第36話 師匠の家(7)


 僕達は無事に街道かいどうへ出る事が出来た。

 それだけで、少し――ホッ――とする。


(多少の戦闘は覚悟していたのだけれど……)


 正直なところ<プランダークロウ>のような存在を警戒けいかいしていた。

 けれど、その心配は杞憂きゆうに終わったらしい。


(MPを温存する必要は無かったかな……)


 このまま道に沿って、街へ向かうのもいいだろう。

 しかし、問題はメルク達の恰好かっこうだ。


(まぁ、メルクはまだいいとしても……)


 ルキフェとイルミナは問題がありそうだった。

 僕としても、レイアさんに補導ほどうされるのは困る。


(装備品をととのえてあげたい所だけれど……)


 一度『師匠の家』に戻るのがいいだろう。

 僕達は家路についた。



 †   †   †



(レベルが上がったからかな?)


 不思議と疲れを感じてはいない。

 メルクは歩くのが遅いので、行きと同様、背嚢リュックに入ってもらう。


 ルキフェはとして、目を離すと迷子になりそうだ。

 たまに声を掛け、誘導ゆうどうしなくてはいけない。


 イルミナは付かず離れず、といった様子で僕との距離を適度にたもっている。

 無事、家に辿たどり着く事は出来たけれど、思ったよりも時間が掛かってしまった。


(師匠が心配しているかも知れない……)


 ――それに『ルキフェ』と『イルミナ』を紹介して大丈夫だろうか?


 なにせ増えたのは<魔物>モンスターではなく<ロリモン>達だ。

 師匠に――怒られるかな?――と思っていたのだけれど、


「でかしたのじゃ!」


 と彼女は手放しで喜んでくれる。

 この調子で頼むのじゃ!――と言われた。


 どうやら<ロリモン>が増える事は、師匠にとっても意味のある事のようだ。


(<ロリス教>の復権や戦力が増える以外になにかあるのかな?)


 僕は状況の報告を行おうとしたのだけれど、


ずは風呂が先じゃな……」


 と師匠に言われてしまう。確かに皆、汚れている。

 着替えは――師匠が用意してくれる――との事だった。


「仕方ないのう……」


 と言い残し、彼女は家の中に戻って行く。

 残された僕は、お風呂の準備をする事にした。


 汚れているので、メルク達を家の中に上げる訳には行かない。

 家の軒先のきさきで――大人しく休んでいるように――と言っておいた。


 ただ、メルクは<水>の魔法が使える。


「疲れているところ、悪いけど……」


 手伝ってもらってもいいかな?――と確認した。すると、


「あい♪」


 彼女は嬉しそうに両手を上げる。まだまだ、元気なようだ。


(僕の役に立つ事が嬉しいのかな?)


 魔法で水を出してもらうと、大きなかまぐに一杯になった。


すごいよ! メルク……」


 そう言って、僕は彼女をめた。


「うにゃっ♥」


 メルクが両手を頬に当て、嬉しそうにする。

 僕としても、水をみに行く必要がなくなったのはすごく助かる。


 後はかまどに火を付け、風呂をくだけだ。

 メルクは火が苦手なのか、その間、僕から離れていた。


 炎が安定し、一段落したので、ルキフェとイルミナの様子を見に戻る。メルクをきかかえ、軒先のきさきへ移動すると、二人は背嚢リュックを枕代わりにして眠っていた。


(余程、疲れていたのかな?)


 少し無理をさせ過ぎてしまったようだ。

 僕は反省すると同時に――可愛い寝顔だな――となごんでしまう。


 先程まで、森の中で<魔物>モンスターを相手にしていたとは思えない。


「にーたん?」


 とメルクに言われ――ああ、ゴメン――と僕は返す。


「二人共、眠っている時は可愛いよね?」


 そんな僕の問いに、


「うにゃ?」


 とメルクは首をかしげた。

 そして、なにかに気が付いたのか――かけりゅ?――と声を上げた。


布団ふとんを掛けて上げて――という事だろうか?)


「そうだね、このままだと風邪を引くか……」


 メルクは優しいね――そう言って、僕は彼女の頭をでる。

 そして、背嚢リュックと一緒に置いていた外套マントを手に取った。


 それを寝ている二人に掛けると、メルクに見ていてもらうように頼んだ。

 僕は再び、かまどの様子を確認しに行く。


(ああしていると、メルクがお姉ちゃんに見えるから不思議だ……)


 途中、そんな事を考え、思わず笑みがこぼれた。

 炎は安定していた。消えないようにまきを追加する。


 額に汗をいたので、手でぬぐうと真っ黒な事に気が付く。


けむり所為せいかな? 僕も結構、汚れたな……)


 洗っただけで落ちるだろうか?――そんな事を考え、メルク達の元に戻る。


「お待たせ……」


 僕の言葉に、


「にーたん!」


 とメルクは両手を広げる。

 ゴメンね、今、汚れてるから――と僕は言い訳をした。


(メルクは<スライム>だから、いいとして……)


 僕は改めて確認する。

 ルキフェの下着シャツも、イルミナの外套マントも相当、汚れていた。


 素足だったため、当然、足も汚い。

 僕は二人を起こすと、足をき、その場で服を脱がせた。


 そして、それらを背嚢リュックまとめ、背負せおう。

 ルキフェとイルミナは、まだ寝惚ねぼけているようだ。


 しっかりとつかまるように言って、僕は同時に二人をきかかえる。


「メルク、悪いけれど、ドアを開けてくれる?」


「あい!」


 彼女に手伝ってもらい、僕達は脱衣所へと向かった。

 背嚢リュックはその辺に置くとして、メルクのワンピースを脱がせる。


(これは、新しく買ってあげた方がいいかな?)


 メルクには二人を連れて、先に待っているように頼んだ。


「こっち!」


 とメルク。二人の手を引く。僕は急いで服を脱ぐ。

 すでに師匠は、着替えとタオルを用意してくれていたようだ。


 かごに人数分、そろえられている。


(今は夕飯の準備かな?)

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