第80話 微風街道(5)


 目の前には、黒い霧のようなモノが立ち込めている。


 ――<魔素まそだまり>だ。


 師匠の話から推測するに<ロリモン>はこれを浄化する事が出来るらしい。

 僕は一緒に来てもらったメルクに、


「メルク、如何どうにか出来そう?」


 と聞いてみる。

 すると――う~ん?――首をかしげ、彼女はなやむ。


 ここは街道だ。行き交う人も多いだろう。

 こんなモノがあると、いつまた凶暴な<魔物>モンスターが発生するとも限らない。


 また、三人組の件もある。

 人体や精神にも影響が出るはずだ。


(放って置くのは、非常に危険だ……)


 ――<魔物>モンスターの存在が『魔素まそ』の発生をおさえてくれている。


 それが僕の予測だった。

 恐らく<魔物>モンスターの数が減ったために発生したのだろう。


 きっと僕達が<魔物>モンスターを一掃した事にも関係ありそうだ。

 そう考える根拠は『魔物の肉』にある。


 ――<魔物>モンスターは黒い『魔素まそ』をたくわえる。


 そのため、食用としては使えないのだろう。

 しかしそれは別の可能性を意味していた。


 <魔物>モンスターが『魔素まそ』を吸収している――という可能性だ。

 そのため、<魔物>モンスターが多いと<魔素まそだまり>は発生しにくい。


 結果として<魔物>モンスターの存在が『魔素まそ』の発生をおさえる事につながる。


(でも……)


 だからといって<魔物>モンスターを増やす訳にもいかない。

 同時に危険な存在でもあるからだ。


(仲良く暮らす――とう訳にはいかないだろうな……)


 そこでメルク達<ロリモン>の出番となる。

 彼女達は意思の疎通そつうが可能だ。


 更に、普通の<魔物>モンスターには出来ない『魔素まそ』の浄化まで出来る。


(かつては誰もが、この認識だったのではないだろうか?)


 <ロリス教>が一大勢力だった――というのも<ロリモン>を独占していたのが理由だろう。


 ――けれど人間の数が増え、<ロリモン>の数がりなくなると状況が変わる。


 『ロリス教徒』は<ロリモン>達を奪い合い、次第に衰退すいたいしていった。

 そして<ロリス教>の代わりに別の宗教が台頭たいとうしてくる。


(容易に想像が出来る展開だ……)


 <ロリス教>としては<ロリモン>達を守るため、その存在を秘匿ひとくとするだろう。

 また<ロリス教>を邪魔じゃまだと思う連中は、真実を隠蔽いんぺいするはずだ。


(まさに悪循環と言える……)


 かつて、この世界は人間と<魔物>モンスターが共存していた可能性が高い。


(<魔王>に会ってみる必要があるかも……)


 いつの間にか、僕は一人で考え込んでしまっていたらしい。

 メルクが心配そうに僕を見詰めていた。


「無理ならあきらめるよ」


 僕はメルクに告げる。

 『魔素まそ』を吸収し過ぎると<魔物>モンスターは狂暴化してしまう。


 メルクに変な影響が出ても困る。


(この世界は僕が思っているよりも、終わりが近いのかも知れない……)


「お兄ちゃん、大丈夫だよ!」


 私、出来るかも!――とメルク。

 正直、どういう影響が出るのか分からない。


(『無理』と言って欲しかったのだけれど……)


 しかし、今は彼女の言葉を信じる事にする。

 メルクは躊躇ためらう事なく<魔素まそだまり>の中へ入っていった。


 僕が固唾かたずんで見守っていると、次第に黒い『魔素まそ』は消えて行く。

 やがて完全に『魔素まそ』が消え、メルクが姿を現す。


(大丈夫だろうか?)


「メルク?」


 僕が近づくと、彼女は――パチクリ――と閉じていた瞳を開く。


「あっ! お兄ちゃん、終わったよ」


 そう言って、僕にきついてきた。


(良かった!)


 ――どうやら、大丈夫のようだ!


 僕はメルクの頭をでる。

 うにゃあ♥――と彼女は嬉しそうに微笑ほほえんだ。


「さて、皆のところに戻ろうか?」


「うん!」


 僕はメルクと手をつなぎ、歩き出す。

 丁度、そこへ――


「兄さん! <ヘンタイ>だ……」


 とイルミナが飛んで来る。

 僕としては――また、そのパターンか――と思ってしまった。 


れたくはないんだけどな……)


 しかし、イルミナの慌てようから、急を要するらしい。


「今、<コウモリ>達が相手をしている……」


 とイルミナに教えられた。

 僕はメルクをかかえるとルキフェ達の元へと急いだ。



 †   †   †



 結論から言うと、相手は人間ではなかった――人型兵器ロボットだ。


(いや、中に人間が入っているんだろうけど……)


 鎧と言ってしまえば、それまでだ。

 けれど、全身を覆う意味がない。


 むしろ、鎧の重さで動けなくなってしまうだろう。

 死角も増えるだろうし、なにより一人では脱げないはずだ。


 身長は優に2メートルを超えている。


(もしかしたら、3メートルはあるかも知れない……)


 また、形状デザインを考えるに、変形機能や兵器が搭載されている可能性が高い。


 ――きっと、光線ビーム飛翔弾ミサイルが出るに違いない!


 ゲームやアニメで御馴染おなじみため、容易に想像出来てしまう。

 普通の鎧とは明らかに違う。


みょうに少年心をくすぐる……)


 日本から来た人間が関わっている事は明白だ。


「コノッ、コノッ! 参ったでちか!」


 とルキフェが相手の頭部に乗って、素手でペチペチと叩いている。

 金属製なので、相手は痛くもかゆくもないはずだ。


 そんな人型兵器ロボットの足元では、


「うぉーっ! カッケェ!」


 とアリスが目を輝かせていた。彼女は少年の心を持っているらしい。


(そうだ! ガネットは何処どこだろうか?)


 僕が周囲を見回すと、


 ――ポコポコポコッ!


 地面が盛り上り、僕に向かって近づいてくる。


「うぇ~ん、ご主人しゅじ~ん!」


 そう言って、ガネットは地面から顔を出す。

 僕はメルクとつないでいた手を離すと、ガネットを両手で持ち上げる。


 彼女の身体に付いた土を払う。

 イルミナの話によると、この人型兵器ロボット突如とつじょとして空から現れたらしい。


(まぁ、こんなのが行き成り現れれば、誰だっておどろくだろう……)


 そういった意味では、ルキフェもアリスも大物おおものだ。

 僕はガネットをメルクに預けると、ルキフェを回収した。


「えっと、ウチのが迷惑を掛けてすみません」


 得体の知れない相手なので、まずはびておく。


(いや、十中八九『ロリス教徒』なんだろうけど……)


 すると――ギュインッ!――と相手の両眼部分が光る。

 そういう仕掛けギミックらしい。


「アスカ殿とお見受けする!」


 機械を通している所為せいか、肉声ではない。

 やはり、中に誰か入っているのだろう。


 僕の返答を待たずに、


「ワタシは『幼女鉄騎ようじょてっきロリガイン』――<ロリモン>様達の守護者しゅごしゃだ!」


 人型兵器ロボットは――ガションッ!――とお決まりの姿勢ポーズを決めた。


(うん、知ってた……)


 ここはおどろいてあげるのが、大人としての対応だろう。


(ヒーローショーだと思って付き合う事にするか……)

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