第26話 勇者(3)


「へぇー、そんなゲームが出るのか……」


 とはツルギ。素直に感心している。

 彼が元の世界に戻ったとしても、ゲームが発売する頃はすっかり社会人だろう。


(ゲームをやっている時間があるといいのだけれど……)


 彼の時代では『ロリモンクエストⅢ』が発売されたばかりのようだ。

 『ロリモンファンタジーⅡ』もギリギリ発売した頃だろうか?


 聞いてみると、


「それが、『ロリクエⅢ』を買うのに並んでてよ……」


 やっと手に入ったと思ったら――と語り始める。

 どうやら、ツルギはゲームを買った帰り道で、この世界に召喚されたらしい。


 僕が召喚された状況と似ている気がする。

 そう思ったのはヨロイも一緒のようだ。


「オレと状況が似ているな……」


 とつぶやく。正直、嫌な予感しかしない。

 けれど、僕はヨロイにも召喚された経緯けいいを聞いてみた。


(今は少しでも情報が欲しいからね……)


 彼の話では、『ロリモンファンタジーⅪ』をプレイしようとしたところで召喚されたそうだ。PCへのインストールが終わったタイミングらしい。


「えっと、それは裸で?」


 僕の質問に――部屋でゲームをするのだから当然だろう――と回答が帰ってきた。

 どうやら、ソフトのインストール中に服を脱いだようだ。


「コイツ、召喚された時、青い電光をまとって、未来のサイボーグみたく登場したぞ」


 とツルギが教えてくれる。想像するにかたくない。

 タタンタンタタン!……タタンタンタタン!――と音楽まで聞こえてきそうだ。


 因みに『ロリモンファンタジーⅪ』は、ロリモンシリーズ初のオンラインMMORPGとなる。自らロリモンとなり、世界を冒険するのだ。


(やはり、召喚の共通点はゲームのようだ……)


 ――それと<ヘンタイ>かも知れない?


 一応、僕も自分が召喚された経緯けいいを話しておく。

 二人の後では、あまりに普通過ぎて、インパクトに欠けると思ったのだけれど、


「オマエ、女の子に召喚されるとか、うらやましいなぁ……」


 とツルギ。ヨロイも同意なのか、腕を組んで無言でうなずく。


(そう言われると、妹みたくあつかってきたけど……)


 はたから見た場合、女の子と一つ屋根の下、ハプニングだらけの同居生活である。

 このままでは、興味を持った二人に根掘り葉掘り聞かれそうだ。


(話題を変えた方が良さそうだな……)


「それより、二人とも<勇者>だなんてすごいよ!」


 僕が別の話題を振ると――まぁな――とツルギが答える。

 満更でもない様子だ。


 彼は行動に問題はあるが、こういう素直なところは好感が持てた。

 こんな出会い方をしていなければ――とやまれる。


「オレは向こうでも<勇者>と呼ばれていたからな」


 とツルギ。その言葉に対し――オレもだ――とはヨロイ。

 ゲーム以外の共通点だ。


 ――二人共<勇者>と呼ばれていたなんて!


 正直、ただの<ヘンタイ>だと思っていたのだけれど、違うみたいだ。

 評価を変えなければならない。一方、僕が興味を示したのが分かったようで、


「自動販売機があるだろ?」


 とツルギは得意気に語り始める。

 彼の話によると、街外れの空き地にエロ本の自動販売機があるそうだ。


 夜中にそこでエロ本を購入し、学校へ持って行く。

 それを男子生徒に貸し出すのだ。


 彼はいつしか、地元で<勇者>と呼ばれているようになったという。


「????」


 思考が追い付かない僕に対し、


戦いコミュニケーションはエロだぜ! アスカ……」


 彼はサムズアップした。エロ本で友達を作る。

 ツルギはそういう時代から来たようだ。


「次はオレの番だな……」


 とはヨロイ。僕は間髪入れずに――いや、聞きたくない――と断った。

 しかし――遠慮するな――と押し切られてしまう。


(まったくって、遠慮などしていないのだけれど……)


 ヨロイの話はこうだ。彼は老け顔である。

 そして、ある目的のために、その個性にみがきをかけた。


 そう、髪をったのだ。彼は夜中の道を自転車で走る。

 目指すは電気屋。R指定のギャルゲーを買うためだ。


 当然、未成年は購入出来ない。

 けれど、その場に彼の事を不審に思う者は誰一人としていなかった。


(確かに『おっさん』にしか見えない……)


 ヨロイは問題なく、目的のゲームを購入する。

 いつしか彼は、友人達から<勇者>と呼ばれるようになったという。


(どうしよう⁉ 真面目に聞いてしまった……)


 その後、ヨロイが『泣きゲーの名作ソフト』について語り始めるのだけれど、それはまた別のお話――



 †   †   †



 どうやら、<勇者>として召喚されるためには、現世リアルで<勇者>と呼ばれている必要があるらしい。


(微妙な条件だな……)


 腰にタオルのみを装備した男の話を延々と聞かされながら、僕はそんな仮説を立ててみた。


 しかし、残った一人は女子だそうだ。

 <勇者>と呼ばれている――とは考えにく


 もしかしたら<姫>と呼ばれていたのかも知れない。

 流れ的に彼らの同類だろう。『オタサーの姫』とかなら、十分にあり得る話だ。


(師匠には悪いけど<勇者>とは今後、関わらないようにしよう……)


 正直、こうやって一緒に話す分には楽しい。

 いい友達にもなれそうだ。


(けれど、彼らが目指すモノと僕が目指すモノは根本的に違う気がする……)


 頼めば、彼らはパーティに入れてくれるだろう。

 <ロリス教>のイメージ改善にもつながるかも知れない。


 しかし、それが師匠の『本当の目的』とは違う気がする。


 ――バン!


 と音がした。通路の扉が開いたようだ。


「おい、アスカ! 何処どこじゃ……」


 可愛かわいい師匠がむかえに来てやったぞ!――うわさをすれば影だ。


「ちゃんと案内するので落ち着いて――フギャ!」


 男性の声がしたけれど、気絶したようだ。


しっかりしてください!」


 と女性の声が聞こえる。先程のお姉さんだろう。

 そして――勝手に行かないで!――とさけんだ。


 どうやら、師匠がやらかしたようだ。そして、を置かずに、


「おお、ここにったか?」


 呑気のんきに顔をのぞかせた。

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