第53話 宵闇の森(7)


 ――ドオォォォンッ!


 衝撃しょうげきが走る。後二、三回体当たりを食らうと木は倒れるだろう。


「兄さん、大丈夫?」


 とイルミナが降下して来たので、


「メルクをお願い! メルク達は協力して<暴れイノシシ>を倒すんだ……」


 と伝えた。<ジャイアントボア>の憎悪ヘイトは僕に向けられている。

 つまり、彼女達が<暴れイノシシ>を倒す間、僕がおとりになればいい。


「でも……」


 イルミナはしぶったけれど、ここのままでは、状況は改善しないだろう。

 それは彼女も分かっているはずだ。


「分かった」


 イルミナはそう言うと、メルクをきかかえる。


「ルキフェと協力して、残りの<暴れイノシシ>を……」


 引き付けて――僕が言い終える前に、


 ――ドオォォォンッ!


 再び、衝撃が走る。<ジャイアントボア>の体当たりだ。

 僕も木にしがみ付いているだけではない。


 今度は【ウィンドカッター】を背中の傷目掛け、お見舞いしてやった。


 ――ブモォッ!


 傷口が開いたのか、<ジャイアントボア>は血を流して暴れる。


「さぁ、今の内に……早く!」


 僕の言葉にイルミナは、メルクを連れて飛び立つ。


(さて、どうしたモノかな?)


 僕は<ジャイアントボア>が助走を付けるために方向転換したので、素早く木を降りた。そして、草叢くさむらへと隠れる。


 そうとは知らず、意気いき揚々ようようと木に体当りをする<ジャイアントボア>。


 ――ドオォォォンッ!


 衝撃しょうげきと共に――ミシミシ――と音を立て、木がし折れた。


 ――バキバキバキッ! バッターン! 


 こすれた枝が嫌な音を立てて折れて行く。

 樹齢は分からないけれど、その大木は自分の重さで地面へと転がった。


(うへぇ……)


 僕は思わず目を見張る。


 ――ブモォッ!


 と<ジャイアントボア>。どうやら、喜んでいるようだ。

 <魔物>モンスターの上位種は感情もゆたからしい。


 木を倒した事で勝利を確信している。


 ――ブモブモッ!


 と呑気のんきに倒木へと歩いて行く。

 僕は油断している<ジャイアントボア>目掛け、料理用の『油』を投げる。


 そして同時に――【ファイヤーボルト】――を放った。


 ――ブモモォッ⁉


 と<ジャイアントボア>。今回は良く燃える。

 火を消す事に躍起やっきになっている間に、僕は目星を付けていた別の木へと登った。


流石さすがに次は油断しないだろう……)


 この手が使えるのは今回だけだ。

 一方、メルク達の方も戦闘が始まっていた。


 レベルが上がっているためか、彼女は素手で<暴れイノシシ>を殴り飛ばす。

 そして、体勢を崩した<暴れイノシシ>をイルミナが槍でいた。


 力では勝てないので、彼女は一撃を加えると素早く離脱りだつする。


(これなら、早くケリが付きそうだ……)


「こっちでち!」


 とはルキフェ。残りの<暴れイノシシ>を挑発した。

 突進してきた<暴れイノシシ>を真上に飛ぶ事で回避する。


 <暴れイノシシ>は岩へと激突げきとつし、脳震盪のうしんとうを起こす。

 メルクは両腕を伸ばすと、二頭同時に窒息ちっそくさせる。


(どうやら、僕の方がピンチみたいだ……)


 怒り心頭。<ジャイアントボア>が体当たりを開始する。


 ――ドオォォォンッ!


 大きく木がれた。この分だと、次の一撃で倒されてしまうだろう。


(仕方がないか……)


 僕は『MPポーション』を飲み干すと、空瓶を【アイテムボックス】へと仕舞う。

 お酒みたいな苦味と鼻から抜けるような感覚。どうにもれない。


(スポーツ飲料ドリンクみたくすると売れるだろうか?)


 僕は決め手となる調味料を選択した。

 <ジャイアントボア>の体当たりと同時に、木から飛び降りる。


 ――ドオォォォンッ! ミシミシッ!


 ――バキバキバキッ! バッターン! 


 木が倒れる。<ジャイアントボア>は僕を見失わない様に注視していたようだ。

 ぐにこちらを向くと、


 ――ブモォッ!


 咆哮ほうこうする。しかし、相手を注視していたのは僕も一緒だ。

 『ラー油』を構え、【ウィンドカッター】を放つ。


 <ジャイアントボア>の口へと命中する。


「……」


 わずかな沈黙の後、


 ――ブモモォッ⁉ ブモブモ! ブモォッ!


 <ジャイアントボア>が大暴れをする。

 切り裂かれた口内に『ラー油』が直撃したようだ。


(無理もないか……)


 僕は調味料の『酒』を投げると【ファイヤーボルト】を放った。

 時間稼ぎでしかないけれど、これでいい。


 丁度<メッセージウィンドウ>が表示される。



  メルクのレベルが1上がりました



 三頭の<暴れイノシシ>を倒したのだろう。これでレベル10だ。

 『水の石』はすでに彼女に渡してある。


 <魔物使い>の<スキル>【レボリューション】をメルクに使用した。


「メルク、進化だ!」


 僕がさけぶと<メッセージウィンドウ>が表示される。



  進化を開始しますか?



「イエス!」



  <青色ブルースライム>の上位種<青色ブルービックスライム>への進化が可能です。

  また、<アイテム>を使用する事で、別の上位種へ進化する事が可能です。


  <アイテム>を使用しますか?



「イエス!――『水の石』を使用……」



  <青色ブルースライム>メルクの進化を開始します。


  ――進化成功!


  メルクは<青色ブルースライム>から<ウォータースライム>へと進化しました。



 同時に魔法陣が展開され、メルクが光につつまれる。

 光の球体の中、彼女の輪郭シルエットが変わった。


 次の瞬間には光が消え、メルクが再び姿をあらわす。

 人間の年齢で言えば、七、八歳くらいだろうか?


 半透明な青色の少女――間違いない!――成長したメルクだ。

 <ステータス>が表示される。全ての能力が上昇していた。


(想定以上だ……)


 どうやら、『水の石』との相性が良かったらしい。


「メルク……<ジャイアントボア>を倒せ!」


 僕の台詞セリフに、


「うん、任せて……お兄ちゃん!」


 と流暢りゅうちょうに話すようになったメルクが<魔法>を使用する。


「【ウォータープリズン】!」

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