第35話 毒蛇の森(7)


 レベルが上がったメルクは相当強いようだ。

 <渡大わたりおおガラス>や<一角いっかくウサギ>なら敵ではなかった。


 そもそも<スライム>なので、くちばしつのによる攻撃が通らない。

 捕まえてしまえば、後はこっちのモノだ。簡単に窒息させてしまう。


 ただ、白いワンピースが汚れたり、傷付いたりするのが嫌なのだろう。

 上手く防御をしながら戦っている。


(どうやら、心配いらいないみたいだな……)


 その一方で、


「クックックッ……刀のさびにちてくれるでち!」


 とルキフェ。


(ソレ、『短剣』だけどね……)


 そして、【スリープフォッグ】という、相手を眠らせる魔法を発動した。


 <魔物>モンスターの周囲にあやしい霧が発生し、つつみ込む。

 成功すれば、対象となった<魔物>モンスターは夢の世界だ。


 <魔物>モンスターが眠りこけるのを確認すると、


「フッ! つまらぬモノを斬ってちまったでち……」


 そう言って、ルキフェは変なポーズを取る。


(突っ込みどころが多いな……)


 どうやら、ルキフェは近接戦闘よりも、魔法による支援が得意らしい。

 素早さに該当する【敏捷びんしょう】のあたいも高い。


 戦闘開始時、相手に対してデバフ(状態の悪化)を与えるのが良さそうだ。

 最後にイルミナだけれど、


「……」


 『竹槍』で眠った<魔物>モンスターとどめを刺している。

 彼女は戦況を俯瞰ふかんして見ているようだ。


 効率良く、的確に動いている。

 今はただ黙々と、メルクとルキフェのフォローを行っていた。


 また、ルキフェよりも飛行能力が高く、機動性にもすぐれている。


(中距離タイプに育てて、遊撃要員として戦うのが良さそうかな?)


 僕達は今、イルミナの案内で森の出口まで向かっているところだった。

 その間に、適度にレベル上げをする。


 勿論もちろん、積極的に戦う訳ではない。

 弱い<魔物>モンスター遭遇そうぐうした場合のみだ。


 それでも、いくつかの戦闘を経験する事が出来た。

 お陰で、イルミナのレベルもメルク達に追いつく。


「一度、休憩きゅうけいしようか?」


 僕は皆に声を掛ける。出現する<魔物>モンスターの数も減った。

 休息を取り、回復と<スキル>の確認を行うべきだろう。


 また、すでに【アイテムボックス】は一杯だ。

 僕としては――整理したい――と思っていた。


 地図を確認したのだけれど、近くに開けた場所があるようだ。


「皆が頑張ってくれたから、僕も魔法を使わずに済んだよ」


(全快とはいかないけれど、MPを回復出来たのは助かる……)


「ありがとう……」


 皆の頭をでながら、僕はお礼を言った。


「うにゃー♥」「キキッ!」「当然……」


 <ロリモン>達は三者三葉の反応をする。

 微笑ほほえましくも、頼もしい。


 同時に、僕は倒した<魔物>モンスターにも視線を向ける。

 死骸しがいをそのままにはしておけない。当然、回収だ。


 先程まで生きていたので、まだ温かい。

 メルク達にも手伝ってもらい、開けた場所まで移動する。


(どうやら、地図通り進めているな……)


 持ってきた死骸しがいを一個所に集めると、僕はメルクに燃えそうな木や草を集めてもらうようお願いした。ルキフェとイルミナには、周囲の警戒けいかいを頼む。


 その間に<SP>スキルポイントを消費し、僕は【解体(動物)】の<アビリティ>を習得する。

 これで<魔物>モンスター死骸しがいを【解体】が可能になる。


(一度【アイテムボックス】に収納するのか……)


 ――これなら、汚れなくていい!


 <一角いっかくウサギ>からは『小さな角』『毛皮(兎)』『魔物肉(兎)』が手に入る。<渡大わたりおおガラス>からは『鋭い嘴』『羽(鳥)』『魔物肉(鳥)』だ。


(知識や熟練度が上がれば、もっといいモノが手に入るかも知れないな……)


 今は【アイテムボックス】が整理出来ただけで十分だ。

 アイテムに変換へんかん出来ない不要な部位は、まとめて炎で燃やす。


「【ファイヤーボルト】!」


 ――ゴオオオオォ!


 レベルが上がったお陰か、結構な火力だ。


(これは迂闊うかつに、人に使えない威力だな……)


 メルクがまきの代わりになるモノを集めてきてくれたので、風上へと移動する。

 燃やした<魔物>モンスターにおいがキツイためだ。


 焚火たきびは少し離れた場所で行う事にする。


「キキッ! お腹減ったでち……」


「兄さん、ボクも……」


 どうやら彼女達は<魔物>モンスターの肉を食べたいようだ。

 <魔物>モンスターの肉は<魔素>がまっている。


 そのため――非常時以外は食用としては勧められない――そうだ。

 <冒険者ギルド>でもらった本には、そう書かれていた。


(でも、ゲームだと……)


 強い<魔物>モンスターの肉を食べさせる事で、能力が上がったはずだ。


(イルミナの場合、同種族だけど、気にしないのかな?)


 僕は少しの間、考える。けれど結局、食べさせる事にした。

 ただ、流石さすがに生のままは問題がある。


 折角、火があるので、焼いてあげる事にした。

 こういう時、<冒険者ギルド>で購入した調味料のセットは有難ありがたい。


(お湯も沸かさないとな……)


 こっちはメルクの<水>魔法が役に立つ。

 僕は肉を焼くのに<釣竿>を解体し、竹串として使う事にした。


 塩を振り、火から少し遠ざけた場所で、じっくりと焼く。


(初めてにしては、上手く焼けたみたいだ……)


 メルク達に差し出すと、美味おいしそうに食べていた。

 そのため、気になって一口貰もらったのだれど――


物凄ものすご不味まずい……)


 僕は思わず、き出してしまった。


(肉食獣の肉だからかな?)


 仕方なく、自分の分は釣った魚を焼いて食べる事にした。

 魚を触った所為せいで、手が生臭くなる。


(次からは、調理用の手袋も準備しよう……)


 一方、彼女達の方の食欲はすごい。

 結局、【解体】した<魔物>モンスターの肉をすべて平らげてしまった。


 外だというのに、ルキフェがゴロンと横になる。


「お腹一杯でち……」


 どうやら、お腹は満たされたようだ。

 僕としても【アイテムボックス】が整理出来たので助かる。


 行儀ぎょうぎが悪いよ!――と僕は注意をした。


(さて、<魔物>モンスター残骸ざんがいも燃えきた頃かな?)


 メルク達も英気をやしなったようだ。

 長居は無用なので、火を消すと早々に出立する事にした。

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