第52話 宵闇の森(6)


「さて、場所も分かったし――今日はここまでにしよう!」


 準備をして、明日また来ようね――僕のそんな台詞セリフに、


「えーっ! 入らないでちか?」


「兄さん、慎重、過ぎる」


 とルキフェとイルミナ。ルキフェは『考え無し』で言っているようだ。

 イルミナの場合は『自信過剰』といった所だろうか?


 まぁ、そう言わないで――と僕は二人をなだめる。


「距離も分かった事だし、<アイテム>も補充ほじゅうしたい……それに――」


 レベルを上げる必要もあるだろ?――僕はもっともらしい理由をべる。

 実際<ジャイアントボア>を倒すのなら、三人の進化レベルアップは必須条件だ。


「分かったでち……」


「仕方、ない」


 渋々しぶしぶといった様子だったけれど、ルキフェとイルミナは納得する。

 僕はそんな二人に苦笑した。


「取りえず、見付けやすいように、目印をつけながら帰ろうか?」


 そう言って、この場を離れるように、僕は二人をうながす。

 正直なところ<魔物>モンスターどころか、冒険者の気配すらない。


(どう考えても、異常だよね……)


 冒険初心者の僕でさえ、そう感じるのだから、用心するにした事はなだろう。

 ゲーム知識によると、ここは<魔物>モンスターとの遭遇そうぐう率が高い。


 ルイスの話によると、他にも同様の依頼を受けている冒険者が居るようだ。

 もう少し、他の冒険者の形跡けいせきがあってもいいはずだ。


(やっぱり、なに可笑おかしい……)


 帰り道の途中、枝を折ったり、草を結んだり、石を並べたりする。

 そうやって目印を作りながら先程、ルイスと別れた場所に戻ってきた。


(どうやら無事に帰る事が出来そうだ……)


「さて、もう大丈夫だね……」


 僕は安心して――ホッ――と息をく。


 しかし――


 ――ドドドドッ!


 地響じひびきが聞こえる。段々と近づいていた。


(いったい何処どこからだろう?)


 【魔物感知】にも反応がある。

 けれど、周囲に可笑おかしな様子はない。


 メルク達も周囲を警戒けいかいし、僕の周りに集まる。

 最初に気が付いたのはルキフェで、


「キキッ! 上でちっ……」


 と声を上げる。


「兄さん、逃げて」


 とはイルミナ。飛行の出来る二人は先に空へと逃げた。

 僕達の頭上を黒い影がおおう。


(また、このパターンかっ⁉)


 <プランダークロウ>の時と同様で、上からの襲撃しゅうげきとなる。

 どうやら、がけの上から降ってきたようだ。僕は急いで飛び退く。


 ――ドッシーン!


 轟音ごうおんと共に、地響きと土煙を立て、巨大なそれは落ちてきた。


(まるで岩だな……)


 僕はつぶれた<カエル>みたいな姿勢ポーズで地面に転がる破目はめになる。

 つくばりながらも<魔物>モンスターの姿を目視すると、



  <ジャイアントボア>――<暴れイノシシ>の上位種です。

  身体が大きくなった分、攻撃力とHPが高い強敵です。



 <メッセージウィンドウ>が表示された。

 態々わざわざ、ご丁寧ていねいに『強敵』と教えてくるとは親切だ。


「やってられない!」


 僕が両手を突いて、上半身を起こすと、


 ――ポコッ!


 地面が盛り上がる。桃色ピンクの<モグラ>が顔をのぞかせた。

 どうやら、今の衝撃しょうげきおどろいて地面から出て来たのだろう。


 ヒクヒクと鼻を動かし周囲を確認した後、<ジャイアントボア>の存在に気が付き卒倒そっとうする。やれやれ、なんとも気の弱い<モグラ>だ。



  <穴掘モグラ>――低級な<魔物>モンスターです。


  普段は穴を掘り、そこで暮らしています。

  ただし、彼らが作る『落とし穴』には注意が必要。



 このままでは<ジャイアントボア>に食べられるか、つぶされてしまうだろう。倒してもいいけれど、大した経験値にはならなさそうだ。


 それに『色が違う』という事は変異種の可能性が高い。

 後で【テイム】してもいいので、ひろっておく事にする。


「【ファイヤーボルト】!」


 同時に<モグラ>をつかむ。

 魔法は<ジャイアントボア>の顔面に直撃したようだ。


 しかし、あまり効いている様子はない。

 ブルブル――と顔を振る程度だ。


 恐らく、HPと防御力が高いのだろう。

 ただ、怒らせるだけの結果になってしまった。


 しかし、よく見ると怪我けがっているようだ。

 ルイス達がおそわれたという<魔物>モンスターと同一個体だろう。


 先程、戦った<灰色オオカミ>を襲撃しゅうげきしたのも、コイツと考えると合点が行く。

 手負い――という事は、勝ち目があるかも知れない。


 だけれど――


 ――ブヒィィィーーーーッ!


 <ジャイアントボア>が鳴き声を上げる。

 すると――ドドドドッ!――再び地面がれた。


なにかがこちらに近づいてくる!)


 どうやら、今回は上からではないらしい。

 土煙を上げて<暴れイノシシ>達がこちらに向かって走ってくる。


(三匹も居る……)


 <スキル>を使って、仲間を呼んだらしい。

 『子分』か、もしくは『子供』といった所だろうか?


厄介やっかいだな……)


 ――いや、考えようによっては機会チャンスだ!


「落ち着いて! 一匹ずつ仕留めるんだ……」


 僕はそう言うと同時に駆け出す。

 近くの登りやすい木に杖を掛けると、それを足場に駆け上がる。


 その後は杖に巻き付けていた細い布を引っ張り、杖を回収した。

 僕が急いで木にしがみ付くと同時に<ジャイアントボア>が突っ込んで来る。


 ――ドオォォォンッ!


 大きな音を立てると同時に、木がはげしくれる。


 ――木をらして、僕を下に落とす気だろうか?


(いや、木が倒れる方が先か……)


 少なくとも、僕がコイツを引き付けていられる時間はあまり無いようだ。

 僕は少し上に移動し、しっかりと木にしがみ付く。


 そして、調味料の小瓶(酢)を取り出す。

 それで終わりか!――と<ジャイアントボア>の顔に投げつけた。


 ――ブモオォォォッ!


 咆哮ほうこうし、暴れる<ジャイアントボア>。

 火傷に染みたのか、目に入ったのか――それとも、においがいやなのだろうか?


 かく、怒っているのは確かだ。

 助走を付けると再び、体当たりをしてきた。

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