第20話 冒険者ギルド(1)


 <ドラゴン>の看板が目立つ大きな建物。

 それが、この街の<冒険者ギルド>である。


(まずは、冒険者としての登録を行わなければいけない……)


 <冒険者ギルド>への紹介状はすでに持っている。

 あの女性神官――セシリアさん――が用意してくれた。


(これで、ギルドへの登録を簡単に済ませる事が出来るはずだけれど……)


 今のところ、女性の世話になってばかりのような気がする。

 人によっては――うらやましい――と言うのかも知れない。


 だけど、僕の心境としては――情けない――という思いが強かった。


(早く、かせげる人間になろう……)


 口にはしなかったけれど、つい、溜息がれてしまう。

 そんな僕を心配したのか、メルクが心配そうに、じっと見詰める。


「大丈夫だよ……」


 僕はそう言って、彼女の頭をでると、


「うりゅー♪」


 とメルクは笑顔になった。

 <冒険者ギルド>へ入ると、そこはかなりのにぎわいのようだ。


 冒険者と思われる多くの人達が出入りしていた。

 言葉は通じるのだけれど、生憎あいにくと僕はこの国の文字を読めない。


 しかし、【ステータス】魔法を習得している。

 そのお陰で、文字に視線を送るとメッセージウィンドウが表示された。


 きちんと日本語に翻訳ほんやくされている。

 仕組みは分からないけれど、自動で翻訳ほんやくされるのは助かる。


(文字を書くためには、改めて勉強する必要がありそうだな……)


 自慢じゃないが、僕は勉強が好きではない。

 後で師匠か、セシリアさんに教えてもらおう。


 そう考えて――これでは完全に女の子にやしなわれているようなモノだ――と改めて思ってしまう。先程の戦闘も、結局、メルクが手を貸してくれていた。


 どうやら、異世界に来たところで、急に活躍出来る訳ではないようだ。

 生きるために必要な事は、日本とあまり変わらないらしい。


むしろ、こっちの世界の方が不便な事が多い……)


 僕は肩をすくめる。

 それを――落ち込んでいる――と思ったのだろう。メルクに、


「げーき、らして」


 と頭をでられた。僕の真似まねだろうか?

 メルクもきちんと学習しているようだ。


「ありがとう」


 と僕が笑顔を返すと、メルクは――にゃう♪――とはにかんだ。

 僕は入口付近エントランスにある案内図フロアガイドを見る。


 どうやら、この<冒険者ギルド>の建物は5階建てのようだ。

 けれど、詳細に記載されている情報は1~3階までだった。


 【1階】


 受付の他に武器や防具、道具の販売を行っている。

 また、飲食可能なラウンジやバーが用意されていた。

 どうやら、冒険者の溜まり場で、情報を交換したりするようだ。


 【2階】


 専門的な窓口が用意され、事務的な手続きを行う場所になっている。

 冒険者の登録は【2階】で行うのだろう。

 ずは【1階】の受付で確認した方が良さそうだ。


 【3階】


 会議室や個室が用意されている。

 恐らく、貴族のつかいや商人達が依頼や相談に使うのだろう。

 現状では、行く必要はなさそうだ。


 まだ上に【4階】と【5階】、更に【地下】まで存在している。

 けれど関係者のみで、一般の冒険者は立ち入りが禁止されているようだ。


(【地下】は訓練や倉庫に使っているのかな?)


 上のフロアは、ギルドマスターや職員が仕事をするのだろう。

 やはり、ぐそこの受付嬢に話を聞くべきだろう。


 僕が受付に向かうと、一瞬、受付のお姉さんはおどろいた表情をした。

 メルクが、


「こにちは」


 と挨拶をすると、ぎこちない作り笑顔で、


「え、ええ……こんにちは」


 と挨拶を返してくれた。変な冒険者にはれているのだろう。


「すみません、おどろかせてしまって……」


 僕が頭を下げると、それ以降は普通に対応してくれる。

 ずは<カード>と<認識票>の作成を行う必要があるそうだ。


 簡単にいうと<カード>は冒険者の身分証明になる。

 <認識票>は死んだ時など、遺体を確認する際に使うらしい。


(『会員証』と『ドッグタグ』かな?)


 また――<魔結晶クリスタル>を購入する必要がある――との事だった。

 <魔結晶クリスタル>には、個人の【ステータス】などの情報が記録されるらしい。


「色々とありがとうございます」「ござます」


 僕がお礼を言うと、メルクも真似まねをする。

 受付のお姉さんもれたのだろう。


 どういたしまして――と笑顔で返してくれる。メルクが、

 

「ばいばい」


 と手を振ると、彼女も手を振ってくれた。

 周囲を見渡すと色々な恰好かっこうの冒険者達がいる。


(どうやら、冒険者も個性が必要みたいだな……)


 <メインクラス>によっては、皆、同じような恰好かっこうになってしまう。

 パーティを組む以上は、目立った方がいいのかも知れない。


(確かにゲームの時は<メインクラス>ごとのグラフィックは同じだったな……)


 僕は苦笑しつつ、階段を上る。【1階】よりは人が少ないようだ。

 恐らく、パーティで来ていて、仲間達は下で待機しているのだろう。


(並ぶ必要があるみたいだな……)


 【2階】で整理券を受け取ると、僕はメルクを降ろす。

 時折、交互にメルクを持ち替えていたけれど、流石さすがに腕が疲れた。


 呼ばれるまで、メルクをひざの上に乗せ、長椅子ながいすに腰掛ける。

 冒険者になるためには、簡単な試験があるらしい。


(もう少し、両手を休ませた方がいいかもな……)


 番号を呼ばれたので、僕はメルクを肩車する。


「たかーい♪」


 とメルク。バランスは悪いけれど、これで両手が空いた。

 ずは、登録のための費用を支払う。


 そして、セシリアさんの書いてくれた紹介状を提出した。

 一瞬、窓口の女性は――ギョッ――とした表情を浮かべる。


(やはり、メルクは目立つのだろうか?)


「失礼しました」


 と窓口の女性。番号札を渡される。

 指示された部屋を順番に回ればいい――との事だった。


 ただ、紹介状があったお陰だろう。

 僕の場合は、簡単な質疑応答や模擬戦を行うだけでいいらしい。


 時間が掛かるので、早くから来る人も居るそうだ。


(恐らく、紹介状がないと、身元を調べられたりするのだろう……)

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