第11話 惑星を盗んでみた(you tuber風に

 人生とは不公平なものである。

 30万年前に地球で書かれたセーショという本でも

『とある所に神に仕える兄弟がいた。兄は農業関係の株を買い、弟は畜産系の株を買ったら、弟の株が上昇し弟は金持ちに、兄は大損して貧乏になった。

 これを妬んだ兄は弟を殺害。作業所を追放され一生を刑務所で過ごすことになった』という話がある。

 人類初の殺人と呼ばれている事件だ。


 つまり不公平は人命すら奪ってしまうという事だ。


 だとしたら、この状況はどうだろう?

 一方は一つの惑星を丸ごと所有し、あふれる資源を自由に使える。

 もう一方は、その管理を命じられ実際に住んでるのに、岩の一つも自由に動かせない。

「宇宙銀行の社員が時々 預かった金を着服して株につっこんだりするのも、このような溢れる資産を見せつけられているからかもしれないな」と思った。


『想像を絶するほどの財産を自分ならもっとうまく使えるのに。こんだけあるなら少しくらい分けてくれよ』


 そう思うのは自然な事だろう。

 まあ、俺はそんな資金を見る機会すらなかったけど。

 まあ、あのころは派遣バイトをすれば酸素だって買えたし飯も少しは食えた。

 だが目の前にごちそうの元があるのに、満足に食うことも出来なかったらどうだろう?

 しかも「おまえが財産を持っていないのは努力がたりないからだ」と親の財産を相続しただけのボンボンが偉そうに言ってきたら?


 おれならとりあえず、顔面に一発ぶちかまして、そいつの飯を食べるだろう。


 と、いうわけで

「なあ、フンババさんよぉ。この3Dプリンターは、記憶にある物ならサイズを変えて作ることも可能なのか?」と尋ねる。

「ええ、自由に縮尺を変更して作成できますよ」という。

「サンキュー」

 そう言うと俺は、パワードスーツを作成した。

「ちょっ!何をしてるんですか!」

 フンババが仰天する。

 まあ銀行員の目の前で金庫の金を勝手に使用するような所業だから仕方ない。

「俺はあの潰れ饅頭の仕様人じゃないんでな。ちょっと お土産を貰って逃げる」

 堂々と犯行…もとい反抗宣言をする。

 さっきの一件で俺はフンババに力ではかなわない事は分かった。


 だが機械の力なら十分勝てる事も分かった。


 なので止めようとするフンババを振り払い、俺の複製をパワードスーツごと複製する。20体ほど。

 ついでに今度は3倍の大きさの3Dプリンターと分解機をパーツに分けて複製する。

「面倒だし、プリンターと俺を複製した方が早いな」

 そう言うととりあえず5台ほどプリンターと俺の複製を作る。

 フンババ達は急に増えた俺たちに取り押さえられた。


「止めてください!こんな事をしたら我々が怒られます」 

 俺の悪行に抗議するフンババたち。

 悪いな。俺を復活させてくれた あんた達が死なないならここまでしなかったけど一緒に消されるんなら気を使う必要はないよな?


 ギリシアの変人 ソク☆ラテスは「悪法だって法だニャン★」と言ったそうだが、

 一生懸命働いているのにロクに飯も食えないのがルールなら,ルールが間違っている。

 市民が暴動を起こすのはルール内じゃ生きていけないからだ。

 なので、今まで不払いだった労働対価を勝手に払ってやることにした。


 略奪?


「これだけ材料があるんだからケチケチするなよ」

 そういうと、俺は今まで食べた中でも一番うまかった御馳走を思いだし、プリンターに投影する。


「これが本来労働者に与えられる正当な対価って奴だ。ほら、食べてみろ」

 そう言って、ラグビーの選手のように俺の複製とスクラムを組んでいるフンババ達に食事を御馳走する。お代は潰れ饅頭ブルジョワジーの豚野郎のおごりだ。

 合成肉でない天然物のブンゴビーフを口に入れる。

 コウベビーフやマツザカビーフの祖先に当たる牛で、値段の割に美味しいので俺はこっちの方が好きだ。

 毒殺への恐怖と言う概念がないのかフンババ達は抵抗もなくステーキを食べる。


 効果はてきめんだった。


「なんかよく分かりませんが、肉汁がぶわっと広がって塩味とからんで…」

 丁寧に噛みながらフンババの一人が

「なんか…こう、幸せな気持ちになりますね」と感想を述べる。


「どうだ。おまえたちの創造主はおまえ等の労働の上前をはねて、こんなものを毎日食べてやがったんだぜ」

 と、憶測と偏見だけで断言する。

 まあ、あの体型になるには油たっぷり採らないと無理だろうし、間違ってはないはずである。


 そのとき


 今まで自分達の立場に不満を感じなかったフンババたちに不公平感が生まれたのを俺は見逃さなかった。

「この料理を毎日食べたいか」

 アダムとイブに智恵の身を食べさせたドラゴンのように俺はフンババ達に自立を呼び掛ける。


「食べたいですね。これは好ましい物です」


 かかった。

  あんなクソ饅頭は偉そうに指示を出してこんな上手い物を食べている脇で、フンババ達は粗食だけ与えられ搾取されているのだ。不満が生まれないわけがない。

 あとは正当な権利を行使して反乱を扇動しよう。

 失敗しても死ぬだけ。参加しなくても死ぬだけだ。

 奴が与えるのは粗食と無給。俺は美食に働いた分の報酬だとすればどちらにつくべきかは一目瞭然。

 従業員の待遇どころか国民の生存権を奪うと国家への忠誠なんてあっという間に無くなるのはチンショー・ゴコーの乱という中国の反乱でも明らかだ。 


「それにはお前だけでは無理だ」

 あんな味も素っ気もない料理ばかり食べてたら、ジャンクフードは生み出せない。

「俺一人でも無理だ」

 機械の使い方よく分からないからな。


「というわけで一緒に ?」


 メフィストフェレスのように俺は違法への道へ誘った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る