第11話 朝露の森(1)


 まだ気温が低い所為せいか、森の方にはきりが出ていた。

 ようやく――空が明るくなった――という頃だろう。


 くろに見えていた木々が、次第に色を取り戻してく。

 空気はんでいるが、濃い緑のにおいが充満していた。


 ――おや、今、なにか動いたような?


 それは師匠に言われた通り、顔を洗っている最中だった。

 井戸からんだ水は、かなり冷たい。


 覚悟を決め――バシャバシャ!――と顔に水を掛ける。

 視界のはしでゼリー状の――プルンッ――としたモノが動いた気がした。


 タオルで顔をぬぐいながら、周囲を再度確認する。

 だけど、特に変わった様子はなかった。


 ――気の所為せいかな?


 顔に付いた水滴と見間違えたのかも知れない。

 僕は首をかしげる。


(そう言えば、昨日落とした玉に似ていた気がするけど……)


 気になり、少しだけ周囲を散策さんさくしてみた。

 だけど残念ながら、それらしいモノは見付からなかった。


 ――何処どこに落としたのかな?


 いや、それよりも、師匠を待たせる訳にはいかない。

 昨日からの様子を考えると――僕が逃げ出した――と思うかも知れないからだ。


 急いで家へと戻ると――ただいま――と言って、食卓テーブルに着いた。


「ふむ、遅かったな」


 と師匠。怒っている様子はない。今朝けさの出来事はもういいようだ。

 恐らく、朝食の準備をしている間に落ち着いたのだろう。


 丁度、その朝食を並べくれている最中だった。

 手伝おうかとも思ったけれど、すでにやる事はなさそうだ。


美味おいしそうだね」


 と感想を伝えると――そうか♪――と師匠は嬉しそうに返してくれた。

 勿論もちろん、朝食なので豪華ごうかなモノではない。むしろ、昨日の残りに手を加えたモノだ。


 チーズを乗せて焼いたパンに、肉と根菜を入れ、温め直したスープ。

 ハムやソーセージを用意していたようだが、そちらは昼食ランチのようだ。


「食べたら、コレに着替えるのじゃ!」


 と師匠。昨晩っていた衣装を椅子イス背凭せもたれに掛けた。

 どうやら、すでに出来ていたらしい。僕は――分かったよ――と答える。


 そんな訳で、食事を手早く済ませると早速、着替えてみる。

 鏡の前で杖を構えると、なんとかさまになっている感じがした。


(まぁ、昨日まではジャージだったしな……)


 一気に異世界感が増す。


「似合うかな? 師匠……」


 振り返って、僕が質問する。

 すると彼女は目を細め、あごに手を当てると――う~ん――とうなり、


「弱そうじゃな……」


 アハハッ!――と返してくる。


(素直じゃないな……)


 僕は苦笑しつつ、


「師匠、ありがとう」


 とお礼を言う。彼女はずかしかったのか、持っていたカバンを放り投げてきた。

 僕が受け止めると、


「お昼が入っているのじゃ! おぬしが持て……それから、水筒も入っておる」


 水は自分でんでくるのじゃ――と言い放った。


(やれやれだ……)


 僕は手早く準備を終えると、靴をき替える。

 ただし、靴といっても、サンダルや草履ぞうりに近い形状のモノだ。


 走りにくいし、脱げないようにキチンとしばっておく必要もある。


(街に行ったら、革靴を探そう……)


 外に出て待っていると、少し遅れて師匠が出て来る。

 昨日とは違い、何処どこ草臥くたびれれた感じのする衣装だ。


年季ねんきが入っているな……)


 どうやら、昨日の衣装は正装で、こちらが冒険者としての恰好らしい。

 そんな彼女はどういう訳か、僕にしゃがめと命令してくる。


 疑問に思いつつも、僕は従う。

 すると、師匠が背中に飛び乗ってきた。


「気に入ったんだね……」


 どうやら――おんぶをしろ――という事だったらしい。


(昨日の今日なので、結構、筋肉痛がひどいのだけれど……)


なにがじゃ?」


 ととぼけた態度の師匠。

 いや、彼女の中では、これは当然の事なのだろう。


「うんん、なんでもないよ」


 僕は首を左右に振ると、立ち上がる。

 そして、師匠を背負ったまま、森へと出掛けるのだった。



 †   †   †



 森を歩きながら、


「そう言えば師匠……」


 と僕は色々と質問をした。ずはもっとも大切な、


「【テイム】の使い方を教えてもらっていないんだけど?」


 まぁ、今朝けさ使った【ファーストエイド】と一緒だろう。

 必死だったので、なにも考えずに使ってしまった。


 だが、今回は<魔物>モンスターが相手だ。


(上手く出来るだろうか?)


「なぁに、簡単じゃ! 対象となる<魔物>モンスターに向かって、手を――」


 もしくは杖を向けて、【テイム】とさけべばよい!――と教えてくれる。続けて、


「まぁ、ずは気合じゃ!」


 と行き成りの根性論。


(ハッキリ言って、不安しかない……)


 そんな僕の気持ちなど考えもせず、


れれば、念じるだけで発動出来るはずじゃ!」


 と付け加える。


(やれやれ――随分ずいぶんと簡単に言ってくれるモノだ……)


 思わず、溜息をきそうになった。

 僕は気を取り直して、


「やっぱり、他の魔法も同じあつかいなのかな……?」


 とつぶやく。習得したスキルや魔法をSPスキルポイントに戻せるのなら、色々と試してもいいのだけれど、それは無理そうだ。


(現状だと、習得したスキルや魔法の取り消しキャンセルは無理みたいだな……)


 となると、最初にどんなスキルを習得するかが問題になってくる。

 戦闘系のスキルよりも、回復や補助、支援系にすべきだろうか?


(この辺は、ゲーム知識が役に立つ……)


 師匠と相談して、習得するスキルを決める。

 場所フィールドが森なので、動物や植物系の<魔物>モンスターが多い事は容易に想像が出来た。


 あまっているスキル枠は二つ。

 先ずは、<分類>動物の<魔物>モンスターを集める事が出来る【コール・ザ・アニマル】。


 そして、<分類>動物の<魔物>モンスターの居場所が分かる【サーチ(動物)】のスキルを習得する事にした。


 なにはともあれ、<魔物>モンスターを仲間に出来なければ話は進まない。

 ちなみに、最初に仲間にするのであれば、犬や猫みたいな可愛いのがいい。


 正直なところ、蜘蛛クモ飛蝗バッタ蜥蜴トカゲカエルとか――そういうのと一緒に暮らすのは、今はまだ勘弁して欲しいところだ。

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