第72話 微風街道(2)


 どうやら、不味まずい事になったみたいだ。



  ルキフェのレベルが1上がりました。

  イルミナのレベルが1上がりました。


  アリスのレベルが1上がりました。

  ガネットのレベルが1上がりました。



 <メッセージウィンドウ>が鬱陶うっとうしいとは――

 確かに、レベルが低い時には良くある事だ。


 けれど、流石さすがに今は勘弁して欲しい。

 敵は弱いとはいえ、三十羽は居る。


(大技を使えば、ぐに倒せそうだけど……)


 しかし、この他に敵が居た場合は厄介だ。


「えいっ!」


 メルクの腕が伸び、パンチが決まる。

 近づこうとした<一角いっかくウサギ>が地面に転がった。


 現状は彼女に盾役を頼み、守ってもらっている状況だ。

 情けない状況だけれど、そうも言ってはいられない。


(このウサギ達、いつもなら逃げ出すはずなのに……)


 ガチガチと歯をみ合わせ、完全にこちらを食べるつもりだ。

 数が多いからなのだろうか? 一斉に飛び掛かって来る。


我が闇の力に恐怖せよパラライズショック――でち!」


 とルキフェ。そう言って腕をかざす。

 するとバチバチと音を立て、電撃のような光が走る。


 複数のウサギ達が動きを止めた。

 地面に転がり、ピクピクと痙攣けいれんしている。


 どうやら、【パラライズショック】を使ったようだ。


(分かりにくいので、ちゃんと魔法の名称を言って欲しい……)


 倒れた<一角いっかくウサギ>に向かって、アリスが走る。

 そして――えいっ、えいっ!――と棍棒でとどめを刺した。


 同種であっても、遠慮はないらしい。

 アリスは一仕事終えた様子で――ふぅーっ!――と額の汗をぬぐう。


 勝利はしたけれど、油断は良くない。


「危ない!」


 とメルク。数が多いため麻痺まひが完全ではなかったようだ。

 ヨロヨロと起き上がる<一角いっかくウサギ>達。


 一斉にアリスへ向かって、飛び掛かる。

 メルクはそれに気付いたのだろう。


 腕を伸ばして、アリスを回収した。


「おう、助かったぞ!」


 とはアリス。

 メルクに向かい――サンキューだぞ――とお礼を言う。


 一方、目標が突如として消えた事に混乱する<一角いっかくウサギ>達。


「メルク、良くやった!」


 僕はそう言いつつ【ウィンドカッター】を放った。

 致命傷とは行かないが、数羽に傷を負わせる。


(本来なら、【ウォータープリズン】で一掃いっそうしたい所だけど……)


 大技を出した場合、すきが生まれる。

 この状況では、その間に別の集団から攻撃を受けてしまうだろう。


 ――やはり、先に数を減らす必要がある。


 そうでなければ、アリスやガネットが先にやられそうだ。

 守りながら戦うには、メルクを上手く使う必要がある。



  ルキフェのレベルが1上がりました。

  イルミナのレベルが1上がりました。


  アリスのレベルが1上がりました。

  ガネットのレベルが1上がりました。


 

 再び<メッセージウィンドウ>が表示された。

 恐らく、イルミナだ。


 上空から狙いを定め、確実に一羽ずつ仕留めているのだろう。


「今は耐える時間か……」


 僕がつぶやくと、


「面倒でちね……一掃いっそうしないんでちか?」


 ルキフェが質問してくる。僕は、


「これだけの数が、逃げずにおそい掛かってくるんだよ……」


 と答え、彼女に考えさせた。


「人気者はつらいでちね」


 ルキフェの珍回答に、


「ボスが居る可能性があるだろ?」


 僕は訂正する。

 <ジャイアントボア>は下位種の<暴れイノシシ>を操作していた。


 今回も同様に考えるべきだろう。


(<ジャイラントラビット>なんて、大きなウサギが出てきたら嫌だな……)


 つい、そんな事を想像してしまった。

 『可愛い』という意見もあるだろうが、肉食なので洒落しゃれにならない。


 頭からガジガジされたくはない。


「温存という訳でちね……」


 成長したお陰で、ルキフェも少しは物分かりが良くなったようだ。

 本来なら頭をでて上げたい所だけど、今はその時間がない。


 この会話の間に攻撃されないのは、他の<一角いっかくウサギ>が弱った<一角いっかくウサギ>を食べているからだ。


 ――『共喰い』である。


 腹が減っている――というよりは、強くなるためだろう。

 僕からしてみれば、思わず顔をおおいたくなるような光景だ。


うまそうだぞ!」


 とよだれを垂らすアリス。

 一方でガネットは僕の足にしがみ付き、


「ひぃ~っ!」


 と悲鳴を上げた。

 <一角いっかくウサギ>は食べ終わると、再び、僕達へと飛び掛かって来た。


 しかし、メルク達にはすでに指示を出している。彼女の【ウォーターボール】とルキフェの【パラライズショック】で動きをめた。


 けれど、まだ<一角いっかくウサギ>は居る。

 再び『共喰い』が始まった。


(強くなられても厄介だな……)


 メルクに腕を伸ばし、何羽なんわかを回収してもらう。

 すると血気盛んなアリスが棍棒でとどめを刺した。


「えいっ、えいっ、えいっ!」


 ふぅ~っ!――と一息くアリス。 



  ルキフェのレベルが1上がりました。

  イルミナのレベルが1上がりました。


  アリスのレベルが1上がりました。

  ガネットのレベルが1上がりました。



 再び<メッセージウィンドウ>が表示された。

 どうやら、強くなった<一角いっかくウサギ>のようだ。


(これはのんびりしていると危険かも知れない……)


「どうしたの? お兄ちゃん……」


 僕の様子に気が付いたのか、メルクが質問する。


「村のそばにこれだけのれが待機していただろ?」


「うん!」


「もしかしたら、村をおそう作戦だったのかも知れない……」


 僕の推論に『大変だよ!』という表情をするメルク。

 後少し遅れていたら、村にこの数が雪崩なだれ込んでいた可能性もある。


「間に合って良かったよ」


 安堵あんどする僕に、 


「人間達がどうなろうと知った事ではないでち」


 とルキフェ。しかし、顔をらすと、


「で、でも……間に合って良かったでち」


 そんな事をつぶやいた。進化した姿は、あまり変わらないと思っていたルキフェだったけれど、ちゃんと成長しているようだ。

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