社畜生活脱出編

第6話 そこになければないですね

 30万年の時を経て蘇ったと思ったらすぐに消される事になった。

 なにを言われているかわからないが、言っている方は納得しているらしい。


 少年マンガのラストで、封印を解かれて永い眠りから蘇った邪神が、目覚めて数分で封印される時ってこんな感じだろうか?


「オーケー。とりあえず事情を説明してもらおうか」

「ええ、実は私たちは労働を円滑に維持するために毎日2600kカロリーの鉱物が配給されるんです」

 一日働くのに不可欠な栄養量がこれにあたるらしい。

 へー。それと何の関係があるんだろう?

「実はあなたを復元するために使用した栄養素は、この配給の一部を集めて作ったんですね」

 俺を復活させたフンババは毎日100kカロリーだけ配給を保管して保存し、復元の趣味を楽しんでいたのだそうだ。

 ちなみに人間の成人男性は約8万1500kカロリー。

 2年ちょっと分の配給を使って作られたらしい。

「ところが、それが目的外の使用、横領に当たると言うことで本星の惑星所有者たちの間で問題になったんだそうです」

 会社の出張でビジネスホテルに泊まった際にクオカード付きのプランを使ったようなプチ横領みたいな感じか?

 というか配給をごまかさずに給料を使えば良かったんじゃないか?


「…


 ………………………………はい?



 給料を知らない?冗談だよな。あ、そうか該当する言葉がないんだな。だったら言い方を変えよう。


「じゃ、じゃあ、労働への対価はどうなっている?資源を掘り起こすって事はかなり危険で過酷な労働だろう。けっこう給料もらってるんじゃないか?」

 経済安定政策で、他の国が時給50万ドルとか900万元とか払われている中、時給900円という超低額賃金の日本だって肉体労働なら1万円払うのが相場だった。(某地方は8千円だったが)

 それくらい雨や雪の日でも働かないとならない肉体系労働は報酬が高い。だが

「私たちは、資源を発掘する仕事のために働いているんです。創造主のために働いているのですから対価を要求するなんて恥ずかしい事ですよ」


 洗脳されてるー!!!!


 どこかの宗教団体みたいなセリフに戦慄する俺。

 これが「自分は仕事に人生をささげた」とかいういけ好かない意識高い系(w)のような理由ならまだ納得できる。

 だが、会話を進めていくと、これはどう考えてもルンバみたいな「働くために生み出された家電」のような思考の感じがした。


 そんな感想を伝えると「失礼な」と言われた。

そうだよな。ちょっと言い過ぎ「我々を、そんな単一機能しかない道具と一緒にしないでください。もっと優秀に低燃費で働けますよ」

 え?怒るとこ、そこ?


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 話を要約すると、与えられた資源を私的流用したと言う事で俺たちは存在を抹消され、別のフンババに作り替えられるらしい。


「とまあ、本星から処分が下されたので、私とあなたは消えることになりました。短い間でしたが楽しかったです」

 と出会って数時間で永遠のお別れ宣言をされた。

「おいおい、消えるって。死ぬって事だろ?怖くないのか」

 一度死んだ俺が言うのも変だが死んだら終わりなんだぞ。


「?命なんて


 何言ってんだコイツ。みたいな顔で言われた!

 簡単に命を作れる世界だと、こんなインスタントに生物って生まれたり消えたりするって感覚なんだな。

 人権活動家がみたら発狂しそうだ。


 ってそうじゃないよ。

「作りなおしても、それは別の生き物でお前さんじゃないだろ?生きてるのは今、お前さん自身であって、作られたのは別物だろ。消えるのは怖くないのかよ!何か残したいとか、やりたかった事とかよぉ」


「そこになければないですね」


 スーパーの店員みたいな事言ってんじゃねぇ。

 諦めんなよ。

 だいたい、給料も払わなければ簡単に命を奪う。そんなクレイジーな命令を出してる野郎はどんな思考をしてるんだ。一度、文句を言ってやりたい。

 火星北九州の方言で言えば「きさん、ちょっとツラ貸さんね?」と言いたい。

「だったら、お会いになりますか?」

 フンババが提案する。


 え。簡単に会えるの?


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