第3話 精霊のイタズラ

 シトラスさんに教えてもらった武器屋で、剣術の技能に合わせて「クズ鉄の剣」を3千Gで購入した。

 


武器:剣【クズ鉄の剣】

攻撃+10%



 まさかクズ鉄以上の物になると、所持金を超えるとは思わなかった。どうやら最初は皆クズ鉄シリーズで頑張るらしい。

 

 そのようなことを、武器屋のおじちゃん店主が色々と教えてくれた。

 特に、武器を使わない時はステータス画面にある所持品の欄にしまっておけるという情報を聞けたのはありがたい。

 ちなみにおじちゃんは|NPC(ノンプレイヤーキャラ)だったんだけど、接してみて分かった。あれは本当に一人の人間だ。

 「ゲーム世界の住人は人工知能を搭載しているただのデータの塊だ」と言う人もいるらしいけど、俺はそうは思わない。

 

 親切に色々教えてくれたおじちゃんに、しっかりお礼を言って武器屋を出る。


「さて、武器も買ったし街の外へ出るか」


 街は結構な広さがある。草原に出る前に街で迷うかとも思ったけど、街の外に出るための門が大きくて目立つためそれを目標にしたら迷わず街の外へ出ることができた。

 門番の人に見送られながら、草原に立つ。

 

 ここに飛んで来たときにも思ったけど、広い草原だよなあ!


 色々な生物も居たので草原を見て周りたい気持ちもあるけど、今回の目的は大森林の方だから、また今度だな。


 シトラスさんのアドバイス通り、街を出て左を向くと遠目に木々が見えた。そこそこ距離があるな。


「よし、行くか!」


 クズ鉄の剣をステータスの所持品の欄から取り出し、手に持って歩きだす。


 大森林を目指す途中で何度か、体長2〜3メートルくらいの羊みたいな生物の群れを見かけた。羊の頭には頑丈そうな巻き角が4本生えている。


 近くを通るとこっちを見てくるが、こちらが何もしなければ草をムシャムシャと食べはじめる。


 遠くの方では他のプレイヤー達が、別の羊の群れと戦っている姿が見えた。


 なるほど、この羊で皆んな最初にレベル上げをするってわけか。


 あ、羊に吹き飛ばされた1人のプレイヤーが、光のエフェクトとなって消えていった。

 羊、結構強いやん…。レベル上げも大変だな。


 15分くらい歩いて、大森林の前にたどり着く。


 このゲーム、基本的に色々なものがデカいけど、この木々はまたデカいなあ…。

 首を直角に上にして、かろうじて木の天辺が見える感じだ。

 太さは、これ何十メートルあるんだろうか…?

 世界樹程ではないけど、それでもとてつもなく太い幹をしている。

 森林の地面なんか、木々の根っこで凹凸ができて、すごいことになっているな。


 さて、シトラスさんがなんでここに行くことをオススメしたのか確かめるとしますか。


「と、その前に…」


 俺はコロンから貰った封印石を取り出した。


 これはを使ってみようかな!なにか戦闘に役立つものが出るかもしれないし!


 封印石を手に持つと、『使用しますか? YES/NO』と出たので、YESをタップする。


 手に持つ封印石がひび割れて、割れた部分から煙が出てきた。



技能【精霊のイタズラ】を取得。

たまに精霊が現れて、イタズラをしてくる。ある意味で精霊に好かれてるとも言える。



「……………」


 いや、これ技能っていうの?イタズラされる技能って…。


 まあ、出てしまったものはしょうがない!

 気を取り直してもう1つ封印石を使用する。



技【連撃】を取得。

一度の攻撃に、複数の高威力な追加攻撃が発生する。装備する武器によって追加攻撃の形が変わる。素手でも使用可能。



「お!今度はちょっと良さそうなのが出てきたぞ!」


 よしよし、最後の封印石も良い物が出るといいなあ。

 最後の封印石に念をかけ、使用のYESをタップする。

 封印石が割れた途端、いままでにない虹色の光が石から溢れ出した。



加護【戦女神ネヴァリアの加護】を取得

狂乱と恐怖を振り撒く戦の女神。自分の加護を持つ者に対しての愛が歪んでいる。非常に嫉妬深い。

・体力−50%

・防御−50%

・あらゆる状態異常、ステータス低下に対して完全耐性を得る。

・体力が無くなった時に3回まで、体力を全回復して復活し、復活するたびに攻撃と魔法の値が+100%ずつ強化されていく。復活効果は全て使いきった後、3時間経過すると再び使用できる。



「うわ!なんかすごいのが出た!お、おお、本当に体力とかが半分になってる…。加護なのに、マイナスの効果があるってどうなんだろ…?」


 でも加護は出たら当たりだと、シトラスが言ってたような気がする。

 説明文の最初がちょっとヤバい女神様の加護だけど。

 女神様のイメージが崩れたよ。


「封印石も使いきったし、行くか!」


 気持ちを引き締めて、巨大な木が立ち並ぶ大森林へと入っていく。


 大森林は、地面から露出した木々の根っこだけでも高さ数メートルはあったりして中々進むのが大変そうだ。


 なんて思っていたが、ゲーム補正なのかリアルの時よりかなり体が軽い。ひょいひょいと根っこを乗り越えて進んでいけた。


 進んでいくとたまに薄らと光る植物があったりする。そういう植物は手に取ると、アイテムとして入手できるシステムみたいだ。薬草などが手に入った。


 あと、歩きながらシトラスさんから貰ったアイテム袋の中身を確認していく。

 袋の中には体力が減った時に使う回復薬とか、状態異常になった時に使う万能薬など様々なアイテムが入っていた。

 すごいな、これをタダでくれるって相当太っ腹じゃないか?

 ただ、万能薬に関しては先程手に入れたネヴァリアの加護で必要無くなっちゃったけど…。


 大森林に入ってから少し経ち、遠目に二足歩行の狼のような生物を見つけた。灰色の体毛に、背丈が俺より少し高い。筋肉がかなり発達していて指には長さ20センチくらいの爪が生えている。


 シトラスさんに貰ったアイテムの中に、簡易鑑定スコープというアイテムがあったので、そのスコープを狼に使ってみた。


 スコープで見ると、コバルトという文字が見える。

 基本的に集団で行動するとのこと。確かに何匹かいるな。


「1匹1匹が結構強そうだなあ。迂回して進むか…?」


 俺が迂回しようか考えていた時、コボルト達のさらに奥から巨大な黒い熊が現れて、コボルト達の集団に向かって走って突っ込んでいった。何匹かのコボルトが吹き飛ばされていく。

 突然目の前で、黒い熊とコボルト達との戦いがはじまった。


「なんだあいつは…!」


 黒い熊にも簡易鑑定スコープを使ってみる。

 熊の名はメラスアルクダ、特定範囲を縄張りにして範囲内に入った者は何者だろうと襲いかかるモンスターのようだ。


「うわ!あの熊めちゃくちゃ強いな!コボルト達が一方的にやられてる…」


 目線の先では熊による蹂躙が起きていた。

 その様子を見ていたら、熊と目があってしまった。


 黒い熊が俺を見てピタッと動きを止めた。


「あれ、あちらさんめっちゃこっちを見てね…?」


「グオオオオオオッ!!」


 熊が残っていたコボルト達をあっという間に蹴散らし、俺の方を向いた。


「おおお!?ここはっ、逃げるっ!」


 俺が熊に背を向けて走り出すと、熊がまた咆哮を上げて追いかけてきた。


 熊速いなっ!

 すぐに追いつかれそうだ!


 後ろを気にしながら全力で走っていると、今度は俺の周囲に突然小さい光が現れた。

 

「え!?今度はなに!?、ん?小さな女の子?」


 光をよく見ると、背中に羽をもつ小さな女の子だった。御伽に出てくる妖精みたいな姿をしている。

 女の子は俺の周りを飛びまわり、あっちあっちと小さな指で方向を示す。どうやら俺にその方向に行ってほしいらしい。

 ええ…?もう、わけわかんないよ。


 悪意はなさそう?だし、追ってくる熊から助けてくれようとしてるのかもしれない。

 深く考えてる余裕もないので、とりあえず妖精の子が案内する方へ走ってついて行ってみる。


 こっちこっち、としばらく妖精の子に案内された先には、そこだけ木々が生えてない拓けた場所があった。

 地面には小さな植物が生えていて、緑の絨毯のようになっている。

 所々に紫色に輝く花があって神秘的な光景だった。


 気づけばいつの間にか、追ってきていた熊がいなくなっていて、ここまで案内してくれた妖精の子も消えている。

 

『技能【精霊のイタズラ】により、精霊にイタズラをされました』


「はい…?」


 えーと、ちょっと待て。

 ここに案内してたのは精霊で、俺の技能の効果だったってこと…?


「……え!マジで!?さっきの案内はイタズラだったの!?」


 でも熊からは逃げられたし、むしろ助かった?


 そう思っていたら、向こう側の木々の方から緑の絨毯を踏みしめて何かがこちらに歩いてきた。


 白い、コボルト…?


 さっき見たコボルトとは体毛の色が違う。毛の長さもこちらの方が若干長く、胸元が特に長かった。

 筋肉質ではあるけれど、全体的にシュっとしてスマートな体付きに、手にある爪はまるで刀のように研ぎ澄まされている。


《特定のフィールドに入ったことで、特殊クエスト【強者を求めし白き戦士】が開始されました。クエスト終了までフィールドから出られなくなります》


「なんですと…?」


 突然クエストなるものがはじまった。


 いや、これが精霊のイタズラによって起きたことなのか!


「グルルルル……!」


 白いコボルトがこちらを睨みながら、明らかに臨戦態勢に入っている。

 

「一難さって、また一難か〜…。まあ、今度は逃げられないみたいだし、やるしかないかな」


 まあゲームをやっていれば、いずれは何かしらと戦うことになるんだ。さっきの熊よりはマシな気がするし、腹を括ろう。


 唸る白いコボルトに睨み返して、言ってやる。


「よーし、相手になってやるよ!かかってこい!」

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