第三章 新しい仲間⁉ これが噂の異世界保育?

第29話 毒蛇の森(1)


「さあ、頑張ろうか! メルク……」「あい!」


 僕の言葉にメルクは両手を上げた。


(昨日、休んでしまった分を取り戻さなくては……)


 ここは『神殿都市ファーヴニル』の近くにある<毒蛇どくじゃの森>。

 毒蛇どくじゃといっても、蛇が多かったのは昔の話らしい。


 かつて召喚された<勇者>の一人が大蛇を退治した。

 その事により――毒蛇どくへび達はいなくなった――という。


 ただ、師匠の住む<朝露あさつゆの森>よりも湿度が高く、昼間でも薄暗い。

 そのためか、人もあまり来ない。


 <魔物>モンスターとの遭遇率も――自然と高くなる――という訳だ。

 <朝露あさつゆの森>と比べると、その危険度はね上がる。


(少し慎重に行動した方がいいかも知れないな……)


ずは<冒険者ギルド>で受けた依頼の一つ、『植物採取』の依頼だけど――」


 森を歩きながら、僕はメルクに話し掛ける。

 手がふさがるのは不味まずいので、メルクには背中の背嚢リュックに入ってもらっている。


 『植物採取』の依頼内容は――『癒しの枝』『清めの花』『真水の実』――の3つを採取する事だ。


 これらは『ポーション』の材料となる。数は集める必要はない。

 <冒険者ギルド>へ持って行くと、『HPポーション』と交換してくれる。


 基本的に、初心者を救済するための依頼だ。ゲームでは、この依頼を完遂かんすい出来れば、次回から冒険のついでに採取の依頼を頼まれる事がある。


 ちょっとした小遣いかせぎだ。

 また、質の良いモノを採取した場合、更に高値が付く事もある。


(序盤は、こういう地味な報酬が重要になってくるんだよね……)


 RPGにおいて、装備品を整えるのは基本である。

 ちょっとした報酬であっても、序盤の攻略に大きく影響した。


「そのためにも<SP>スキルポイントを溜めて【鑑定(植物)】の<アビリティ>を習得しよう」


「あい!」


 メルクの気合も十分なようだ。

 この森の地図は昨日、<冒険者ギルド>で購入している。


 僕はず、少し開けた場所へと移動した。

 先日の戦闘で、<魔物>モンスターが逃げ出す事を理解していたからだ。


 戦い易く、隠れる場所がない方が、こちらには有利である。

 背嚢リュックを降ろし、メルクには出てもらう。


 そして、<冒険者ギルド>で購入した『臭い袋』を取り出す。

 閉じていたひもほどき、開けた場所の中央へと放る。


 使い方はこれでいいはずだ。

 ゲームでは選択するだけだったので、少しだけ不安が残る。


<魔物>モンスターってくるはずなんだけれど……)


 【コール・ザ・アニマル】の<スキル>もあったのだけれど、今はMPを節約したい。僕はメルクとしげみに隠れ、しばらく様子を見る。


 すると、<渡大わたりおおガラス>と<一角いっかくウサギ>がやってきた。

 僕は駆け出すと同時に、杖を構え【ファイヤーボルト】を放つ。


「熱っ!」


 動きながら使ったため、自分にも火の粉が飛ぶ。


(次からはもう少し、厚手の手袋グローブを装備しよう……)


 三人組の時や<冒険者ギルド>の試験では、動く必要はなかった。

 更に杖を使ったため、魔法の威力が強化されているようだ。


 <一角いっかくウサギ>に命中し、一匹を丸焼きにする。

 おどろいた他の<魔物>モンスター達は一斉に逃げ出す。


(狙いをしぼらないと……)


 僕は飛び立つ瞬間の<渡大わたりおおガラス>に狙いを定めた。

 突然の奇襲に、反応が遅れたのだろう。


 慌てて翼を広げ、羽搏はばたこうとするが、上手く飛び立てないでいる。

 杖を握り締めると、僕はソイツに一撃を見舞う。


 ――バシンッ!


 攻撃力が弱いのは仕方がないけれど、相手は<カラス>だ。

 軽いため、打撃のダメージが十分に伝わらない。


(先日の戦いだと、これで逃がしていたけど……)


 今日の僕にはメルクが付いている。

 <渡大わたりおおガラス>を彼女の前に吹っ飛ばす事に成功していた。


 特に指示を出した訳ではない。

 ただ、メルク自身も最初から、自分が取るべき行動を理解しているようだった。


 目の前に転がってきた<渡大わたりおおガラス>に腕を伸ばす。

 そして捕まえると、その頭を手でおおう。


 後はそのまま、時間がつのを待てばいい。

 呼吸の出来なくなった<渡大わたりおおガラス>は窒息するはずだ。


(僕で経験済みだからね……)


 メルクなりに学習したのだろう。僕は次の獲物を探す。

 突然の襲撃に混乱したのか、ひっくり返っている<一角いっかくウサギ>を見付けた。


 逃げ出す際、仲間同士でつかったようだ。

 僕は駆けると、その勢いのまま、りを見舞った。


(軽い!)


 思ったよりも勢いよく吹っ飛び、近くの木につかる。

 気絶したのか、<一角いっかくウサギ>は泡を吹き、ピクピクと痙攣けいれんしていた。


 僕はその頭に足を乗せると、体重を利用して首の骨を折る。残酷ざんこくかも知れないけど、意識のない内にとどめを刺した方が相手も苦しまなくて済むだろう。


 メルクの方も、捕まえていた<渡大わたりおおガラス>が絶命したようだ。



  アスカのレベルが1あがりました。


  【ステータス】魔法のレベルが上がりました。

  【アイテムボックス】の使用が可能になりました。


  メルクのレベルが1あがりました



 とメッセージウィンドウが表示される。

 新たにスキル枠が2つ手に入ったので、【テイム】のスキルレベルを上げる。


 更に博識はくしきになる【モンスターロア】の<スキル>を新たに習得した。

 メルクの場合は長所を伸ばした方が良いだろう。


 【魔術(水)】の<アビリティ>を習得させた後、【ウォーターボール】を習得させる。<魔物>モンスターだからだろうか? 精霊との契約は不要だった。


 更に手に入れたスキル枠で魔法の範囲を拡大する【エクスパンション(魔術)】も習得させる。命中率の低さを範囲でカバーする作戦だ。


(ゲームと違って、魔法は当てにくいからね……)


 コントロールを良くするよりも、広範囲を攻撃する事で、確実にダメージを与えた方がいいだろう。


(MPの消費量は多いけど……)


 初めての勝利とレベルアップに、すきを見せてしまったのが原因だろう。

 メルクが――にーたん!――と声を上げた。


 僕が振り返ると一匹の<カラス>が飛び掛かってきていた。

 灰色の<渡大わたりおおガラス>だ。


 メルクが腕を伸ばすと、分かっていたのか、それを簡単にける。

 同時に素早く降下し、最初に丸焼けにした<一角いっかくウサギ>をさらっていった。


 どうやら、最初から狙いはソレだったようだ。


(きっと、何処どこからか、様子を見ていたのだろう……)

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