第六章 守れるか⁉ ロリモン防衛戦線?

第70話 神殿都市ファーヴニル(9)


 セシリアさんの介抱も終わり、僕達は神殿を後にする。


(――というか……)


 彼女の事だ。

 <ロリモン>達が居ると、また鼻血を出して倒れる気がする。


(今度、貧血予防の食べ物でも持って行こう……)


 途中、街の道具屋で冒険に必要な<アイテム>をそろえた。

 そして、レイアの居る屯所とんしょへと向かう。


(今日も、おばちゃん達に捕まるのかな……)


 そんな事を考え、覚悟を決める。

 しかし、今回は建物に入る前にレイアの姿を見付けた。


 だが、他の衛兵やおばちゃん達も居る。

 雰囲気的にレイアが皆に見送られているようだ。


「ちょっと、走るよ」


 そう言って、僕は駆け出す。

 しかし、背嚢リュックにはアリスとガネットが入っている。


 結局、メルク達の方が早いため、ぐに追い抜かれてしまう。


「レイアお姉ちゃん、どうしたの?」


 とメルク。彼女の足元に駆け寄ると、真っ先に訪ねた。


「ああ、メルクちゃん……」


 メルクに気が付き、それまで不安そうな表情をしていたレイアが笑顔になる。

 僕が追い付くと、


「ほらぁ、来たわよ」「待ってたのよぉ、もうっ!」


 そう言って、おばちゃん達が喜ぶ。

 しかし、何故なぜか同時に僕の腕や肩をたたいた。


(別に来る約束はしていないのだけれど……)


 どうやら、彼女達の中では確定事項だったらしい。話を聞くと――彼氏が来るから、もう少し待っていなさい!――と言って、レイアを引き留めていたようだ。


(彼氏じゃないので気不味きまずい……)


 否定すると面倒だ。

 どう対応すべきか、一度、レイアの表情かおを見る。


なんとなく謝っている気がする……)


 合わせて欲しい――という事だろうか?

 僕は黙っている事にした。


「話が見えないでち?」


 とルキフェ。


「兄さんが必要? 冒険者の依頼かも……」


 首をかしげ、イルミナがつぶやく。

 おばちゃん達は――そ~なのよぉ!――と言った後、


「あら、子供って成長するのが早いのねぇ~」


 とおどろいていた。


(今、そこは問題ではない――気がするのだけれど……)


 説明するのも面倒なので、


「ええ、そうなんですよ……」


 と僕は返しておく。


「あらやだぁ~?」「そうなのぉ~?」


 そう言って、おばちゃん達は笑い声を上げた。

 どうやら、彼女達は細かい事をあまり気にしないらしい。


なに可笑おかしかったのだろうか?)


 ルキフェやイルミナについて、追及されない事に安堵あんどしつつ、僕は深く考えるのを止めた。


 しかし、今度は――


「アニキ、どうした?」「ご主人しゅじん?」


 そう言って、アリスとガネットが背嚢リュックから顔を出す。


(これは説明が必要かな?)


 僕が困っていると、


「あらぁ、飴ちゃん食べる?」


 おばちゃんの一人が透かさず袋から飴を取り出した。

 アリスは遠慮なく受け取ったが、ガネットは警戒して背嚢リュックに隠れる。


「アタイも、アタイも欲しいでち!」


 とはルキフェ。


「さっき、ギルドでお菓子を食べただろ……」


 僕は小言を言ったが、ちゃっかりと、メルクとイルミナも飴を受け取っていた。


 ――やれやれだ。


(それにしても、異世界のおばちゃんも飴を常備しているモノなのかな?)


 関西の文化だと思っていた――いや、だから今はそこじゃない!

 どうにも、おばちゃん達が相手だと調子がくるう。


「あ、ありがとうございます……」


 僕はメルク達の代わりにお礼を言ってから、


「話が進まないから、手短に説明してくれる?」


 とレイアに確認した。彼女は苦笑すると、


「これから『三日月みかづき村』に向かう所だったんだよ」


 と教えてくれる。


「確か、レイアの弟が……親戚の仕事を手伝いに行っているんだよね?」


 僕の返答に一瞬、レイアは面食らったような顔をした。

 なんで知っているの?――という表情だ。


 けれど、ぐにおばちゃん達を一瞥いちべつして、溜息をいた。

 どうやら、情報源を特定したようだ。


なんとなく分かったよ――レイアの護衛をすればいいんだね!」


 あの辺りは<一角いっかくウサギ>も大量発生しているらしい。

 レイアが強いとはいえ、女性一人では危険だろう。


「あら、話が早くて助かるわ!」


「兄ちゃん、頼むぜ!」


「気を付けるんじゃぞ……」


 屯所とんしょの人達が思い思いの言葉を掛けてくる。

 レイアは大切にされているようだ。


なんだか、僕まで嬉しくなる……)


 メルク達もレイアと面識があるためだろう。

 今回ばかりは『お人好し』とは言われなかった。


 彼女の父親は騎士団の隊長だったけれど、一代限りの騎士だ。

 レイアが『貴族に嫁ぐ』という選択肢もあったのだろう。


 けれど、その父親は<魔族>との戦いで敗れてしまった。


(それで王都から、神殿都市ファーヴニルに来たんだよね……)


 レイアの兄も父の後を継ぐ気はないらしい。

 気ままな冒険者暮らしをしているそうだ。


 また、彼女自身も騎士団に所属していたのだけれど、母親が心配するため、辞めてしまった。それで家族全員、この街へと移ったらしい。


(まぁ、騎士団を見ると父親の事を思い出すだろうしな……)


 ただ、腕に覚えのあった彼女は衛兵の仕事にいたようだ。

 男顔負けの実力らしい。


 それが理由なのか、現在、彼氏はいないそうだ。


(あれ? もしかして、男除おとこよけにつかわれている……)


 付き合っている彼氏ひとが居れば、おばちゃん達にあれこれ言わる事もない。

 あの様子では、見合い話などを勝手に持ってきそうだ。


(苦労しているのかな?)


「じゃあ、行ってきます!」


「行って来るね☆」「行って来るでち!」「行ってきます……」


 僕に続いてメルク達も挨拶をする。

 偉いぞ!――と彼女達を褒める中、不安そうにしているレイアに気付く。


(家族を失っているんだもんな……)


 不安になるのも無理はないだろう。

 僕はそんな彼女の手を取った。


(詳しい話は道中、レイアから聞くか……)


 今は少しでも、彼女の力になりたい。

 屯所とんしょの人達に見送られ、僕達は街を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る