第42話 神殿都市ファーヴニル(4)


 セシリアさんは、僕達を神殿の入口まで送ってくれた。

 残りの着替えは、後で『師匠の家』に届けてくれるそうだ。


 僕としては、その申し出は非常に助かる。

 このまま<冒険者ギルド>で依頼を受けよう――と考えていたからだ。


(荷物が減って良かった……)


 セシリアさんも、師匠に合う口実が出来たので嬉しそうだ。

 彼女は鼻歌を口遊くちずさんでいたのだけれど、突然立ち止まる。


「そうでした……!」


 なにか思い出したようで、両手を――パンッ――と合わせた。


「アスカ君を探して、三人組の冒険者がウロウロしているようです!」


 彼女は人差し指を立て、忠告してくれる。


(三人組?)


 僕が首をかしげると――うにゃ?――とメルクも真似まねをした。


「可愛い!――ではなくて……」


 セシリアさんは一瞬、りそうになったけれど、なんとかこらえる。


「確か……『オムツ』と『アフロ』――そして『ハゲ』とだそうです」


(なるほど! ますます分からん……)


 異世界に召喚されたばかり僕に、そんな知り合い、居ただろうか?


(それに『オムツ』……?)


 どうやら、この街は<ヘンタイ>の巣窟そうくつのようだ。

 僕は無性にレイアさんに会いたくなった。


「どうか、お気を付けください」


 とセシリアさん。


「分かったよ……ありがとう!」


 僕がお礼を言うと――あいがとー!――とメルク。


「グハッ!」


 再び、セシリアさんが可笑おかしな行動をする。

 どうやら、なにかに必死にえているようだ。


 あまりると、彼女がまた奇行きこうに走りそうなので、早々に退散しよう。


「行くよ、皆……」


 僕はセシリアさんに頭を下げると、神殿を後にした。


「それでは良いロリを――」


 セシリアさんが僕達の無事をいのってくれる。

 次はいよいよ<冒険者ギルド>だ。



 †   †   †



 ――のはずだったのだけれど……。


(どうしてこうなったのだろう?)


「兄さん、お人好し」


 とイルミナ。

 あきれている――というよりは『仕方のない子だね』そんな感じの眼差しだ。


「キキッ! 人間の小娘一人、放って置けばよいモノを――」


 とはルキフェ。その台詞を言いたかっただけのようだ。

 彼女自身は戦いに積極的な姿勢を見せている。


「たーかう?」


 とメルク。スルリ――とっこしていた僕の腕を擦り抜け、着地した。

 街中で戦闘とは、僕もつくづくツイていない。


 事の始まりは、変な三人組に女の子がからまれていたからだ。

 外套フードをすっぽりとかぶっていたため、顔は確認出来なかった。


 ルキフェの言う通り、見て見ないフリをするか、衛兵を呼ぶと言う手段もあった。


(けれど……)


 つい声を掛けてしまった。別に恰好かっこうを付けたかった訳ではない。

 ただ、メルク達の手前、困っている人を見捨てて置けなかったのだ。


 相手は男三人。真ん中の男がリーダーだろう。

 一番体格が良く、いかつい顔をしている。


 何故なぜか股間の辺りを包帯でグルグル巻きにしていた。


(まるで『オムツ』だな……)


 もう一人は背が低く、鉄槌ハンマーのような武器を持っている。

 一見、太っているように見えるが、ガッチリと筋肉がついているようだ


 顔を包帯でグルグル巻きにし、髪の毛は縮れていた。


(『アフロ』みたいだ……)


 最後の一人は長身で目付きが悪い。

 スピア円形盾ラウンドシールドを持っている。


 頭は禿ハゲていて、蛇のような印象だ。


(はて? この三人組、なんだか見覚えが……)


「あの女、逃げたでちよ!」


 とルキフェ。どうやら、からまれていた女の子は無事なようだ。


(良かった……)


 それにしても――


(てっきり、目の前の三人組は彼女を追い掛けるのかと思ったのだけど……)


 どうやら、違うようだ。

 理由は分からないけれど、物凄ものすごく怒った表情で僕を見ている。


「ヘッヘッヘッ!――探したぜ……」


 とリーダーとおぼしきオムツ男。

 僕は後ろを確認すると、


「あの、お知り合いですか?」


 遠巻きに様子を見ていた青年に声を掛けた。

 青年は慌てて首を振り、違うという身振りジェスチャーをする。


「おめぇだよっ!」


 とオムツ男。


(はて?)


 流石さすがに、こんな面白い恰好をした相手に心当たりはいない。

 僕は首をかしげた。


「ダメですぜ、兄貴っ! コイツ、オレ達の事、完全に忘れてるみたいでさぁ……」


 ハゲがオムツ男に耳打ちした。

 どうやら、僕は知らない内に恨みを買っていたようだ。


(たまに被害妄想のひどい人がいるんだよね……)


 相手はすっかり戦う気のようなので、僕はルキフェとイルミナに武器を渡した。


(正直、見劣りするけれど――仕方がない……)


 僕も杖を構えた。


「一応、冒険者同士の私闘は禁止されているけれど……」


 知ってる?――僕が確認すると、


五月蠅うるせぇーっ! この恨み、今日こそ晴らしてやる!」


 とオムツ男。


「兄さん、知り合い?」


 イルミナに聞かれたので、


「うんん……全然、知らない人――初めてあったよ」


 僕は首を振った。


「こんな面白い恰好をした連中、一度会ったら忘れないよ」


「キキッ! 確かに、変な恰好でち……」


 ルキフェが僕の発言に賛同する。


 すると――


「この変な恰好はおめぇ所為せいだろうがっ!」


 何故なぜか再び、オムツ男は怒り出した。


(どうやら、相当、怒りっぽい性格のようだ……)


「兄さん、セシリア、言ってた」


 なにか思い出したようで、イルミナが教えてくれる。


「ああ……!」


 確かに、セシリアさんが忠告してくれていた人物達だ。


「あまりに変な恰好なので、逆に分からなかったよ……」


 僕はそう言って、頭をく。


(オムツ男が実在していたとは……)


 正直、信じたくはない。夢なら覚めて欲しい。


「キキッ! なにやったんでちか?」


 ルキフェに問われるも、こんな変な恰好をした連中に心当たりはない。


「う~ん……」


 腕を組み、首をかしげて考えてみるも、思い出せなかった。


「くちゃいひと~」


 とメルク。鼻をつままむ身振りジェスチャーをする。

 それでようやく、僕は思い出した。


「臭い三人組だ!」


 ルキフェとイルミナがすごく嫌そうな顔をする。


「変な名前を付けるんじゃねぇ!」


 と兄貴改め『オムツ』が叫ぶ。


「ちょっと、魔法の実験台になってもらったんだ」


 僕はルキフェとイルミナに教えると、


「オレを実験台にしたぁ⁉」


 もう許さねぇ!――と『オムツ』が武器を取る。


(完全にヤル気のようだ……)

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