第4話 初戦闘 白き狼と目覚める才能
白いコボルトが、身を屈めてから突っ込んでくる。
速い…!
さっきの黒い熊より断然速い。
突っ込んできた勢いをそのままに、片腕を横なぎに振ってきた。
刀みたいに鋭い爪が俺に迫る。
それをギリギリで身を捻って、振ってきた腕側へと躱す。
やば…!クズ鉄の剣でまともに受けたりしたら、剣ごと引き裂かれそうだ。
攻撃を躱しながら、腕を振ったことで空いた横腹に剣で斬りつけた。
ほんの少し、赤い血のようなエフェクトが出たけど大してダメージは無さそうだ。
白コボルトが横なぎに振った腕を、今度は裏拳のようにして戻してきた。その裏拳を側転するような感じで躱して距離を取る。
体がリアルより思い通りに動くおかげで、なんとか攻撃は躱せた。ステータスの敏捷が、他の数値に比べて少し高いからかもしれない。
「グルル…」
白コボルトがこちらに振り返り、お前やるな…とでも言ってそうな雰囲気で唸った。
「ははっ、どーも…」
かなり動きが速いけど、今のところなんとか付いていけてる。ただ、こちらの攻撃がショボすぎるな…。
あ、そうだ。さっき覚えた技があったんだ。
あれを使ってみるか!
「今度はこっちからいかせてもらおうかっ!」
白コボルトに向けて走って突っ込む。こちらに対応しようとして繰り出されたあちらのパンチを、手前でフェイントを入れることで空振りさせ、胸元に剣を当てる。
「《連撃》!」
剣が当たった辺りで、5連続の衝撃波が発生した。
「グラァァ!?」
胸元に少し傷が付き、さっきよりは多い血のエフェクトが出る。
おお、割と効いたな!連撃、使えるじゃん。
「よし!もう
技を使おうとしたら、カウントダウンが出てきて技が発動しない。
「え!?そういう感じ!?」
こちらが戸惑っている隙を、白コボルトが見逃しはしなかった。素早い動きで態勢を整え、攻撃してくる。
「わっ、ちょ、ちょっと待て!ゲーム初心者なんだよっ、技のシステムとか知らなくてっ…!」
うん、向こうにこちらの事情なんて関係ないよねっ!
白コボルトの体がモヤのようなものに包まれたと思ったら、一瞬で姿が消えて俺の背後に現れた。
これは…!
向こうも何か技を使ったのかっ!
背後から高速のアッパーが繰り出された。
それを前に倒れ込むようにして避けようとするが、避けきれずに背中を切り裂かれる。
大量の血のエフェクトを撒き散らしながら、俺は吹っ飛ばされた。
《ネロの体力が0になりました。戦女神ネヴァリアの加護の効果で復活します。残り復活数は2回です》
吹っ飛ばされた先で倒れていると、加護が発動したようで体力が全回復する。
なるほど、本当に復活できるようだ。
しかしあいつ瞬間移動を使えるのか…。厄介だなあ。
「グルル?」
倒したはずの俺が復活したことで、白コボルトが驚いてる。
「いや、悪いね。何回か復活できるんだよ」
あと復活した後は、ステータスの攻撃と魔法の値が高くなる効果があったはず。
パッとステータスを確認すると攻撃と魔法の数値が倍に増えていた。
よし、これで少しは攻撃も効きやすくなるかな?
「もう油断しないわ。第2ラウンドといこうぜ」
*
1回俺が復活してからは、しばらく拮抗状態が続いた。俺の連撃を奴は警戒しているし、俺も白コボルトの瞬間移動みたいな技を警戒して、発動されてもなんとか対処ができている。
だが時が経つにつれて、だんだん拮抗状態が崩れてきた。
徐々に、"俺が"優勢になってきたのだ。
なぜか知らないが、隙を見てステータスを確認すると、攻撃と敏捷の値が上がっていた。
ゲームって本人のレベルが上がらないと、ステータスとかも上がらないものじゃないのかな?
一応レベルも見たが、俺はLv:1のままで変わっていない。
ふむ。シトラスさんが草原でレベルアップをしないで大森林に行けと言ったのは、これが理由なのかな?
まあなんにせよ、少し勝機が見えてきた。
「グラアアアアーーー!!!」
だいぶ傷を負わせてきたなと思っていたら、白コボルトが凄まじい咆哮をあげた。咆哮が音の衝撃波となって俺を吹き飛ばす。衝撃波だけで体力が3割くらい減った。
「おおっと!うわ、なにあれ…。追い詰められて覚醒した、みたいな…?」
咆哮をあげた後、奴の体から銀色の光が立ち昇る。銀の光は体の周りを渦巻きだして、爪の上からは青いブレードみたいなものが出てきた。
「マジかよ、めっちゃ強くなってそうじゃん…」
「グラアァァッ!!」
いくぞっ!とでも言ってそうな感じで白コボルトが脚を踏み込む。地面に亀裂が入り、銀色の光の残滓が散って、奴が消えた。
いや、速すぎて消えたように見えたのだ。
「うおぉっ!?」
咄嗟に勘が働いて、剣を横に振るう。
バキイィンン!という音がしてクズ鉄の剣が切り裂かれ、そのまま俺も切り裂いて吹き飛ばされた。
《ネロの体力が0になりました。戦女神ネヴァリアの加護の効果で復活します。残り復活回数は1回です》
仰向けに倒れながら考える。
やばい、これはやばい。
勝機が見えてきたと思ったけど、あっという間に無くなったわ。
女神様の加護のおかげで復活はしたが、これは勝てるか?さっきまでの白コボルトの動きと全然違う。
しかもクズ鉄の剣が折れた。いや、むしろクズ鉄ってぐらいだし、よく保った方なのかも。
「さあて、どうするか…。とりあえず身一つで戦うしかないか」
起き上がり、折れた剣を捨てて拳を構える。
驚くことに奴は俺が起き上がって態勢を整えるまで待っていた。
「お前、良い奴だな。正々堂々戦うって感じ?カッコイイじゃん」
「グルルル…」
準備はできたか?って言ってそう。言葉は通じてないけど、意思が通じ合っている気がする。
「おう、いつでもいいぞ。かかってこい!」
「グラァアアアアッ!!」
銀の光が強く輝き、奴が再び大きく踏み込んだ。
落ち着け俺…よく見るんだ、白コボルトの動きを。
意識を極限まで集中させる。
少しだけ、周囲の全ての速度が遅くなったようにも感じた。
草と地面を踏みしめ、凄まじい速度で近づいてきたコボルトの、振るう爪の軌道がかろうじてだが今度は見えた。
本当にギリギリの所で爪を避け、拳をコボルトの腹に当てる。
「《連撃》」
白コボルトの腹に5発の衝撃が起こった。今日一番の威力だった気がする。
あ、そうか復活するたびに攻撃の値が増すんだった。
「ゴフウゥッ!」
白コボルトが、口から赤いエフェクトを吐き出しながら吹き飛ぶ。
《超格上との戦闘で、一定以上の素手でのダメージが発生したため、【体術】の技能を入手しました》
《超格上の"特殊モンスター"との戦闘で、一定以上の素手でのダメージが発生したため、【崩拳】の技を入手しました》
技能【体術Lv:1】
己の肉体か、籠手を装備した攻撃で与えるダメージが+50%上昇する。
技【崩拳】
再使用時間が長い代わりに、超高威力の打撃を放つ。素手、籠手装備の時しか使えない。
おお!なんか技能と技が入手できたぞ!
しかも技が結構強そうだ。
失いかけてた勝機が、また見えてきたかも…!
「グフッ、グルァアアアア!!」
吹き飛ばされた先で、口元を拭った白コボルトが咆哮をあげた。
片腕の爪先から、青い燐光が出てきてドリルの様に回転しながら爪を覆う。その状態で、腕を突き出してこちらに突っ込んできた。
なんだよそれ!今度は必殺技かっ!?
「上等っ、今ゲットした技で迎え撃つ!《崩拳》!」
青い燐光を放つ白コボルトの爪と、俺の突き出した右拳が激しくぶつかり合う。
特大の衝撃波がぶつかった爪と拳の間で起きて、白コボルトの爪が砕け散る。
そして俺の右腕の、肘から先が光のエフェクトとなって失くなった。
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