第12話 朝露の森(2)


「それよりも、この辺に出現する<魔物>モンスターについてなのじゃが――」


 ――そうだった!


(昨日の夜も、それを聞こうと思っていたんだ……)


 師匠の話によると、日中は<盗人ガラス>と<一角ウサギ>、<巨大毒グモ>が出現するようだ。


 夜は<吸血コウモリ>と<穴掘モグラ>、<巨大痺ガ>が出現するらしい。


(どれも聞いた事のある名前だな……)


 やはり、ここは『ロリモンクエスト』の世界のようだ。しかし、僕が知っている知識は少し古いようで、既に<勇者>が活躍した後の世界だった。


(僕の知識が通用するとは限らないのか……)


 どうやら、もう少し慎重に行動した方がいいのかも知れない。

 師匠に<魔物>モンスターの話を詳しく聞いてみる。


 ――ずは日中に出現する<魔物>モンスターからだ。


 <盗人ガラス>は基本的に旅人などから道具を盗んでゆく。

 ただし、攻撃してきた場合は注意が必要だ。


 目をねらって、上空から爪とくちばしで攻撃してくる。

 人間や動物の死骸しがいなどをついばみ、エサにする事もあるらしい。


 <一角ウサギ>は文字通り、ひたいつのの生えた肉食のウサギだ。

 成長する度に、そのつのは鋭く、大きくなるらしい。


 草のしげみや木の影から突然飛び出し、脇腹や脹脛ふくらはぎを刺してくる。

 どうやら集団でおそい、出血で動けなくなった獲物の肉を喰らうようだ。


 <巨大毒グモ>は、基本的に蜘蛛糸で罠を張っている。

 獲物が掛かるのを待っていて、罠に掛かった獲物に毒を注入するそうだ。


 ある意味――巣がある場所には必ず居る――と考える事も出来る。

 火の魔法があるため、毒にさえ気を付ければ、対処は一番楽だろう。


 ただ、これらの<魔物>モンスターを複数同時に相手にする場合は厄介だ。


(まずは確実に、一体ずつ相手をしなければ……)


 ――次に夜行性の<魔物>モンスター達の説明を聞く。


 <吸血コウモリ>は、文字通り血を吸いに来るコウモリだ。

 吸血鬼ヴァンパイアと呼ばれる上位魔族の手下らしい。


 大して強くはないが、群れをなし、集団でおそってくる。

 そのため、ねらわれると厄介な相手だ。


 <穴掘モグラ>との合わせ技にも、気を付けなければならない。

 真っ暗な夜の森。モグラの堀った落とし穴は見付けにくい。


 大人がスッポリと落ちてしまう程の大穴はい上がるのも一苦労だ。

 コウモリは群れでおそい掛かり、その穴の場所へと冒険者を誘導ゆうどうする。


 そして、落ちて動けなくなったところを吸血するらしい。

 後には干乾ひからびた死体が残るだけ――


なんとも、えげつない……)


 モグラ自身も、普段は地中に居るため――倒すのがむずかしい――ときている。


(やはり、ゲームのようにはいかないみたいだ……)


 <巨大痺ガ>は麻痺まひ効果のある鱗粉りんぷんを集団で上かららしてくる。

 獲物が麻痺まひするまで近づいては来ないので、倒すには魔法が有効だ。


 どれもゲームでは雑魚キャラだった。

 しかし、こうして考えると、あまり戦いたくはない相手だ。


(やっぱり、仲間を増やすまでは、戦闘はひかえた方が良さそうだな……)


 他にも、巨大な蛇や毒を持ったカエル、定番のスライムなどがいるらしい。

 だけど、池や沼地、ダンジョンに行かなければ遭遇そうぐうする事はないという。


(先ずは【テイム】で、この森の<魔物>モンスターを仲間にしないとな……)


 森へ辿たどり着くと、開けた場所があるというので、そこに向かう。

 切り株などがあり、僕は師匠を降ろした。


「ここは『朝露あさつゆの森』と呼ばれ、冒険者達が薬草などを探しに来る森じゃ」


 と説明してくれる。また、師匠とはここで一旦、お別れとなる。

 どうやら、彼女と一緒だと<魔物>モンスターが怖がって近づいて来ないらしい。


(師匠って、何者なにもの?)


「うむ、わしる事がある」


 危なくなったら、大声で叫ぶのじゃぞ――と師匠。

 彼女と別れ、離れた場所で【サーチ(動物)】を使用してみる。


 動物、もしくは動物系の<魔物>モンスターの位置が分かるスキルだ。

 反応があった。恐らく、<盗人ガラス>と<一角ウサギ>だろう。


(ここまでは、問題ない……)


 しかし、いざ戦闘となると、中々に素早しっこい。

 捕まえる事も、倒す事も出来そうになかった。


 やはりゲームと違って、不利な戦局だと逃げてしまうようだ。


(そりゃ、勝てない相手には逃げるよな……)


 結局、体力と時間だけが過ぎて行く。

 僕は一度あきらめて、師匠の元へ戻る事にした。


なにか作戦が必要だな……)



 †   †   †



「よし、罠を作ろう」


 昼食を取りながら言った僕の言葉に、


「まぁ、このままでは一向に【テイム】が出来んからのう……」


 仕方がないのじゃ――と師匠。

 ハァ――と溜息をかれてしまった。


(現実はゲームのようにはいかないらしい……)


 確かに、簡単に<魔物>モンスターを退治出来るのなら、冒険者は要らないだろう。

 師匠は――そうじゃ!――となにか思い出したようだ。


「罠を作っていると、突然<一角ウサギ>飛び込んで来て――顔面を刺された――という話を聞いた事があったのう……」


 注意するのじゃ!――と師匠が教えてくれる。

 確かに、姿勢を低くすると恰好の的だろう。


 僕は罠を仕掛けるのを止めた。


(一先ず、水でも飲んで落ち着こう……)


 水筒を開けると、


「アレ? 出て来ない……」


 逆さに振ってみるが、やはり出ない。

 師匠が飲んだのだろうか?


(いや、それだったら、水をんで来るように言うはずだ……)


「どうしたのじゃ?」


 僕が、水が出て来ない事を説明すると――ふむ、貸してみよ――そう言って、僕から水筒をうばい取る。


 そして、中をのぞき込んだ。すると、


 ――スポンッ!


 となにかが飛び出してきて、師匠の顔を――ペチンッ――と直撃した。

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