第8話 なんで給料を払わないといかんのだ?
転送、いや複製された先は『いかにも未来』って感じだった25世紀に予想された未来都市の姿より23世紀に空想された荒唐無稽なビル群の姿に近いだろうか?
子供の時には『ダセェ』と思ったが、実際に目の前に作られると結構 感動的な感じがする。
まあ、そのビルの中に『ングリア』とかいうビリケンみたいな像が所狭しと設置されている点を除けば、だが。
物理法則を無視したかのように90度直角に伸びる500m続くビル通路に押し詰められた宝石像が設置された姿は異様である。
「ここはングリア像を設置・鑑賞するために作られた通路です」
と案内役のフンババが言う。
馬っ鹿じゃねえの?
構造強度がどうなってるのか分からない異次元の建築技術を使って作ったのが像の展示とか技術の無駄遣いも良いところである。
そんな事を考えていると、通路が勝手に動き出し、奥の部屋へと運ばれる。
送られた先には、非常に肥満した物体が安置されていた。
昔、『ファットマン』というゲームがあったのだが、それよりも太っている。のっぺりした潰れまんじゅうのような生き物が偉そうに座っている。
「やあ、君が古代から復元された『サル』という生物かね?」
と目の前の饅頭は失礼な口調で言った。
「いや、俺は人だ。サルならしっぽが生えているんでな」
「なるほど、そういう区別の仕方があるのか」
と感心したように言う。
「さて、君との対話を特別に許可した理由はたった一つだ。君たちの居た星ではどのような人間がトップに立っていた?」
「それを聞いてどうするんだ?」
「今回の件のように、規則違反をする奴らを生みださないためだよ。我々のように文明が進んでしまうと残酷な刑罰や過酷な管理体制と言うのが思いつかなくてね。野蛮な民族の方が暴力と脅迫で従わせる方法には長けていると思ったのだよ」
という。なるほど。どうやらこの饅頭は喧嘩を売っているらしい。
「そうだな、ウチのトップは金に汚くて、自分だけ富みをたくわえるようなクソ野郎だったから、株とか宝くじなんてのを進めていたな」
そういって、インサイダー当たり前の株式や身内にしか当選させない宝くじなどの悪辣な手法を教えた。特に内部リークで株価の変動を知るのはアメリカ大統領から続く伝統的な不正で、貧乏人の納税とまで言われる程金持ちしか勝てないシステムになっていた。
だが、それを聞いた饅頭は
「つまり、その株と言うのは領民たちにばらまいた金を合法的に巻き上げる手段というわけか」と言った。
「まあ、そうなるな」
そう返答すると饅頭は深いため息をついて
「やっぱり下等な古代人の社会は理解ができんな」と呆れたように言った。
そうだよな。あの銭ゲバ政治家たちは、こいつらから見ても酷いよな
そう一人納得していると
「なんで給料なんてものを払わないといかんのだ?」
と目の前のプライドだけ高くておつむは空っぽな潰れ腐れ饅頭が言った。
そっちかー。
予想のかなり下の回答に対して俺は
「労働には対価を出さないと、働いてるやつらのやる気が出ないだろ?一生同じ作業。一生同じ食事。それじゃ何のために生きてきたのかわからねぇじゃねぇか。人生には夢とか希望が必要なんだよ。」
馬を動かしたいなら目の前にニンジンをぶら下げろ。ということわざの通りである。だが
「私はお前たちを製造し、仕事を与えてやっているのだぞ。それで十分ではないか
この世に生み出された事をなぜ感謝しない?」
素で言われた。そのあんまりにも理不尽な言葉にカチンと来て
「彼らは力仕事をわずかな不味い食事だけでさせられて、それでも文句一つも言わずにやってるじゃないか。お前は感謝こそすれ感謝される存在じゃねえよ」
そう言うと、饅頭はぽかんとした表情でこちらをみた。
まるで家の洗濯機や冷蔵庫が『働きに見合った給料をよこせ』と言い出したかのような表情だ。
「なんでワシがワシの所有物に給与を払って、感謝までしないといかんのだ?貴様、頭は大丈夫か?ワシがやつらを作ってやらなければ、この世に生まれることはなかったのだぞ?そんな簡単な事もわからんのか?」と一点の曇りもない目で言われた。
こんなバカが、あの広大な土地を持っているのか。つくづく世の中は不公平だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます