちはこっちで、なにを考えているのだろうか?


(ダメだ――この二人は役に立ちそうもない……)


「いや、これは多分『ストーカー』だから……」


 僕の返しに反応したのはハナツさんで、


「『ストーカー』なんてひどいです!」


 そう言って目に涙を浮かべる。

 確か彼女は『90年代』から来た<勇者>だと聞いている。


 その頃には『ストーカー』という言葉も定着していたのだろう。


「えっ⁉ ああ、ゴメン……」


 僕が謝ると、


「や、優しい……♥」


 とつぶやき、


「あたし、他人ひとよりも愛情表現がちょっと特殊なだけですから♥」


 と微笑ほほえんだ。


 ――やっぱり『ストーカー』なんじゃないだろうか?

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