第10話 財産がないと存在することも死ぬことも許されないセカイ

「ところで、あの饅頭のところをみたら他人がいなかったけど、」

「この世界で常に存在している方というのは、大富豪の157名だけで、あとは必要に応じて呼び出される感じですね」

「はい?」

 木星まで進出した25世紀の人口は500億人位だった。

 科学の進んだこの世界ならそれこそ1兆くらいいても良さそうだが、157人。たったの157人。

「この世界では資源を所有していないと生存を許されませんから」

 という事は、その157人だけが資源を独占しているということか?

「複製装置のない時代はかなり多くの方が生きていたそうですが、死んだ者も簡単によみがえらせる事ができるようになってから、自由に存在したり消えたりできるので命の価値が急落しました」


 そこで『元々人の下で仕事をしないと生きる事すら出来ない人間は仕事で必要な時だけ復活させられ、普段は資源に戻しておけば食費も維持費もかからないではないか』という発想にいきついたという。

 そうなると、互いに「おまえは存在する資格があるのか?」と足を引っ張りあい、相手の資源をいかにして奪うかを上手く考えられた者が生き残る社会になったらしい。

 25世紀で言うなら高報酬の投資話をもちかけたり、株価を異常に釣り上げて、人が集まった瞬間に売るハメコミと呼ばれる株価操縦で他人の資源をだまし取ったりした感じだ。

 これらの手法はなかなか立件されない。

 なので金持ちはさらに金持ちになり、貧乏人は大富豪への夢だけ持ったまま財産を失うだけとなり、最終的には警察や国家自体が富裕層に買収され消されていった。

 種族が変わっても金持ちが強いのは同じらしい。

「それで人権を失い奴隷となるのは人類と同じだがよぉ、資源がないと言うだけで死んだ後も奴隷として働かされるってのはエグいな。だれか反乱でも起こさなかったのか?」

「反乱?太陽系の鉱物かなんかですか?」

 反乱の概念自体を抹消されてるのかぁ…

 科学の進んだ世界は人間は働かず機械が働く世界かと思ったが、金持ちと機械だけが生存を許される世界のようだ。


 完全なディストピアじゃねえか。


 まあ人類も、そんな便利な装置があったらそうなるか…

 むしろ、自分以外の他者が生存していること自体が恐ろしくて1人残るまで争い続けるかもしれないな。


 そう考えると157人も残っているあの饅頭のほうが理性的なのかもしれない。

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