第24話 勇者(1)


 衛兵の詰所つめしょに連れて行かれた僕は、牢屋に入れられる事になる。


(『留置所』と言った方が、いいのかな?)


 勿論もちろん、メルクとははなばなれだ。

 荷物も没収されてしまった。


 お姉さんが言うには――保護するだけだ――という話だったので、メルクが暴れなければ大丈夫だろう。荷物も後で返してくれるらしい。


 一応、メルクには自分の身が危ない時以外は、大人しくしているように言っておいた。かしこなので、理解してくれたと信じよう。


 ヨージョ神殿に居るセシリアさんに連絡を取ってもらうようお願いしたので、彼女がむかえに来てくれれば(多分)出られるとの事だった。


(クッ! 異世界3日目にして犯罪者あつかいとは……)


 軽くトラウマになりそうなところだったけれど、僕には『ゲーム知識』がある。

 これは<イベント>だと思って、乗り切る事にしよう。


(『ゲーム知識』の使いどころが違う気がするけど……)


 ここでも、あかりに<魔石>が使われていた。

 連れて来られる前は、暗くジメジメとした場所かと思っていたけど、違うようだ。


 簡素な造りだけど、掃除が行き届き、清潔にたもたれている。


(取りえずは、一安心かな……)


 あまり不衛生な場所は勘弁かんべん願いたい。


 ――ガシャン!


 音がして、鍵が掛けられる。


「いい、大人しくしているのよ!」


 とお姉さん。まるで子供に言い聞かせるかのようだ。そして、彼女にきかかえられたメルクが――にーたん――と不安そうに僕を見詰める。


 僕は――大丈夫だよ――と微笑ほほえんで手を振った。

 お姉さんはそんな僕達の様子を見て、一瞬、優しい顔になる。


 けれど、ぐにメルクを連れて何処どこかへ行ってしまった。

 残された僕に、


「よう、新入り」


 と声が掛けられる。ろうの中には、二人の男性が居た。

 一人は僕と同年代の青年。そして、もう一人はハゲた『おっさん』だ。


 どういう訳か、『おっさん』は腰にタオルを巻いただけの恰好をしている。


(ここは『サウナ』じゃないんだけど……)


 僕に声を掛けたのは、同年代の青年の方だ。

 良く見ると、顔がボコボコにれているけど、なにがあったのだろう?


なんです? 先輩……」


 僕がそう返すと『おっさん』が――ブフッ――とき出した。

 どうやら、ツボに入ったようだ。


「アッハッハ! お前、先輩だってよ……」


 とひざたたいて笑う。


「うっさいわ! オマエ、笑い過ぎだぞ……」


 と青年。ずかしくなったのか、見る見る内に顔が赤くなった。

 どうやら、ちょっとノリで言ってみただけの台詞だったようだ。


りぃ、りぃ……」


 と青年に謝る『おっさん』。

 その後――オレ達もさっき、入れられたばかりなんだ――と説明してくれる。


 僕としては、そんな事はどうでも良かった。他にも牢屋は空いているようなので――出来れば、そちらに移動させて欲しい――と考えていた。


「クソッ!」


 と青年はひとちる。

 だけど、それで気を取りなおしたのか、


「まぁ、座れ」


 と僕をうながす。

 正直、空いている場所は『おっさん』の正面だ。


 けれど――腰にタオルを巻いているだけの『おっさん』の前に座る――という事は、アレが丸見えの可能性もある。


(遠慮しよう……)


「僕はでいいです――いえ、がいいです」


 そう言って、おりを背にしてもたれ掛かる。


なんだよ、感じりぃな……」


 と青年。座ったまま頬杖ほおづえく。


「いえいえ、先輩には負けますよ」


 と僕は返した。彼は――チッ――と舌打ちをすると、


「オレの名前は『天空堂てんくうどうツルギ』だ――ツルギでいい」


 そう自己紹介した。


「もしかして、日本人?」


(顔がれているので分かり難い……)


 首をかしげる僕に対して、


「ああ、オマエもそうだろ?」


 とツルギは返す。

 どうやら、彼は僕と同じく、この異世界に召喚された日本人のようだ。


「そうだね、僕は『真御守まおもりアスカ』だ……」


 アスカでいいよ、よろしく――と返す。


「じゃ、オレも自己紹介をしなければならないな……」


 と『おっさん』。


 ――いや、もしかして若い?


 老け顔なだけで、肌にはたるみもなく、しわも少ない。


「オレは『円寺えんでらヨロイ』――ヨロイと呼んでくれ」


 と笑顔スマイルを浮かべる。確かに、顔は日本人だ。

 でも褐色かっしょくの肌で、なんだか少し、ゆい。


「オレもヨロイも<勇者>さ」


 とツルギ。ボコボコにれた顔で、キメ顔をする。


「へ、へエ……ソウナンダ――」


 僕は目をらした。

 もしかして、名前を教えたのは失敗だったかも知れない。


「おいっ、コラッ⁉ なんだ、そのあからさまな態度は……」


 そう言って立ち上がり、僕にろうとしたツルギをヨロイが制す。


「まぁまぁ、落ち着けよ」


 お前のその顔じゃ、仕方ないさ――と上から目線でツルギに言い聞かせる。


「いやっ! オマエの恰好の方が問題だからなっ……」


 とツルギ。当然の返しだろう。

 どうやら、お互いに――相手が問題だ――と思っているようだ。


(両方とも、問題だよ……)


 僕はそう思ったけれど、口にはしなかった。

 面倒な事にしかならないのは目に見えている。


「えっと、ツルギの顔はどうしてれてるのかな?」


 目の前でケンカされても困るので、気になっていた事を聞いてみる。

 すると彼は、


「オレは<勇者>だからな……」


 と一拍いっぱく置く。そして、


「当然、ツボ箪笥タンスを調べる訳だ……」


 と語り出した。僕は、


「もしかして、盗んだの?」


 と確認する。ゲームではないので、当然、問題となる行為こういだ。

 そんな僕の反応リアクションに対して、


「まさか……」


 フッ!――とツルギは鼻で笑うと、


「女湯に入っただけさ!」


 キランッ☆――とキメ顔で答える。

 当然、僕は言葉に困った。


「ま、更衣室までしか入れなかったがな……」


(問題はそこじゃないんだけど……)


「おいっ! 黙るんじゃねぇよ……」


 僕が反応リアクションに困っていると、ツルギが逆ギレする。

  一方――フッフッフッ――とヨロイ。


「ツルギは『80年代』から来た<勇者>だから、オレ達とは感覚が違うのさ……」


 と語る。気になる単語ワードが出たけれど、彼の場合は、


『いいから早く、服を着ろ!』


 僕とツルギがハモった。しかし、ヨロイは、


「オレからすれば――お前達も脱いでみろ!――と言いたい」


 世界が変わるぜ!――と勝ちほこる。


(どうやら、彼はもう手遅れのようだ……)

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