第73話 微風街道(3)


 僕の頭上を影がおおった。

 バサバサ――という翼の羽搏はばたきと共に、


「兄さん、大丈夫?」


 上空からイルミナが戻ってきた。

 まだ<一角いっかくウサギ>は残っている。


なにかあったのだろうか?)


 ――嫌な予感がする。


「メルク達が頑張ってくれたからね……大丈夫だよ」


 僕の返答に、


「そう、良かった」


 イルミナはそう言うと――ギュッ――急に抱き着いてきた。


「ズルい!」「ずるいでち!」


 メルクとルキフェが抗議をする。

 けれど、<一角いっかくウサギ>を相手にしているため、手が離せないようだ。


「どうしたの?」


 僕がイルミナの頭をでると、


「兄さんを補給している」


 と答えた。昨日から、あまりかまってあげられていない。

 その反動だろうか?


(戦闘中なので、早く戦いに参加して欲しい所だけれど……)


 このままだと、メルクとルキフェがこっちに戻って来そうだ。


「残念、時間切れ……」


 そう言ってイルミナは僕から離れた。

 同時に僕の背後に回り込む。


 そして、表情を変えることなく槍を旋回させる。

 僕に向かって突撃してきた<一角いっかくウサギ>を槍で串刺しにした。


「ひぇ~ん……」


 とはガネット。僕の足にしがみ付いて離れようとしない。

 レベルもそれなりに上がっている。


 【ステータス】的には<一角いっかくウサギ>など敵ではないはずだ。

 現にアリスは嬉々ききとして<一角いっかくウサギ>を撲殺ぼくさつしている。


「それよりも、特別な個体を見た」


 とイルミナ。彼女のその表情から『色違い』ではないようだ。

 <一角いっかくウサギ>の上位種が出た可能性が高い。


「森の方に逃げて行った」


 追い掛ける事も出来ただろう。

 けれど、彼女は報告に戻ってきたらしい。


(今回はそれでいい……)


「イルミナに怪我けががなくて良かったよ」


 僕はそう言って、彼女に回復薬ポーションを渡した。


「兄さん、怪我けがはしてないよ?」


 首をかしげるイルミナに、


「体力を回復した方がいいだろ?」


 と返した。ゲームと違い、永遠に戦い続ける事は出来ない。

 効率良く戦闘をためにも、休む必要がある。


 同じような理由で、武器も使い続ける事は出来ない。

 血や油で切れ味が悪くなったり、刃毀はこぼれするからだ。


 よって、HPは減っていなくても、体力スタミナは減っているだろう。


「分かった! 上位種との戦闘にそなえる……」


 イルミナは少しの間、休む事にしたようだ。

 その代わり、ガネットの背中を――ポンッ――とたたいた。


 そして笑顔で――ガンバレ!――と応援する。


「ふぇ?」


 とガネット。完全に油断している。

 イルミナは彼女の服をつかむと、そのまま放り投げた。


 放り投げた――といっても、大した飛距離ではない。

 先程、イルミナが串刺しにした<一角いっかくウサギ>の死骸しがいそばだ。


 どうやら、こっそりと食べに来ていた<一角いっかくウサギ>が居たらしい。

 ガネットと<一角いっかくウサギ>。目と目が合う。


「キシャーッ!」


 と威嚇いかくする<一角いっかくウサギ>に対し、


「ふぇ~ん!」


 なんとも、気の抜ける声を上げるガネット。

 しかし――スパンッ!――と園芸用具スコップを振る。


 ――ゴキッ!


 同時ににぶい音を立てて、<一角いっかくウサギ>を吹っ飛ばした。



  メルクのレベルが1上がりました。

  ルキフェのレベルが1上がりました。

  イルミナのレベルが1上がりました。


  アリスのレベルが1上がりました。

  ガネットのレベルが1上がりました。  



 <メッセージウィンドウ>が表示される。

 どうやら、一撃で倒してしまったようだ。


 あの鈍い音は『骨を砕いた音』だったのだろう。

 意外と力がある。


かく、これで準備が整った……)


「思ったより、飛んだね」


 とはイルミナ。一方、


「ふぇ~ん! ご主人~」


 ガネットは慌てて、僕のもとへと走って逃げてくる。

 僕はかがんで彼女を抱き締めると――良くやったね!――とめた。


「ふぇ?」


 おどろくガネットに対し――ボクの計算通り――とはイルミナ。


 ――絶対、うそだ。


 当然、負けるとは思っていなかっただろう。

 けれど、もう少し苦戦するとは思っていたはずだ。


 今後の事を考えると早い段階で戦闘を経験した方がいい。

 イルミナが正しいとは断言出来ないけれど、間違ってもいなかった。


(まぁ、僕には真似まねの出来ない遣り方だ……)


 僕の代わりに――悪役を買って出てくれた――と思う事にしよう。

 後はレベルの上がったメルクの<スキル>の設定しなければならない。


 早速、皆に集合を掛ける。


「一掃するよ!」


 の掛け声に――待っていたでち!――とルキフェ。


「どうするの?」


 僕の視線に気付いたのだろう。

 メルクは首をかしげた。



 †   †   †



 作戦としては単純だ。

 まずはメルク達のHPとMPを回復させる。


 そして、ガネットの<スキル>【マイニングホール】を使用した。

 大きな穴を掘る<スキル>だ。


 僕達はその穴に隠れた。

 後は此処ここおびき寄せて迎撃する。


 イルミナの話だと<一角いっかくウサギ>達のボスは近くには居ないらしい。


(逃げたようも思えるけど……)


 知能が高い事がうかがえる。ただ『逃げただけ』とも思えない。

 しかし、それよりも今は<一角いっかくウサギ>への制御コントロールが弱くなっている方が重要だ。


「メルク……頼むよ」


 僕のお願いに――任せて!――といつものように彼女は微笑ほほえむ。

 『増殖ぞうしょく』の<スキル>【プロライフレーション】を使用する。


「ふ、増えたでち!」


 とさきおどろいたのはルキフェだ。


「でも小さい……」


 とはイルミナ。

 そこに居たのはメルクの他に『進化』前の姿をしたメルク達だった。


(全部で四人居る……)


「うにゃー」「うにゃー」「うにゃー」「うにゃー」


 と小さいメルク達。

 見た目は可愛いけれど、戦力としては十分だろう。


「メルクは大丈夫?」


 僕は彼女に負担がない事を確認する。


「うん、問題ないよ!」


 とメルク。どうやら大丈夫のようだ。

 時間制限のある<スキル>だから、早めに決着を付けなくてはいけない。


「じゃあ、行くよ!――【コール・ザ・アニマル】!」


 僕は<魔物>モンスターを呼び寄せる<スキル>を使用した。

 するとぐに<一角いっかくウサギ>達が押し寄せてくる。


(やはり、ボスの制御コントロールが弱くなっているようだ……)


 次々に穴に向かって飛び込んできた。

 逃げ場はないので、取りこぼす事もないだろう。


 <一角いっかくウサギ>達を小さいメルク達でむかつ。


「うにゃー」「うにゃー」「うにゃー」「うにゃー」

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