第79話 三日月村(5)


 三日月村をおそった<魔物>モンスターもいなくなり、村に平和が戻った。

 死者や大怪我おおけがをした人もいない。


 村を囲うへいを補修する事も出来た。


(これで最初の目的は果たせたかな?)


 僕は<暴れイノシシ>の死骸しがいを回収する。

 その素材を村の人達に渡そうとしたのだけれど、断れてしまう。


 僕としては、勝手に補修用の資材を使ってしまった事が引っ掛かっていた。


弁償べんしょうしたかったのだけれど……)


「黙っておけば、バレないでち!」


「兄さんは絶対、損している……」


 とルキフェとイルミナ。オマケに『お人好し』と付け加えられた。

 村長からは逆に――お礼をしたい――と言われてしまう。


 けれど、僕は丁重にお断りした。

 ギルドへの報告もあるため、一旦、神殿都市ファーヴニルへと戻る事を告げる。


(途中で<魔物>モンスター死骸しがいも回収しなければならない……)


 <魔物>モンスターの襲撃があった後なので、村長としては僕達を引き留めたかったようだ。

 村の人達も不安そうしている。僕は少し考え、


「きっと後日、資材を持った冒険者達が、調査のために派遣されますよ」


 と言葉を掛けた。

 ギルドとしても、村人を見捨てたりはしないだろう。


(これで少しは、安心してくれるといいのだけれど……)


「それでは、お世話になりました」


 僕が頭を下げると、メルク達も真似まねをする。


「お世話になりました!」「さよらならでち!」「悪くなかった……」


 その返しとして、


「元気でな!」


 とはミノス少年。軽く手を振る。

 ルイスとレイアの弟だけあって、小さい子達への面倒見がいいらしい。


 村の子供達も彼にならい――バイバイ――と手を振る。

 どうやら、メルクと仲良くなったようだ。


「ヒヒ~ン、ヒンッ!」


「おお、黒い仕立屋シュバルツシュナイダー――お前も達者で暮らすのでち!」


 とはルキフェ。何故なぜか、馬が見送りに来ている。

 謎だけれど、気にしないでおこう。


(ルキフェは動物と仲良くなる才能でもあるのだろうか?)


 こうして見ると<ロリモン>と人との共存は難しくないような気がする。

 師匠が目指している世界に、少しは近づけただろうか?


(そのためにも、早く<魔族>をなんとかしないと……)


 僕にそんな気持ちが生まれた。

 レイアは『今日は親戚の家に泊まる』との事だったので、お別れとなる。


 明日、馬車で神殿都市ファーヴニルへと戻る予定らしい。

 一応、ギルドへは彼女の方からも報告してくれるそうだ。


(正直、助かる……)


 名うての冒険者である『ルイス』。

 その妹で神殿都市ファーヴニルの衛兵という立場の『レイア』。


(きっと、僕の発言よりも重要視されるだろう……)


 彼女には僕の推測を伝えていた。

 レイアにとっては父親のかたきでもある<魔族>。


 それが暗躍しているとなれば、手を貸してくれるだろう。

 これで<冒険者ギルド>も対<魔族>への行動を取ってくれるはずだ。


(やれやれ……)


 <ロリス教>とギルド上層部の仲が悪いのも困りモノだ。

 僕が表立って行動すると角が立つ。お陰で正攻法が使えない。


 僕達は村人に見送られ、三日月村を出立した。



 †   †   †



 三日月村へ行く途中で討伐とうばつした<魔物>モンスター

 僕はその死骸しがいを無事、回収する事に成功する。


(どうやら、周辺の<魔物>モンスターすで駆逐くちくされていたらしい……)


 <ブラックホーンラビット>達が食べたのだろう。

 よって、<魔物>モンスター死骸しがいは手付かずのままだ。


(もしかして、倒す順番に関係していたのかも知れない……)


 僕達が最初に倒したのは<プランダークロウ>だ。

 天敵が居なくなったので――<ウサギ>達が繁殖した――とも考えられる。


(ゲームでもボスを倒す順番によっては、敵の強さが変わる場合がある……)


 こんな風に効率を考えてしまうのは、ゲーム好きゆえだろうか?

 僕は苦笑しつつ、どうやって死骸しがいを処分しようか考える。


(結構な量だから、時間が掛かりそうだ……)


 【アイテムボックス】も一杯になっている。

 少し早いけれど、僕はメルク達に食事をとらせる事にした。


(それにしても、想定外の戦闘だったな……)


 連戦に次ぐ連戦。

 目的のレベルアップは達成出来たけれど、心臓に悪い展開が続いた。


(欲を言えば、アリスとガネットのレベルを上限まで上げたい所だけど……)


 ――でも、今日はもう戦闘はしたくない。


 ガネットに浅い穴を作ってもらい、解体で不要になった部位を捨てる。

 【ファイヤーボルト】で一気に焼く。


(威力も上がっているので、二発もてば十分だろう……)


 続いて、少し離れた場所で焚火たきびをする。

 <ロリモン>達に食べさせる肉を焼くためだ。


 食事という事もあり、アリスが張り切ってまきを集めてくれた。

 手に入った肉を棒に刺して焼く。


 安定したのか――パチパチ――という焚火たきびぜる音も減る。

 燃え上がる火を見詰めながら、僕はミノス少年との会話を思い出す。


 一緒に帰るなら送るよ――と提案したのだけれど、断られてしまった。

 しばらくは、村の手伝いをするので帰らないそうだ。


 『勇者召喚』という事で今、神殿都市ファーヴニルはちょっとしたお祭り状態である。

 かせぎ時だからね!――と言っていた。


 家族に楽をさせたいらしい。


(あんな事があった後なのに、なんともたくましいな……)


 僕はげないように肉を焼いていく。

 けれど、流石さすがにメルク達はお腹が一杯のようだ。


 アリスとガネットだけが、まだ食べていた。


(急速なレベルアップに関係があるのかも知れない……)


 『進化』したメルク達よりも、『進化』していないアリスやガネットの方が強くなる余地がある。その分――多くの食料を必要とする――のではないだろうか?


 そして、食べる量はレベルに比例する。

 しばらくは、この推測で育ててみよう。


 僕は肉を焼くのをめる。

 ルキフェには、火の番とアリス達の面倒を見てくれるように頼んだ。


「頼むよ――出来る女のルキフェにしか頼めないんだ」


 僕の台詞セリフに、


「仕方ないでちねぇ――アタイ、出来る女でち!」


 とルキフェはこころよく承諾してくれる。

 イルミナには周囲の警戒を頼んだ。


 <魔物>モンスターの危険はないだろう。

 しかし<一角いっかくウサギ>の大量発生のうわさが流れていた。


 ギルドや冒険者が動いている可能性がある。

 <ロリス教>関係者である僕は、彼らと折り合いが悪い。


 現状において極力きょくりょく、関わりたくはなかった。

 さといイルミナの事だ。その辺は言わなくても理解してくれているようだ。


「分かったよ、兄さん……」


 なにかあったら、ぐに知らせるね――そう言って、彼女は飛び立つ。


(さて、残りの問題はアレかな……)


 街道の一部に、黒い霧のようなモノが立ち込めていた。

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