第2話 やっぱり、確信犯じゃないか‼


 転送先の魔法陣から転がるように飛び出す。

 いや、実際にゴロゴロと床を転がった。


 そんな僕達に対し、最初に向けられた言葉は、


「おや? 思ったよりも早かったのう……」


 という師匠であるルナの気の抜けた台詞だった。

 年寄り臭い話し方だが、彼女の外見は十四歳くらいの少女の姿だ。


 こっちが――死にそうな目にっていた――というのに、その原因である彼女は呑気のんきにお茶をすすっている。


(納得いかない……)


 僕が連れているモンスター娘達ほど、師匠は幼くはない。

 だけど、それでも、僕からすれば年下の外見である事には変わりない。


 少しクセのある翠玉色エメラルドグリーンの長くて美しい髪に金色の大きな瞳を持つ美少女。


 しかし、その話し方からも分かるように、見た目と年齢が異なる存在だ。

 感情が高ぶった時に見せる細い瞳孔は爬虫類を連想させる。


 また、一緒にお風呂に入った際には、頭部に隠された角や手足に髪と同じ緑の鱗を確認している。


 決して多くを語ろうとはしないが、彼女もまたモンスター娘である事に、間違いはないだろう。


(だけど、今は……)


 ――そんな事よりも、メルク達だ!


 三人のモンスター娘達は僕から離れると、熱を冷ますのと同時に呼吸を整えるため、床の上に寝転がっていた。


 肌蹴はだけた衣服を整える余裕もないようだ。

 メルクはスライムなので、文字通り床に張りついている。


(こんな事なら出掛ける前に、おけに水でもめておけば良かった……)


 全力疾走をしたためか、僕自身、今は立ち上がる気力もない。

 それでもメルクは【ウォーターボール】の魔法で小さな水球を生成する。


 そして、ルキフェとイルミナの頭へ、それをつけた。


「ききぃっ!」「冷たっ!」


(火山洞窟では、水ではなくて、お湯になっていたからな……)


 そんな事を思い出し、苦笑していると、僕の顔面にも水球が飛んでくる。

 痛くはない。むしろ、火照ほてった身体には丁度いいくらいだ。


「わっぷ……ありがとう、メルク」


 僕はれた顔を素手でぬぐう。そして起き上がると、水と汗でビショビショになった装備を外し、上半身の衣服を脱いだ。


(張りついて、上手く脱げない……)


なんじゃ? 汗だくで息を切らせおって……」


 師匠であるルナが小馬鹿にしたような視線を向ける。

 その金色の綺麗きれいな瞳は、夜空に浮かぶ月を連想させた。


(多分、それが名前の由来なのかな……)


 師匠は、その大きな瞳で僕を見詰めると、


「さてはお主らっ! エッチな事でもしとったんじゃ……」


 うらやまけしからん!――と謎のいきどおりを見せる。


「いや、その怒られ方、意味分からないから……それよりも――」


 ――メルクが顔に張りついてきて、息が出来なくなって大変だった事。


 ――ルキフェが吸血しようと、すきあらばみついてきた事。


 ――イルミナが鳥目で、暗いダンジョンではあまり役に立たなかった事。


 ――なにより、子供は体温が高い事。


 そんな事を矢継やつばやに説明したのだが、案の定、


「それよりも、強そうな魔物は【テイム】出来んかったのか?」


 師匠は――情けないのう――とでも言いたげな瞳で僕をにらむ。

 僕は首を左右に振ると、


「熱くて、ソレどころじゃなかったよ……」


 と答える。


(メルク達の様子を見れば分かるだろうに……)


 いまだにぐったりとして、倒れたまま動かないメルク達。

 そんな彼女達に視線を向けた後、師匠に対し、僕は目でうったえる。


 流石さすがの師匠も気不味きまずくなったのか、目を泳がせた。

 それから、なにかを思いついたようで、


「ごっめ~ん……送るダンジョン間違えちった――てへぺろ☆」


 こつんっ――とポーズを取る。

 いったい、そういうのは何処どこで覚えてくるのだろうか?


「い、異世界では、こうやって謝るのじゃろ?」


 と師匠。なにか壮大な勘違いをしているようだ。


(まぁ、でも流石さすがに今回は反省したようだな……)


 師匠に――強力なモンスターを【テイム】出来る場所があるから行って来い!――と魔法陣の中に無理矢理放り込まれたのは先刻の事だ。


 その時は――もう、ここに帰ってくるのはめようか――と本気で思った。


 どうにも、この世界の連中は、異世界から召喚した人間を――特別だ――と思っているようだ。


(今度、ゆっくり話し合う必要がありそうだ……)


 僕がそんな事を考えていると、


「チッ、運が良ければ『火精トカゲ』や『溶岩デーモン』を【テイム】出来たモノを……」


 と師匠。どうやら、まったく反省していない様子だ。

 くやしそうに、親指の爪をむ彼女に対し、


「やっぱり、確信犯じゃないか‼」


 僕は怒鳴った。

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