第22話 冒険者ギルド(3)


「今、<ヘンタイ>って言いましたよね?」


 取りえず、気になったので確認すると、


「<カード>は身分証明になりますので、<冒険者ギルド>で仕事をする際には必ず持ってきてください。また、<冒険者ギルド>で買い物などをする際、サービスを受けられます」


 と無視スルーされた。


「言いましたよね?」


 再度、僕が質問すると、


「言ってません――<認識票>は金属製でチェーンがついています。冒険者ランクに合わせて色が異なり、貴方あなたが死亡した時など、身元確認に使われますので冒険の際に限らず、普段から肌身離さず身に付けておいてください」


 説明は理解したけど、質問は否定されてしまった。

 念のため、もう一度聞いておこう。


「言いましたよね?」


 僕が視線を合わせると、


「言ってません……」


 今度はそっぽを向かれてしまう。


(仕方がない……)


「分かりました……」


 と僕は渋々しぶしぶ、<カード>と<認識票>など一式を受け取ると、


「それから、これが『冒険者の手引き』となります」


 そう言って――冒険者に必要な事が書かれている――という本を渡される。


「ありがとうございます」


 僕は礼を言って受け取る。すると、


「では、<ヘンタイ>様……冒険者としての活躍を期待しています」


 と担当の女性。


「いやっ、今思いっ切り<ヘンタイ>って言いましたよね!」


 ――ピシャリ!


 間髪入れず、窓口の扉が閉まる。

 師匠が<冒険者ギルド>に来なかった本当の理由が分かった気がした。



 †   †   †



(クッ! 早々に心を折りに来たよ……)


 異世界、恐るべし!――と僕は心の中で声を上げる。


(まぁ、気にしていても仕方ないか……)


 荷物が増えたため、僕はメルクを背負った。<スライム>の特性だろう。

 ピタリと密着出来るようなので、落ちる心配はなさそうだ。


ずは、下のお店で『冒険者セット』を買っていこう……)


 確かゲームでも最初に購入する道具アイテムだ。鞄にロープやナイフ、ランタンなど、冒険に必要な物がセットで入っている。僕は【1階】へと降りた。


 すると早速、お約束のイベントが――始まらなかった。


「よぉっ! 冒険者になったんだって、言っておくがお前みたいな――」


 いかつい<戦士>の男に声を掛けられるも、


「おい、めておけ! そいつ『ロリス教徒』だ……」


 と仲間の<魔法使い>に注意される。


「な、なにぃっ! わ、悪かったな――オレはこれで……」


 いかつい<戦士>の男は腰をげ、コソコソと退散する。


(せめて、最後まで台詞セリフを言ってから居なくなって欲しい……)


 僕が逃げるように居なくなった<戦士>の背中をながめていると、


「ねぇねぇ、キミ……可愛かわいい顔してるね――<メインクラス>はなに?」


 と今度は軽装の<女盗賊>に声を掛けられた。彼女は続けて、


「<魔法使い>系だったら、お姉さんが守ってあげても――えっ、魔物臭い?」


 仲間とおぼしき<女神官>に耳打ちされ――なにそれ?――と首をかしげる。

 どうやら、<魔物使い>を知らないようだ。


 分からないモノは気味が悪いのだろう。<女神官>に背中を押され、何処どこかへ行ってしまう。<女盗賊>は――またね――と手をって居なくなった。


 一方――


「お前、『ロリス教徒』だろ!」


 と今度は後ろから罵声ばせいびせられる。


「こんな日の高い内から、公共の場に出てくるんじゃねぇーよ!」


 木皿が飛んで来たので、それをける。


(メルクに当たったら危ないな……)


 僕は早々に、この場から逃げようとしたのだけれど――


「アイツ、魔物臭いんだって?」


「いやいや、<魔物使い>だよ<魔物使い>」


「ふーん……で、<魔物使い>ってなんだ?」


「さぁ、オレもよく知らねぇ」


「お前、聞いて来いよ……」


「嫌だよ……アイツ、『ロリス教徒』だろ?」


 などといった声が聞こえてくる。流石さすがにこれはショックだ。

 僕が項垂うなだれていると、


「にーたん、げーきだして……」


 とメルクになぐさめられる。


「ありがとう……メルク――」


 落ち込んでばかりもいられない。それに、思い出した事もある。


 『ロリモンクエストⅢ』において、<魔物使い>と<錬金術師>はリメイク版で追加された<メインクラス>だ。


 恐らく――ゲームバランスを崩す可能性がある――と考えたのだろう。

 通常とは異なるプレイスタイルとなっていた。


 『ロリモンクエストⅢ』はRPGなのだが、4つの難易度が設定されている。

 更に、それぞれ男性キャラと女性キャラの二つが用意されていた。


 つまり、計8つのシナリオを体験出来るのだ。

 ずは<イージーモード>だけど――


 これは<騎士>の<メインクラス>を持つ王子か<魔法使い>の<メインクラス>を持つ姫を選択する。


 武器や防具は最初から強力なモノを手に入れる事が出来て、お金もあるため、道具アイテムも買い放題だ。


 仲間においては、『英雄の息子』や『賢者の孫』など、強者が多い。

 サクサク進めて――世界観やストーリーを楽しみたい人向け――と言える。


 次に<ノーマルモード>だ。

 これは<ジョブ>が<勇者>で、性別を選択する。


 男女で物語ストーリーに大きな違いはなく、台詞セリフや装備が多少異なる程度だ。<メインクラス>は自由に選択出来て、仲間は基本的に<冒険者ギルド>で集める事になる。


 自由度が高く、キャラを育てる楽しみもあり――普通にRPGをプレイしたい人向け――となっていた。レベルさえ上げれば、誰でもクリア出来る仕様だ。


(僕が昔遊んだのは、この<勇者>の物語ストーリーだ……)


 そして、<ハードモード>――


(恐らく、これが今置かれている僕の状況だろう……)

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