第69話 ヨージョ神殿(9)


「来いでち!」


 とルキフェ。下着姿で気合を入れる。

 僕の目の前には<メッセージウィンドウ>が表示された。



  『進化』を開始しますか?



「イエス!」



  <吸血きゅうけつコウモリ>の上位種<ジャイアントバット>への『進化』が可能です。

  また、<アイテム>を使用する事で、別の上位種へ進化する事が可能です。


  <アイテム>を使用しますか?



「イエス!――『闇の石』を使用……」



  <吸血きゅうけつコウモリ>ルキフェの進化を開始します。


  ――進化成功!


  ルキフェは<吸血きゅうけつコウモリ>から<ヴァンパイアバット>へと進化しました。



 同時に魔法陣が展開され、ルキフェが光に包つつまれる。

 光の球体の中、彼女の輪郭シルエットが変わった。


 次の瞬間には光が消え、ルキフェが再び姿をあらわす。

 やはり、メルクと同じだ。


 人間の年齢で言えば、七、八歳くらいだろうか?

 成長はしたけれど、身長以外はあまり変わった様子はない。


 いて言うのであれば、髪が少し伸びた位だろうか?


 ――いや、<コウモリ>の翼が大きくなっている。


 <ステータス>を確認すると、全ての能力が上昇していた。


(どうやら、成功のようだ!)


「ワタクチ、ワタクチ……ワタクチ?」


 ルキフェは何度なんどか同じ単語をつぶやく。


のどの調子でも、悪いのかな?)


「アタイ……アタイの姿に平伏ひれふすがいいでち!」


 バサッ!――そう言って翼を外套マント代わりにひるがえす。

 どうやら、まだ舌足したたらずのようだ。


 『ワタクシ』とは言えないので、『アタイ』で妥協だきょうしたらしい。


(性格はそのままのようだな……)


 僕は内心、安堵あんどすると、


すごいね! ルキフェ……」


 そう言って、彼女の頭をでた。

 するとルキフェは――フンッ!――と鼻息を荒くする。


 また、両手を腰に当て、胸を張った。


「これからはアタイの時代でち!」


 と彼女は言い切る。下着姿でなに息巻いきまいているのだろうか?

 早く、服を着ないと風邪かぜを引くかも知れない。


「ルキフェ、カッコイイよ!」


 とはメルク。調子を合わせてくれる優しい彼女の言葉に、


「<スライム>……余裕よゆうで居られるのも、今だけでちよ」


 とルキフェは返した。

 しかし、どう見ても飛来具ブーメランだろう。


 ルキフェが調子に乗って、ひどい目に場面シーンしか想像出来ない。

 それはイルミナも同じようだ。彼女は声には出さず、両手で口を押えて笑った。


「うん、頼りにしてるよ☆」


 そう言って、メルクはなおも、ルキフェを調子付かせる。


「<スライム>、天然?」


 とはイルミナ。

 どうやら、メルクが本気で言っている事に戸惑とまどっている様子だ。


「クックックッ……大いなる闇の力がみなぎるでち!」


 あるじ包帯ほうたい寄越よこすでち!――とルキフェ。


(今は包帯ほうたいよりも、服を着て欲しいのだけれど……)


「大丈夫? ルキフェ……」


 メルクは心配する。


「ううっ……闇の力が――暴走するでち……」


 ルキフェはそう言うと、右手を押さえ、苦しそうにうずくる。

 どうやら、『進化』して中二病が悪化したようだ。


「<コウモリ>、バカ?」


 とはイルミナ。

 完全にあきれた様子でルキフェを見詰めている。


 僕はそんなに彼女に、 


「さて、次はイルミナだけど……」


 と声を掛ける。

 するとイルミナは、いつもの冷静さを取りつくった。


 そして――


「大丈夫、いつでも、可」


 と自信満々に答える。頼もしい限りだ。


無視むししないで欲しいでち!」


 とルキフェ。僕はイルミナに、


「じゃあ、行くよ!」


 と確認する。


「だから無視しないで……ううっ、左手に封印されち、暗黒竜あんこくりゅうが――」


 再びうずくるルキフェ。


「さっき押さえていたのは『右手』だよね?」


 僕の言葉に彼女は慌てて押さえる手を変える。


(もういいや……)


「ゴメンね――イルミナ……」


 僕は中断した事を謝った。すると彼女は首を横に振って、


「兄さん、悪くない」


 と言ってくれる。続けて、


「悪い、<コウモリ>、頭」


 とルキフェを指差す。


「な、なんでちって……モゴッ」


 ルキフェの口をメルクがふさいでくれた。

 窒息ちっそくしない内に早く済ませてしまおう。


 僕はイルミナと視線を交わすと<スキル>【レボリューション】を使用した。



 †   †   †



 光の球体の中から現れたのは、成長したイルミナだ。

 身長もだけど、髪も伸びている。


 その容姿は整っていた。少女特有のなまめかしさとでも言うのだろうか?

 もう少し成長するとかなりの美人になるであろう事が期待出来る。


「兄さん、ボクの『進化』はどう?」


 とイルミナ。ルキフェと違って、すっかり普通に話せるようになっていた。

 『光の石』を使ったためか、髪や翼の色が若干、白に近くなった気もする。


 <ステータス>を確認すると、全ての能力が上昇していた。


「ちゃんと<ゲイルクロウ>に『進化』出来ているよ」


 僕はそう言って、イルミナの頭をでる。

 サラサラのルキフェとは違い、くせがあり、ボリューミーだ。


 種族名には疾風ゲイルと付いているけど、きちんと<光>属性に『進化』していた。


(こういう事もあるのか……)


 属性持ちなので『成功した』と言っていいだろう。


「イルミナ、綺麗……」


 とメルク。

 フッ、当然!――と前髪を払うイルミナ。


 どうやら、気分が良いようだ。


「ま、まあまあでちね……」


 とはルキフェだ。こちらは完全に負けしみだろう。

 ちょっとくやしそうに見える。


 ルキフェの容姿は髪が短い事もあり、少年に近い。


(これはこれで女性からモテそうだけど……)


 かく、これで二人共『進化』が出来た。

 大幅な戦力上昇アップだろう。


 しかし、いつまでも下着姿で居させる訳には行かない。


「セシリアさん――すみませんが、二人の着替えを……」


 僕がそう言って振り返ると、後ろにひかえているはずの彼女の姿が消えていた。


(いや、違う……)


 視線を落とし床を見ると、彼女は倒れ、血の海に沈んでいるではないか。


(大人しいと思っていたら……)


 どうやら、鼻血を出し過ぎて倒れていたらしい。やれやれだ。

 僕はセシリアさんの治療を優先した。

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