第30話 毒蛇の森(2)


「危ないところだったよ――メルク、ありがとう!」


 そう言って、僕は彼女をきかかえ、頭をでる。

 しかし、メルクは余程、くやしかったのだろう。


「うにゃっ!」


 上空で旋回している灰色の<渡大わたりおおガラス>を威嚇いかくする。

 その<カラス>は僕達を馬鹿にするように――カァー!――と鳴いた。


「うーっ……!」


 メルクはうなる。納得いかない――といった表情だ。


(<カラス>だけあって、知能は高いみたいだ……)


 完全に――られた――というところなので、僕は早々に割り切る。


「相手の方が一枚上手だった――と思ってあきらめるしかないよ」


 僕はそう言って、メルクをなだめるために彼女を見詰める。

 そして、向かい合うと額同士をくっつけた。


「メルクに怪我けがが無くて良かった……」


 それで彼女も納得してくれたようだ。

 うにゃあ♥――と言って笑顔になる。


(それにしても、灰色の<渡大わたりおおガラス>か……)


 他の<カラス>とは色が異なるのが気になった。


(メルクと同じで、変異種かも知れないな……)


「さて……」


 僕はメルクを降ろすと、残った二匹の死骸しがいを回収する。<冒険者ギルド>での説明では――死骸しがいは放置せずに、焼くなどの対応をして欲しい――との事だった。


 <魔物>モンスターは魔素をたくわえているので、そのまま放置すると周囲に悪影響をおよぼすらしい。


(やれやれだ……)


 生きていても、死んでいても迷惑を掛けるとは、困ったモノである。


(解体する事で、素材も手に入るのだけれど……)


 流石さすがった事がないのと、抵抗がある。今は無理なので、早速、覚えたばかりの【アイテムボックス】の中へ放り込む事にした。


 どうやら、収納出来る量は、魔力に比例するらしい。


心做こころなしか、重たい気もする……)


 持ち歩くのも、あまり良い気分がしない。


(早めに【素材(解体)】の<アビリティ>を習得しよう……)


「まずは『植物採取』の依頼が先か……」


 レベルが上がったので、僕は【鑑定(植物)】の<アビリティ>を習得する。

 これで植物を【鑑定】出来るようになったはずだ。


 ・『癒しの枝』

 ・『清めの花』

 ・『真水の実』


 ゲームの知識だと、この森ですべて採取出来る。


(報酬として『HPポーション』がもらえるのだけれど……)


 ゲームだと分かりやすく、袋小路などに落ちている。

 そのため、簡単に見付ける事が出来るのだけれど――ある訳なかった。


(こういう所は、みょうに現実的だよね……)


 ここは新しく習得した【鑑定(植物)】の<アビリティ>に頼るしかない。

 植物に対して博識になる【プラントロア】の<スキル>を習得する方法もある。


 けれど、スキル枠を消費するのは痛い。他に欲しい<スキル>もある。

 探してみて、どうしても見つからなかった場合に習得するとしよう。


 取りえず、周囲を警戒けいかいしつつ進む事にしよう。

 めぼしい植物は、メルクの伸縮能力で採取してもらう。


 後は僕が【鑑定】をする。

 運が良ければ、役に立つアイテムが手に入るかも知れない。


(<錬金術師>を視野に入れてもいいかもな……)


 【調合】や【合成】の<スキル>があれば、中盤が楽になる。

 レベルが10になると<サブクラス>で選択出来るはずだ。


 『ロリモンクエスト』シリーズでは、<戦士>や<魔法使い>など、役割が明確である。しかし、ロリモン達は、そういった<クラス>にく事が出来ない。


 ただ、育て方によっては、ロリモン達の方が強くなる事もあった。

 メルクが強くなる――と信じる事にしよう。


 そうなると、僕自身は『オールラウンダー』ではなく、支援に特化したスタイルを目指すべきだろう。



 †   †   †



 地図があるとはいえ、鬱蒼うっそうとした森の中ではあまり意味がない。

 枝を折ったり、草をむすんだり、石を並べたりして、目印を作る。


<魔物>モンスターの相手よりも、迷わないようにする方が大変だよ……)


 僕達は『植物採取』をしながら、『水質調査』の場所を目指し、移動していた。

 途中<岩石イノシシ>や<毒牙ヘビ>を見掛けたけれど、隠れてやり過ごす。


(今のレベルだと、多分、勝つのは難しいだろう……)


 その代わり、弱い相手は確実に仕留しとめる。

 <切株きりかぶオバケ>や<眠茸ねむりたけオバケ>、<吸血きゅうけつチョウ>を倒した。


 燃えやすい相手なので助かるけれど、MPが心許こころもとない。


(これじゃ、素材も手に入らないしな……)


 引き返そうか?――とも思ったけれど、レベルが上がる。

 メルクにも回復魔法を習得させたので、もう少し進めるはずだ。


 僕のMPが自動回復するまで、戦闘をけて進む。

 そして、目的地の池に辿たどり着く頃には、探していた植物も採取出来た。


(敵とも遭遇そうぐうしなかったし――どうやら、運がいいようだ……)


 今回は『池の水』だけでいいのだけれど、本来の『水質調査』は周囲の植物や泥などを採取する必要がある。持ち帰ったソレらから、魔素量を図るらしい。


(本当は――水辺に近づくべき――なんだろうけど……)


 僕は『釣竿つりざお』を作成するため、『緑竹』を手に入れた。

 また、池に向かってき出た太い枝を持つ、大きな木を見付ける。


 周辺に<魔物>モンスターの気配がない事を確認すると、僕はその木に登った。

 師匠の話だと、水辺には<カエル>や<スライム>などの<魔物>モンスターが生息する。


 メルクは水属性の魔法を得意とするので、相性が悪いだろう。

 やはり、戦闘はけるべきだ。


流石さすがに、池の主みたいなのはいないだろう……)


 上から池を見下ろし、巨大な魚影や不自然なぶくがない事を確認する。

 僕は枝の上に腰を落ち着けると、その場で『緑竹』を【加工】した。


 【加工】といっても、適当な長さの『緑竹』に『釣り糸』を付けるだけだ。

 メルクが不思議そうに見詰めていたので、


「これはね……」


 口で説明するよりも、実際に見せた方が早いだろう。

 僕は針にえさを付ける。


 仕掛けは、釣針とおもり、浮き用の枝をつけた糸という単純なモノだ。

 釣り糸を引き、竿のしなりを利用して、目的の場所にはじくように投げた。

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