第17話 ヨージョ神殿(2)


 僕を復活させてくれた女性神官――彼女の名前は『セシリア』というそうだ。

 ここは<ロリス教>の神殿らしい。


 <ロリス教>も、かつては多くの信者を抱えていた。

 だけど、二百年程前に『魔王戦役』が勃発ぼっぱつ


 <魔王>が復活し、<魔物>モンスター達が狂暴化してしまった。

 当然、<勇者>が召喚され、解決する事になる。


 ただ、この事件を機に――<ロリス教>の信仰の対象となっていた存在――である多くの<ロリモン>達が行方不明になってしまったそうだ。


 そのため、今は信仰も薄れてしまっていた。


 ――本当にそれだけが原因だろうか?


(いや、今は疑っても仕方がないか……)


 そこに、新しい<ロリモン>である『メルク』の登場である。

 この事は<ロリス教>にとって、復活の狼煙のろしといってもいい出来事だった。


「はーい、メルクちゃん♥」


 お、お、お、お姉ちゃんって呼んでくれますかぁ?――とセシリアさん。

 残念を通り越して、なんだか危ない人だ。


(やはり、信仰が薄れたのは変態……)


 ――いや、これ以上はそう。


 一方、素直なメルクは、


「ねえ……たん?」


 首をかしげながらつぶやく。その仕草しぐさ台詞セリフに、


 ――ブフォッ!


 セシリアさんは突如とつじょとしてけにった。

 何故なぜか鼻血を出している。


(死んだ冒険者を復活させられる程、高位の神官なんだろうけど……)


 今は完全に、ヤバイ人にしか見えなかった。

 そんな彼女は――ハァハァ――と興奮した息遣いで、


「アスカ君! いえ、アスカ様――」


 僕の右手を取ると両手でにぎる。セシリアさんは美人で、胸の大きな女性だ。

 普通に考えると嬉しいはずなのだけれど、今はトキメク要素が見当たらない。


 むしろ、早く手を離して欲しい心境だ。


「いや、先に鼻血をいてください」


 と僕は彼女を心配するフリをした。それが大人の対応だろう。

 失礼しました――とセシリアさん。


 彼女はハンカチを取り出すと、鼻血をいた。

 そして、平静へいせいよそおうと、


「どうか、この神殿で一緒に暮らしてください!」


 と告げる。なんだか、師匠に召喚された時の事を思い出す。

 僕は――困ります――と断った。しかし、彼女は、


「身の回りの世話は私がしますから!」


 と食い下がった。真剣な表情だけれど、魂胆こんたんは見え見えだ。

 僕がここに住めば――師匠とメルクもここで暮らす事になる――からだろう。


 メルクはかく、師匠はすごく嫌そうな顔をしていた。

 それでも、僕を復活させてくれた手前、大人しくしているようだ。


(仕方がないな……)


 僕は丁重にお断りした。

 これ以上、野放しにすると師匠が本気で怒り出しそうだ。


(それに、メルクへの教育にも良くないだろう……)


 丁度、そのタイミングで僕のお腹が鳴ってしまった。

 どうやら、死んでいてもお腹は空くようだ。


 セシリアさんは苦笑すると――食事だけでも――と朝食をご馳走してくれた。

 パンとスープだけだったけれど、僕はお礼を言う。


 質素といえば聞こえはいいのだろう。

 しかし、信者も少ないため、暮らしはまずしいようだ。


「一緒に暮らす事は出来ないけれど……」


 僕になにか出来る事はありますか?――と聞くと、


「<勇者>の仲間になるのじゃ!」


 と何故なぜか師匠が答える。

 どうやら、<勇者>の旅にロリモンをお供させたいらしい。


 そうする事で、ロリモン達に対する印象を少しでも良くしたいようだ。


「そのためにも、先ずは冒険者になるのじゃ!」


 師匠は――セシリア、準備をするじゃ!――と命令する。

 この様子では、僕に拒否権はないようだ。


 説明を受けつつも、僕は冒険者の恰好に着替える。

 そして、メルクを連れて<冒険者ギルド>へと向かうのだった。



 †   †   †



 ここは『神殿都市ファーヴニル』。

 『ロリモンクエストⅢ』では、始まりの街として有名な場所だ。


 確か、公式設定では――<勇者教>を始め、様々な神殿が存在する事を許されている都市――だと記憶している。


 どうやら、先程までお世話になっていた<ロリス教>も、その一つらしい。

 ゲームをプレイした時は、具体的な宗教や神々の名前は出て来なかったはずだ。


 食事の際、セシリアさんが話してくれたのだけれど――かつては<ロリス教>も、この世界の三大宗教の一つとして数えられていた――そうだ。


 その名残なごりで、今でも、お金の単位に『ロリス』が使われている。

 僕からしてみれば――ゲーム制作者側の悪ノリ――としか思えない。


 師匠から、お金を受け取った時にも確認したけれど、間違いないようだ。

 今度、時間のある時に、セシリアさんから詳しく聞くとしよう。


 それよりも今は――


(手元にあるのは――500ロリス――か……)


 これが多いのか少ないのかは、まだ分からない。


(ゲームだと、武器や防具くらいにしか、お金は使わないからな……)


 日用品などの物価は不明だ。

 ただ――大切に使おう――とは思う。


 僕の復活に――20ロリス――寄付したそうだ。

 勿論もちろん、セシリアさんは受け取りを拒否したけれど、


貴様きさまには、貸しは作りたくない!」


 と師匠が拒否したらしい。

 確かに、セシリアさんの様子をかんがみるに後が怖い。


「代わりになにを要求されるか分かったモノでない!」


 と師匠。そんな彼女も、話があると神殿に残ってしまった。

 メルクという存在が現れた事で、状況が変わったからだろうか?


 今後の方針などを決めるのかも知れない。

 そんな理由で僕はメルクを抱いたまま、初めての街を彷徨さまよっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る