第25話 勇者(2)


 なんだか、会話をするのもバカらしくなってきたけれど、ここは我慢がまんだ。

 それに――『80年代』――と気になる単語ワードが出た。


 彼らから、もう少し話を聞いた方が良さそうだ。


「チッ! <ヘンタイ>めっ……」


 とツルギ。しかし、ヨロイは、


「お前は知らないだろうが、未来では大体こんな感じだ……」


 とうそく。そんな未来、僕は知らない。

 ツルギが――本当か⁉――と僕を見たので、否定の意味を込めて首を横に振る。


「一瞬、女子も裸かと思って、期待したじゃねぇか!」


 こぶしで床をたたき、本気でくやしがるツルギ。


(普通に考えたら、分かる事だと思うけど……)


 そんな僕の考えを読んだのか、


「『80年代』は、あの予言を信じていた世代だからな……」


 とヨロイ。確か――1999年7の月に恐怖の大王が――というヤツだろう。

 未だにアニメやゲームでも、ネタで使われる事がある。


(ネットのない時代か……)


 『酸性雨』や『オゾン層破壊』、『石油枯渇』など、教科書に載っていそうだ。

 情報源がかたよってしまうのは――仕方がない――とはいえ、なんとも恐ろしい。


「あんな予言、信じてねーよ!」


 とはツルギ。すっかり、ヘソを曲げてしまったようだ。


「まぁ、予言はかく、堂々と女性の着替えを見るのは良くないよ」


 僕は注意をしておく。多分、またりそうだ。


なんだと!」


 そう言って、ツルギは――ゲームだと問題なく入れるんだよ!――と反論する。

 やれやれだ。


「そもそもゲームだと――この街にそんな施設は無かったけど……」


 混浴だったりするの?――僕はヨロイを見る。


「ん? オレも知らん」


 とヨロイ。どうやら、お風呂で一緒につかまった訳ではないようだ。


「じゃあ、ヨロイはどうして、そんな恰好を?」


 タオル一枚の理由など知りたくもない。

 流れからいって、ただの趣味だろうけど……一応、聞いてみる。すると、


「無人島に行ったらなにをするのか?――と一緒さ……」


 彼はそう言って、遠くを見た。

 壁しかないが、彼には別の景色が見えているようだ。


 フッ――と一呼吸ひとこきゅう置くと、


「オレは装備を――すべて外した――だけだ!」


 何故なぜさけび出す。ツルギはすでに経験しているのだろう。

 頭をおさえている。ヨロイは、


「無人島に行ったらなにをする?――と聞かれた事くらいあるだろ……」


 と聞いてくる。なにを持って行く?――など良くある質問のたぐいだ。

 つまり、彼の質問に対する回答は、


「全裸になる事――なんだね……」


 ヨロイはほこらしげにうなずいた。

 つまり、それを――街中で行った――という事だろう。


「装備を『外す』って――裸になる――という意味じゃないと思うよ……」


 僕が教えると、ツルギとヨロイは――なるほど!――手を打った。


(ダメだ――こいつら……)



 †   †   †



 僕が根気強く話を聞いたところ、いくつか分かった事がある。

 どうやら、彼らはそれぞれ、別の時代の日本から召喚されたらしい。


 僕はてっきり、『勇者召喚』の儀式の日に召喚されるモノだと思っていた。

 けれど、実際は違うようだ。


 国は『勇者召喚』に失敗した時の事を考え、手を打っていた。

 事前に<勇者>を召喚する事で、醜態しゅうたいを回避する作戦なのだろう。


(まぁ――召喚に失敗しました――じゃ済まないだろうしね……)


 神殿などへの建前もある。形だけでも、儀式をり行うらしい。

 民衆へ<勇者>である彼らを紹介するのは、その儀式の後となっていた。


 ただ、大きな神殿とは、すでに話がついているのだろう。

 パーティのメンバーも――何人なんにんかは決まっている――そうだ。


(やはり、<ロリス教>が入る余地よちは無いって事か……)


 ――だから、僕を召喚した?


 いや、師匠の事だから、もっと別の理由があるはずだ。

 帰ったら、もう少しくわしく聞いてみよう。


 ツルギ達の話によると、現在、召喚された<勇者>の数は彼らをふくめて三人。

 【剣】の<勇者>である『ツルギ』と【鎧】の<勇者>である『ヨロイ』。


 そして【魔法】の<勇者>として『雷電院らいでんいんハナツ』という女子が居るらしい。

 彼らは皆――この街から出ない――という約束で自由行動を取っているそうだ。


 基本、別行動をしているため、二人が今一緒に居るのは『偶然』との事だった。


(いや、ただの<ヘンタイ>だからだよね……)


 僕はのどまで出掛かった言葉を飲み込んだ。

 不服ではあるけれど、はたから見れば、僕も立派な彼らの仲間でしかない。


 ――師匠、<勇者>の仲間になれたよ。


 僕は心の中でつぶやいた。


(せめて、最後の一人は真面まともでありますように……)


なんだ? オマエは四人目じゃないのか……」


 とツルギ。どうやら、僕が――日本人――という事で勘違いしたらしい。

 少し残念そうだ。


「申し訳ないけど、僕は<魔物使い>だよ……」


 と答えると――なんだそれは?――と彼は首をかしげた。

 どうやら、『80年代』から来たツルギの時代にはない職業らしい。


なんとなくだけれど、僕の知識がズレている理由が分かってきた……)


 ――もしかすると、『勇者召喚』が原因かも知れない。


 一方で、


「オレは知っているぜ」


 とはヨロイ。彼は――『00年代』から来た――と言っていた。

 当然、ツルギよりも詳しいのだろう。


「五作目で好評だったからな……」


 と教えてくれる。

 なるほど、『00年代』なら『ロリッ娘モンスターズ』が発売されているはずだ。


 続編も次々に発売され、キラーコンテンツとなっている頃だろう。

 内容としては、プレイヤーは<魔物使い>ロリモントレーナーとなって、世界を旅する。


 彼らはロリモンを自らの相棒パートナーとして、たがいのロリモン同士で戦闘バトルを行う。

 そんな冒険を描く『RPG』ロールプレイングゲームだ。

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