第21話 冒険者ギルド(2)


 ずは質疑応答だ。これはバイトの面接のようなモノだった。

 一般常識や冒険者としてのこころざしなどを問われる。


(こういうのは、自分の考えをそのまま答えると失敗するんだったな……)


 国語の問題と一緒だ。出題者の望む回答をすればいい。

 担当者によって、匙加減さじかげんが異なりそうだ。


 特に難しい質問はなく、ぐに終わった。

 僕は優秀らしく、『冒険者の心得こころえ』なる本までもらってしまった。


 後で目を通しておこう。


(これなら、受験の方が緊張したな……)


 次は模擬戦だけれど――どうやら、予想通り【地下】で行うようだ。

 【地下】といっても、薄暗い訳ではない。光る魔石により、通路は明るかった。


 換気も行われているようで、一定の清潔感もたもたれている。

 恐らく、街中なので防音対策が目的なのだろう。


 実際に――戦闘を行うのかな?――と思っていた。

 けれど、魔法を見せるだけでいいようだ。


 まとに向かって<ファイヤーボルト>を命中させる。

 正直、MPが少なくて心配だったけれど、一発で成功した。


(これも、あの三人組で練習出来たお陰だろう……)


 僕は問題なく、合格となる。

 また、【杖術】の手解てほどきも受けた。


(どうやら、試験は落とす事が目的ではないみたいだな……)


 実力を見極みきわめ、必要があれば指導してくれるようだ。

 結果として、【杖術】の<アビリティ>を習得する事も出来た。


 【コンセントレーション(魔術)】の<スキル>を習得する。

 これで杖を装備している場合、魔法の精度が上がるはずだ。


(ここまでは順調みたいだ……)


 僕は内心、安堵あんどする。

 しかし、いい事ばかりでは無いようだ――


(一つ分かった事だけど……)


 冒険者とは――冷やかしでなるような職業ではない――という事だ。


 金銭的に困っているから、腕に自信があるから――そんな理由なら、ならない方がいい――と言われた。


 そして、案内されたのは【3階】の廊下だ。

 その一部には<認識票>がズラリと並んでいた。


 すべて、命を落とした冒険者の物らしい。

 模擬戦の指導をしてくれた髭のオジサンが教えてくれた。


 一獲千金を狙う若人や腕に自信のある田舎者。特異な能力を持ってしまったがゆえに冒険者を選択したなど、冒険者になる理由は様々だ。


 だけど、長く続けるには知恵と勇気の他に、別のなにかが必要だとさとされる。


(軽く覚悟を試された感じだな……)


 僕自身、確かに甘く考えていたふしはある。昨日、<魔物>モンスターを【テイム】出来なかったのも、そこが原因だったのかも知れない。


「どうやら、キミは強い方の人間のようだな」


 とオジサンに言われた。なにを持ってそう判断したのかは分からないけれど、話の流れからいって、言葉通りの意味で受け取るのは危険なような気がする。


先達せんだつからの忠告なので、心にめておこう……)


 後は、書類に必要事項を記入し提出するだけだ。

 けれど、僕はまだ字が書けない。そのむねを担当の女性職員に伝えた。


 すると、代わりに記入してくれると言ってくれた。

 どうやら、文字を書けない冒険者も多いらしい。


 僕は素直に、この申し出を受け入れた。

 最後に購入した<魔結晶クリスタル>に魔力を流す。


 そして一旦、担当者へと渡した。僕は魔法の素養そようがあるため、問題なかったけれど、魔力の操作が出来ない場合は、血液を必要とするらしい。


 まさに『血の契約』である。

 しばらく待つと<カード>と<認識票>を受け取れるのだけれど――



 †   †   †



「あの……申し訳ありません」


 と担当の女性が眼鏡めがねの位置をなおし、声を掛けてくる。


「はい?」


 僕が首をかしげると、


「いえ、<メインクラス>が<魔物使い>となっているのですが……」


 その女性は申し訳なさそうに答える。

 <従魔>であるメルクの登録も行ったので、問題ないはずだ。


「ええ、それで間違いありません」


なに不味まずかったのだろうか?)


「おいっ!」


 と奥から中年の男性が声を上げる。彼女の上司だろうか?

 メルクが反応したので、僕は頭をでてなだめた。


「うにゃ?」


 やはり、メルクにはいやされる。一方、中年の男性は、


「そいつは『ロリス教徒』だろ! 女の子の人形をいてるだろうが……」


 やれやれ、乱暴な言い方だ。それにメルクは人形ではない。

 メルクの頬をつつくと――ぷるぷる――と身体が揺れる。


 中年男性は機嫌きげんが悪いようで、


「そんなモノ持って、登録に来るなんてぇのは――」


 頭の可笑おかしな、あの連中しかいねぇ!――と怒鳴どなった。


(失礼な物言いだな……いや、もしかして――)


 ――他の人からも、ずっと、そういう認識だったのだろうか?


 思い当たるふしが多々ある。更にその男性は、


「関わると面倒だ――その<魔物使い>? がなんなのかは知らねえが……」


 登録してやれ!――と声を上げた。


(過去に『ロリス教徒』と関わって、嫌な経験でもしたのだろうか?)


 しゃくさわる言い方だけれど、無事登録出来るのなら、こっちのモノだ。

 僕が大人しくしていると、


「はい、分かりました」


 と担当の女性。

 納得いかない――という表情だったが、手続きを行ってくれる。


「ええと、すみません……」


 お待たせしました――と彼女は事務的な対応で、こちらに向きなおると、


「<ヘンタイ>……いえ、これが貴方あなたの<カード>と<認識票>になります」


 と告げた。

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