第34話 毒蛇の森(6)


とどめはアタチに任せるでち!」


 隠れていたルキフェが姿を現す。


 ――なんで出て来たの?


 <プランダークロウ>は着地しただけで、まだ健在だ。

 しかし、さいわいな事に片方の目は見えない。


 ルキフェの気配だけを感じて――カァーッ!――と鳴き声を上げる。

 近づいてくる彼女を威嚇いかくしたようだ。


「ひぃっ!」


 おどろき、悲鳴を上げるルキフェ。

 両手で頭をかばうように押さえ、その場に身をかがめる。


 <プランダークロウ>は彼女に気を取られていた。

 そのすきに、僕は再び【ファイヤーボルト】を放つ。


 ――ボンッ!


 命中する。燃え上がる炎を消そうと<プランダークロウ>が暴れた。

 今、近づくのは危険だ。僕は再び【ファイヤーボルト】を放つ。


 今度は少しめを作り、威力を上げる。


 ――ゴオォォォッ!


 消火しかけた<プランダークロウ>の身体が再び燃え上がった。

 ダメージ自体は多くない。だけど、羽を焼く事は出来た。


 メルクが【ウォーターボール】を当てた箇所以外は焼けげている。

 これではバランスが取れず、今までのように飛ぶのは難しいだろう。


(これがゲームだったら、絶対に勝てなかったよな……)


 僕は再び【ファイヤーボルト】を放った。

 ねらったのは頭部で、目的は残された片方の目をつぶす事だ。


(これでめか……)


 あまり使用したくはなかったのだけれど『MPポーション』を飲む。


(ううっ、苦い……)


 お酒に近い味だ。

 僕は杖を構えなおすと【ファイヤーボルト】を撃つ。


 一発一発を確実に当てる。

 やがて、<プランダークロウ>は断末魔だんまつまの声を上げ、力尽きた。


「キキッー! 参ったでちか……」


 このっ!――とルキフェが石を投げるが動かない。



  アスカのレベルが1上がりました。

  メルクのレベルが1上がりました。

  ルキフェのレベルが2上がりました。



 とウィンドウメッセージが表示される。

 中々の強敵だったけれど、如何どうにかなったようだ。


(いつの間にか、嫌な感じも無くなっている……)


 しかし、ゆっくりもしていられない。

 他の<魔物>モンスター達が集まってきても面倒だ。


(<プランダークロウ>はこのまま燃やすとして……)


 メルクにお願いして、木に登って巣の中を見てきてもらう。

 その間にレべルの上がったルキフェの<スキル>を設定する。


「クックックッ……闇の力が高まるのを感じるでち」


 そう言って、変なポーズを取っているルキフェは無視しよう。

 僕は再び、降って来たメルクを受けめた。


「たーいま」


 とメルク。その表情から、なにか収穫があったようだ。


「お帰り」


 僕は微笑ほほえむ。今度は両手いっぱいに、武器やアクセサーなどをかかえている。

 目的の<魔力石まりょくいし>もあった。


すごいよ! メルク、ありがとう……」


 そう言って、僕は頭をでる。

 するとメルクは――うにゃ~♥――と喜んだ。


 一方――


「な、なんでちか、お前は!? や、ヤル気でちか!」


 なにやら、ルキフェが騒がしい。

 視線を向けると灰色の<渡大わたりおおガラス>と対峙たいじしていた。


 <プランダークロウ>の燃える嫌な臭いが漂う。

 敵対する意思は感じられなかったけれど、僕は念のため、メルクを降ろした。


 灰色の<渡大わたりおおガラス>はジッとしている。

 僕はメルクに、取ってきてくれたアイテムを背嚢リュックに入れるようお願いした。


 そして、ルキフェの元に移動する。

 気付いた彼女は、ぐに僕の後ろに隠れた。


(やれやれだ……)


 杖を構え、今度は僕が<渡大わたりおおガラス>と対峙たいじする。


 しかし――



  <渡大わたりおおガラス>が仲間にして欲しそうにこちらを見ています。



 とメッセージウィンドウが表示される。

 どうやら最初から、そのつもりで僕達の様子をうかがっていたようだ。


(お眼鏡めがねかなった――というところかな?)


 僕は杖を向けると――【テイム】――をとなえる。

 相手に抵抗する意思はない。


 ルキフェの時と同様、魔法陣が現れ、その光が<渡大わたりおおガラス>をつつむ。

 やがて、光が消えると裸の幼女が現れる。


 白にも黒にも映る灰色の髪を持った幼女だ。そして、


「やぁ、兄さん……」


 彼女は僕をそう呼んだ。



 †   †   †



 僕は新しく仲間になった<ロリモン>に『イルミナ』と名前をつけた。

 黒い布があったので、外套マント代わりに彼女に着せた。


 するとルキフェがうらやましがる。

 どうやら、ルキフェは黒が好きらしい。


「キーキー、五月蠅うるさい……」


 とイルミナ。


「オマエの血、そのシャツ、赤く染める」


 そう言ってルキフェを牽制けんせいする。


「お面白もちろいでち! ヤレるモノならヤッてみるでち……」


 レベルが上がった所為せいだろうか?

 みょうに強気のルキフェ。


「後でちゃんとした服を用意するから……」


 ケンカするんじゃない!――とメルクを近づける。


「ひぃ~! わ、分かったでち……」


 ルキフェは――ガクガク――とおびえた。

 イルミナもだよ!――僕が忠告すると、


「分かっている……」


 と返される。本当だろうか?

 彼女との会話自体に問題はない。


(ただ、表情が読みにくいんだよな……)


 どうにも、必要のない事は話さない性格タイプらしい。

 僕は溜息をくと、


(これで、僕が【テイム】した<魔物>モンスターが<ロリモン>になるのは確定かな?)


 <プランダークロウ>の死骸しがい鎮火ちんかしたのを確認し、僕は森を出る事にした。


(<冒険者ギルド>で受けた依頼も無事完了したし……)


「兄さん……」


 とイルミナ。彼女が武器を所望したので、『竹槍』を作って渡す。

 竹の長さを調整し、その先端に『短剣』をくくり付けたモノだ。


 すると対抗してか、ルキフェがさわいだので、もう一本の『短剣』を渡した。

 どうやら、イルミナと同じモノはいやなようだ。


 正直なところ、魔法を使い過ぎた所為せいか、頭が回らない。


(メルクのレベルも上がっている……)


 帰りの戦闘は、彼女達に任せてみようと思う。

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