第二章 冒険の始まり⁉ 魔物使いは魔物臭い?

第16話 ヨージョ神殿(1)


 翌朝、目が覚めると――


「おお<勇者>よ! 死んでしまうとは情けない……」


 知らない女性の声が聞こえる。


(誰だろう?)


 僕は上半身を起こすと、そこが寝台ベッドの上ではない事に気付く。


棺桶かんおけの中?)


 僕は首をかしげつつ、寝惚ねぼまなこで声の主を確認する。


「おいっ、此奴こやつは<勇者>などではないぞ!」


 と言っているのは師匠だ。どうやら、家ではないらしい。

 建物の造りからいって、教会か神殿のようだ。


 陽光の入り方が独特で、神秘的な感じがする。

 天井には、絵画がえがかれていた。


「言ってみたかっただけですよ……」


 フフフッ――と声のぬしである、その女性は笑った。続けて、


「神につかえる者なら、誰しもが一度は言ってみたい台詞セリフです!」


 と言い切る。

 まだ頭はハッキリしていないが、直感で――変な人だ――という事を理解する。


 年齢は――僕より少し上――といったところだろうか?

 ウェーブがかかった金色の長い髪に、優しそうな水色の瞳。


 祭服に帽子――その姿から、どうやら神官のようだ。

 穏やかな雰囲気の綺麗な女性だった。


 しかし、注目すべきは、その――はち切れんばかりの――大きな胸だ。

 つい目が行ってしまうのは、男としてのさがだろうか?


(いや、この大きさなら――女性でも目が行くはずだ……)


 僕の視線に気が付いたのか、彼女は両腕を使い、胸をせて上げる。


 ――挑発しているのだろうか?


(いや、ただ重かっただけか……)


 彼女は――にこり――と微笑ほほえんだ。

 好意的ではあるが――異性に対して――という雰囲気ではない。


 僕は一向に、状況が飲み込めずに居た。

 取りえず、師匠に――おはよう――と言っておく。


 しかし――


「おはよう――では無いわ!」


 と怒られた。

 まったく、心配させおって!(プンスコ)――としている。


 なにやら、僕が悪い雰囲気だ。そこへ、


「にーたん!」


 と今度はメルク。突然、飛びついてきた。

 そうかと思えば――ビタンッ!――と音を立て、僕の顔面に貼りつく。


(く、苦しい……息が出来ない――)


「コラッ! また殺す気か……」


 と師匠が怒鳴どなる。

 するとメルクは慌てて離れ――シュン――とした。


なにも、怒鳴らなくても……)


 僕がそう思っていると、


「ああ、幼女が顔に張りつくなんて……うらやましいです!」


 ほほめる女性神官。


 ――この人は、なにを言っているのだろうか?


(やっぱり、変な人だ……)


 僕は落ち込んでいるメルクを抱き締め、頭をでる。

 そして、師匠を見詰めると、


「状況を教えて――いや、大体わかった……」


 自己完結してしまった。

 恐らく、寝ている間に、今みたくメルクが顔に貼りついてきたのだろう。


(それで、窒息ちっそく死をした訳か……)


 どうやら、復活のために――この神殿に連れて来られた――という事らしい。


「にーたん――ごめんしゃい……」


 泣きそうな顔で謝るメルクの頭を僕は出来るだけ、優しくでる。そして、


「怒ってないから、泣かないで」


 となぐさめた。一方で、


「愛です――貴方あなたからは幼女に対する愛を感じます……どうです?」


 ロリス教に入信しませんか?――と女性神官。


「遠慮します!」


 僕は即座そくざあやしい勧誘を断る。


(少し、失礼だっただろうか?)


 ――いや、ロリス教と言っていたな?


 確か、『ロリモンクエストⅢ』では、ロリモンを崇拝すうはいする邪教として登場していたような気がする。


 つまり、僕に対し、胸を見ても嫌悪感を現さなかったのは、僕の事を――真正のロリコンだと思っているから――なのだろう。


(やれやれ、困ったモノだ……)


 えて否定するのも面倒なので、僕は思考を切り替える。


「心配を掛けて、すみません――師匠」


 どうやら、祭壇さいだんの上に棺桶かんおけが用意され、その中で眠っていたようだ。

 僕はメルクを抱いたまま立ち上がり、ゆっくりと祭壇さいだんから降りる。


「べ、別に心配などしておらんわ!」


 と師匠。目には涙のあとがある。

 僕はメルクを降ろすと、師匠を抱き締めた。


 そして、もう一度――ゴメンね――と言う。

 彼女は抵抗しなかった。ただ、


「ふん! むしろ、<スライム>に殺されるとか……」


 笑いをこらえるのに必死なのじゃ!――とそっぽを向く。

 あらあら――そう言って、女性神官は自分のほほに手を当てると、


「そんな事、言っていいんですか?」


 素直じゃありませんね――と微笑ほほえんだ。

 きっと、師匠が慌てて連れて来てくれたのだろう。


 短い付き合いだけど、それ位はぐに想像出来る。


「それでも、ありがとう……大好きだよ」


 僕は師匠にお礼を言った。


「う、五月蠅うるさいわ! レベル1のくせに……」


 心配を掛けおって――と彼女も腕を回し、僕を抱き締める。


(やれやれ、ひどい言われようだ……)

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