第19話 神殿都市ファーヴニル(2)


「【ファイヤーボルト】!」


 身の危険を感じたので、特に考えもなくはなってしまった。

 すると――ギャアァァァ!――と悲鳴を上げて、二人の男は地面を転げ回った。


 どうやら、火を消そうとしているようだ。

 残りの一人は、腕が燃えただけなので、慌てた様子で交互に腕を払っている。


 レベルが低いので、僕の魔法に殺傷能力はない。

 けれども、衣服に燃え移ったのか、中々の威力のようだ。


(至近距離なら、倒せるかも知れないな……)


 普段なら躊躇ためら行為こういはずだ。

 けれど、一度死んだ所為せいか、特に抵抗はない。


(まぁ、僕になにかあったら、師匠が泣くだろうしな……)


 ――それだけはけたい!


「テメェッ! よくも……」


 と腕の火を払い終わったのか、一番軽傷の男がこちらをにらむ。

 しかし、僕の方が早い。


 相手も、向かって来るとは思っていなかったのだろう。

 完全に油断している。


 素早く、その口を手でふさぐと、今度は無言で【ファイヤーボルト】をはなった。


 ――ボンッ!


 一瞬の閃光せんこう

 男は白目をき、耳と鼻、そして口から煙を出して崩れ落ちる。


 どうやら、問題なくつ事が出来たようだ。

 これも<ドライヤー>による魔力操作のお陰だろう。


 魔法は複数より、単体に向けてはなつと威力が上がるらしい。

 更に場所によっても、効果が異なるみたいだ。


 今のはダメージを与えて倒したのではない。

 音と光で気絶させた――と考えるべきだろう。


 今後は<魔物>モンスターとの戦闘もある。

 もう一度、効果を試しておくのも悪くないだろう。


 どうせ、彼らも魔法で回復出来るはずだ。


(最悪――教会に行けば、生き返る事も可能だろうしね……)


 どうにも、やっている事は異常者のそれだろうけど、みょうに冷静でいられた。

 僕がやられてしまうと、メルクがどんな目にうかも分からない。


 そう考えると、フツフツと怒りがいてくる。


(そうか! 僕は今、怒っているのか……)


 彼らに対して――というより、自分の不甲斐なさに対してだ。

 師匠を――ルナを泣かせてしまった。


 その所為せいで、今の僕は、相手に対しての攻撃に躊躇ためらいがないようだ。

 一人は気絶させたけれど、今度は残りの二人が起き上がる。


流石さすがに、二人を同時に相手するのは不味まずいよな……)


 ――ここらが潮時しおどきかな?


 僕は――逃げよう――と考えたのだけれど、


「よくも兄弟を……!」


 と最初に声を掛けて来た男が怒鳴どなる。

 今にも食って掛かりそうな雰囲気だった。


 だけど、もう一人の男がそれを止める。


「待って! 兄貴っ……」


 なんだ⁉――兄貴と呼ばれた男は、自分をめた男の方を見る。

 その男は弟分なのだろうか? ブルブルとふるえながら、


「そ、そいつ……その服――『ロリス教徒』だ!」


 その男はおびえた様子で、僕を指差す。

 まるで生まれたての小鹿のように足をガクガクさせていた。


 なにぃ!――と兄貴。彼も僕を見ると、目を丸くする。

 まるで『お笑い芸人』を彷彿ほうふつさせる顔芸のような反応だ。


 しかし僕の方は臨戦態勢りんせんたいせいだ。指先だけに魔力を集中していた。

 反撃カウンターを狙っていたけれど、向かって来ないようなので、先に攻撃を仕掛ける。


 兄貴の股間目掛けて、無言の【ファイヤーボルト】を放つ。


 ――ボンッ! シュパンッ!


 男の股間が燃え上がると同時に、再び、むちしなるような音がした。


ってぇ!」


 と兄貴。今度は耳から血を流し、股間を押さえながらひざいた。


「今、消すよっ! 兄貴っ……」「バカ、めろ! 叩くな、アフンッ♥」


 兄貴と弟分は寸劇コントを始める。


(どうやら、魔法は一点集中で威力が上がる訳ではないらしい……)


 ――やはり、師匠の言うように『気合』が必要なのかな?


 魔法についてはもう少し、練習が必要なようだ。

 それよりも、メルクの腕が伸びたような気がした。


「もしかして、メルクの攻撃?」


 僕の問いに彼女は――うにゃ?――と首をかしげる。


「クソッ! よくも兄貴を……」


 と弟分――いや、二人居るので、弟分Aとしておこう。

 倒れている方は弟分Bでいいだろう。


「待ってくれ! 股間を思いっ切り蹴飛けとばしたのはそっちだろ?」


 僕はぎぬである事を主張する。

 それより――と僕は倒れている弟分Bを指差した。


 男達が寸劇コントをしている間に、気絶して倒れている弟分Bにもう一度、【ファイヤーボルト】を使ったのだ。


「ぎゃーっ! 燃えてるぅ……」


 慌てて、弟分Aは弟分Bの消火に当たる。

 一方、兄貴の方は股間を押さえつつ起き上がった。


「<ロリス教>――うわさ通り、頭の可笑おかしな連中の集まりだってぇのは、本当のようだな……」


 下半身丸焦げの男に――頭が可笑おかしい――呼ばわりはされたくない。

 心外である。


 一方、弟分Aは弟分Bの火を無事消す事が出来たようだ。

 すっかり真っ黒になった弟分Bに肩を貸す体勢で起き上がると、


「チッ! これだから『ロリス教徒』は……」


 お、覚えてやがれっ!――と言って逃げ出した。

 一人残された兄貴は、


「おいっ! 待て……」


 オレを置いて行くな!――と蟹股がにまたで股間を押さえながら追い掛けて行く。


「うりゅ?」


 とメルクは彼らを指差す。

 追い掛けなくていいのか?――と言いたいようだ。


「必要ないよ」


 と僕は告げる。面倒だし、MPも勿体もったいない。

 一方で、何故なぜか街の人々は、僕達に拍手を送った。


 どうやら、彼らは嫌われていたようだ。

 僕としては――メルクに怪我けがが無くて良かった――とそれだけである。


「メルク、ありがとう」


 でも、危ない事はしちゃダメだよ――と注意をしておく。


「あい!」


 とメルク。やれやれ、返事だけはいいようだ。

 集まっていた人だかりも、次第にけて行く。


 衛兵えいへいが来ても面倒なので、僕達もその人の動きにまぎれる事にする。

 そのまま、なに食わぬ顔で<冒険者ギルド>へと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る