第41話 ヨージョ神殿(5)


 僕がルキフェをかかえ、部屋を出ようとすると、


「お待たせしました!」


 あら、どうされました?――とセシリアさんが丁度、戻ってきた。

 左手にかかえたかごには、洋服の他に下着まで入っている。


 僕は事情を話し、彼女にルキフェの事を頼んだ。


「はい、お任せください♥」


 満面の笑みを浮かべるセシリアさんに対し、


「嫌でち、嫌でち、嫌でち!」


 と暴れるルキフェ。その様子をイルミナが面白そうに眺めていた。

 折角なので、彼女の事もセシリアさんに頼もう。


「兄さん! なんで……」


 とイルミナ。まるで捨てられた子犬みたいな顔をする。

 しかし、経験上、僕は知っていた。


 高速道路に入った途端――子供はトイレに行きたがる――という事をだ。

 イルミナもトイレに行った方がいいだろう。


 けれど、それを正直に伝えたところで、納得してくれない事は予想出来る。


「ルキフェ一人だと、心配だからだけど……」


 僕は――頼んだよ――と彼女の頭をでた。

 イルミナは嬉しそうな顔をしたけれど、次の瞬間にはルキフェをにらんだ。


「さあ、行きますよ!」


 とはセシリアさん。たかがトイレだというのに、やけに張り切っている。

 メルクは――バイバイ――と手を振って、彼女達を見送った。


(魔族は本当に、こんな<ロリモン>達を恐れているのだろうか?)


 腕を組み、考えてみたけれど、答えは出ない。

 僕はルキフェ達がトイレに行っている間に、服を選ぶ事にした。


(取りえず、今着る服と……)


 ――今日の下着パンツだ!


 正直な所、服ばかり気にしていて、下着パンツ穿かせる事を忘れていた。


(危うく、また<ヘンタイ>あつかいされる所だった……)


 僕は適当に服を選ぶと、メルクにどれがいいのか選んでもらう。

 彼女は白が気に入ったのか、似たような白のワンピースを選んだ。


 一旦、メルクを椅子イスに座らせ、くつを脱がすと、椅子イスの上に立たせる。

 それから、服を脱がせると下着パンツ穿かせた。


 右足上げて、降ろして、左足上げて、降ろして――


 下着パンツを上げる。

 ゴムの感覚が気になるのか、メルクは伸ばしたり縮めたりして遊ぶ。


「はい、バンザイして――」


 続いて、僕はメルクに服を着せる。

 素材が違うのだろうか? 触った感じでは、丈夫で汚れにくそうだ。


「似合ってるよ」


 僕がそう言うと――うにゃあ♥――とメルクは喜ぶ。

 そこへ丁度、


「ニンゲン!」「兄さん!」


 ルキフェとイルミナが戻ってきた。

 二人共、セシリアさんから隠れるように、僕の足にまとわり付く。


(やれやれだ……)


 手を洗ったのか、少し気になる。


「問題ありませんでした?」


 僕の質問に、


「はい、大丈夫ですよ」


 とセシリアさん。だが、僕は――ギョッ――とする。

 彼女の修道服が血塗ちまみれになっていたからだ。


 一瞬、ひるむ。

 その反応に彼女は――あらあら――と言って、軽く手の平を合わせると、


「ワタシの鼻血です」


 そう言って微笑ほほえんだ。


(いや全然、大丈夫じゃない……)


「そ、そうですか……」


 アハハハ――と僕はかわいた笑いで取りつくろう。


「見られたでち……屈辱くつじょくでち――」


 とルキフェ。昨日、お風呂で粗相をしておいて、今更のような気もする。

 これをに、き方も覚えて欲しい。


「手は洗ったかい?」


 僕が質問すると、


「大丈夫!」


 とイルミナ。開いた手を見せてくれる。

 ルキフェの方は、セシリアさんが面倒を見てくれたのだろう。


 一方、そのセシリアさんだけれど、


「ああ、生きている内に<ロリモン>の放尿姿を見れるとは……」


 まるで――もう思い残す事はありません――と言わんばかりだ。


(そんな事で、死なないで欲しい……)


「じゃあ、二人共――着替えようね」


 と僕は二人をうながす。

 二人共、早く帰りたかったのか、素直に言う事を聞く。


「メルク様、お似合いです!」


 セシリアさんはメルクの姿を見てそう答えた。

 正直、白いワンピースなので、恰好はあまり変わっていない。


「かーいい?」


 とメルク。そんな彼女の問いに、セシリアさんは何度なんどうなずくのだった。


(悪い人では、無いのだけれど……)



 †   †   †



 『セシリアさん効果』で素直なため、二人の着替えもぐに終わる。

 ルキフェが黒いワンピースを、イルミナは赤いワンピースをそれぞれ選んだ。


 イルミナの長い髪は、服と同じ赤い色のリボンでたばねておく。

 見た目は普通の女の子と変らない。


(後は武器と防具か……)


 <冒険者ギルド>で報酬を得た後、購入する予定だ。


「にーたん!」


 とメルク。いつものようにっこを要求する。

 クックックッ!――とはルキフェ。何故なぜか片目を押さえている。 


「封印されち……<闇>の力がみなぎるでち!」


 今のルキフェに属性はない。ただの気分だろう。


「へー、すごいね……」


 僕は調子を合わせておく。


「これが、服?」


 イルミナは姿見カガミの前で、何度なんども自分の姿を確認していた。

 三者三葉の反応は、見ていて微笑ほほえましい。


 そんな彼女達の姿に『桃源郷とうげんきょう』を見たのか、


「同志アスカ、ワタシは天国にいるのでしょうか?」


 とセシリアさん。


 ――いや、違うよ。


 あまり分かりたくはないけれど、彼女の思考パターンが段々と分かってきた。


「落ち着いて、セシリアさん……」


 僕は声を掛けると―――まだ増える予定ですから――と付け加える。


「ま、まだ増えるのですか!?」


 クワッ!――と目を見開き、おどろきの表情で彼女は僕に近づく。


(顔が近い……)


「ええ、前衛に一人――いや、二人は欲しいかな……」


 そんな僕の言葉に、セシリアさんは歓喜の表情を浮かべた。


「はい! 是非ぜひまた、いらしてください……」


 益々ますますのご活躍をおいのり申し上げます――彼女は両手を組み、神にいのりをささげる。


なんだろう? 変なフラグを立てたような気がする……)


「う、うん、ありがとう……」


 どう返せばいいのか分からなかったので、僕はお礼をべた。


(これは、連れて来なければいけないな……)


 僕は苦笑する。


(<ロリスタル>も探さないといけないし……)


 る事が増える一方だ。

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