第2話 はじまりの街エリュシオン
あれが世界樹か…!
エレモスの宣伝動画とかでその存在は知っていたけど、実際に見るのとでは迫力が全然違う。
世界樹までもの凄い距離がありそうなのに、それでもなおその巨大さが窺える。
「さあネロさん、冒険に旅立つ準備はいいですか?」
「ああ、コロン…!いますっごくワクワクしているよ!」
「うふふっ、ネロさんの冒険生活が輝かしいものになることをボクは祈ってますよ!では、またどこかでお会いしましょう〜♪」
「ありがとうコロン!またどこかで会えるのを楽しみにしてるよ」
「はい♪では、いってらっしゃーい!」
コロンが手を振ると俺の体が白い光に包まれた。
ス〜ッと体が浮きあがり、開け放たれたテラスの方へと向かいはじめる。
おお、どうやって世界樹まで行くのかと思っていたけど、まさかの飛んでいくパターンか!
体がテラスを越えた辺りでコロンの方を振り返った。笑顔で手を振るコロンがいたので俺も手を振り返す。
振り返ったときに自分がどこに居たのかが分かった。どうやら俺は、丘の上に立つ屋敷に居たようだ。
再び前を向くと、急に飛ぶ速度が加速した。
体が澄んだ空気を突き抜けていく。
「おあああぁぁぁ、すごおおおおおおぉぉぉぉ」
眼下には青々と輝く広大な草原と、様々なモンスターの姿などが見える。
時折、プレイヤーであろう人達も見かけた。
上空を飛ぶ俺を見つけて手を振ってくる人もいる。
俺の体を包んでいる光が強く煌めき、更に飛ぶ速度が加速した。
徐々に世界樹が近づいてきて、その巨大さが更に増す。
本当に大きいな、世界樹パナギア…!
ふと遠くの方で様々な方向から、俺と同じように光に包まれた人達が世界樹に向けて飛んでくるのが見えた。
「コロンのところ以外でもキャラクター制作をした人達がいるのか」
世界樹の近くまで来たとき、根本付近の一箇所に大きな壁に囲まれた巨大な街があることに気がついた。体が、その街の方へと向かって行く。
「あの街が目的地か、少しずつ飛ぶ速度が落ちてきてる」
街には中心部に大きな広場があり、広場の真ん中に高さ30メートルくらいはありそうな水晶が鎮座していた。
その水晶の前に俺は降り立つ。
俺を包んでいた光が、シャボン玉のようになって消えていった。
「はあ…、すごい空の旅だった」
広場に鎮座する巨大な水晶を、ぼ〜っと見上げていたら突然横から声をかけられる。
「そこのお兄さん、エリュシオンの街へようこそ〜!その水晶、大きくてビックリしますよね〜!」
「え…?」
俺のことだよね?
声の方を見ると、栗色のショートカットに糸目が特徴的な女性が立っていた。白地に金の刺繍が所々にある高級そうなローブを身につけている。
頭上には「シトラス」という文字があった。
「どうも、ええっと、シトラスさん…?、ここ、エリュシオンっていうんですね…」
「そうです!私達は『はじまりの街』とも言ってますけどね!ネロさんですね、よろしくお願いします〜
!」
シトラスさんがにんまり笑いながら、手をひらひら振る。
なんか、怪しい人だなあ。
「シトラスさん、はプレイヤーですか。なるほど、キャラ名が見えるの人がプレイヤー、そうじゃない人がNPCって感じかな…?」
周りを見ると、頭上にキャラ名が見える人達と、キャラ名が見えない人達が歩いている。
「お!察しがいいですね〜。そういうことです!あと、いま私のこと怪しいやつだな〜って思ったでしょ〜?」
お、察しがいいですね〜。正解。その通りです。
「もうっ!新規プレイヤーであるネロさんに、親切にアドバイスをしようとするただの優しいお姉さんですよ〜?ネロさん、右も左も分からない今、アドバイスを聞きたいですよね?ですよね!?」
シトラスさんがずずい!と俺に近寄ってくる。
「あはは…、そんな押し売りみたいに来なければもう少し信じられるんですけど…。で、アドバイスの代わりにお金でも要求されるんですか?本当にたった今ゲームをはじめたばかりなので、所持品とか無いですよ」
手を広げて何も持ってませんアピールをする。
「ちがいますよ〜!そんなの求めません!私、これでも"大富豪"の称号持ちなんですからね!お金に困ってはおりませんので!えっへん!」
シトラスさんが得意げに、腰に手を当てて胸を張る。
へえ、称号っていうシステムもあるのか。大富豪っていうのが本当ならば、シトラスさんって結構すごい人なのかな?
「あと所持品なら持ってますよ!ステータスオープンって、唱えてみてください♪」
「すてーたす、おーぷん…?」
「はい♪そうです!さあ、唱えて唱えて〜!せーの、」
シトラスさんの勢いに流され、つい唱えてしまう。
「ステータスオープン…」
ピコンっ、という音と共に俺の前に画面が出てきた。
ネロ
種族:怪魔人族
Lv:1
メインジョブ:【戦士】ランク1(初級)
体力 100
魔力 100
攻撃 5
防御 5
魔法 5
敏捷 5(+10)
幸運 5
技能
【剣術Lv:1】【鍛治Lv:1】【錬金術Lv:1】
特殊技能
【超速反応】
※メールが届いてます。差出人:コロン
わ、なんか色々な数値とかの画面が出てきた。
なるほど、これが俺のステータスってわけか。敏捷の値だけ他の数値の倍もある。超速反応の効果が出てるな。
「ん?なんかコロンからメールが届いてる?」
「ネロさんの案内係はコロンちゃんでしたか!そのコロンちゃんからのメールに、お金と貴重なアイテムが付いてるはずなので、メールの文字を指でタップしてみてください!」
「このメールに…?」
言われた通りに、コロンからのメールを指でタップしてみる。ピコンっ、とメールの文が空中に現れた。
『ネロさんへ!
無事世界樹パナギアにある街には着きましたか?
着きましたら、そこから先の行動は全て自由です!
ただし!犯罪行為とみなされる行いをすると罪の値が貯まっていきます!その状態で死亡すると、貯まっている罪のアタイによって多大なペナルティがあるのでお気をつけて!
ボクからネロさんに、旅立ちの応援として1万Gと、貴重なアイテム"封印石"を3つ送りますね!
このメールを開くと所持品に自動的に入ります!
ステータスの所持品の欄から見れますよ♪
では、冒険を楽しんでくださいね♪
コロンより』
「なんか封印石っていう謎のアイテムを貰ったんですけど、これはなんですか?」
「その封印石はですね〜!使用すると、技や魔法に技能とか武器、防具、運が良ければ"加護"なども手に入る、ビックリアイテムです!当たり外れはありますけど、エレモスの最初のお楽しみ要素ですね!中々手に入らない貴重なアイテムなんですよ〜」
「へー、クジ引きみたいなものですね?とりあえずこれは、後で使ってみよう。それで、シトラスさんのアドバイスってなんですか…?」
「お!聞く気になってくれましたね〜♪ではでは、アドバイス致しましょう〜!いいですか〜ネロさん!この街に着くと本来なら新規プレイヤーさんは草原に出て、まずは自分のレベル上げをするのが鉄板なんですが…」
シトラスさんが草原の方を指さした。
「しかーし!ネロさんにはそれをしないで、街を出て左方向にあります、"大森林"に向かうことをオススメします!あくまで、オススメです!アドバイスを実行するかどうかはネロさん次第ですから、自由に行動してくださいね!アドバイスは以上です♪」
シトラスさんがニコッと笑って話を終えた。
「な、なるほど?ええーと、どうしてか理由は聞けないんですか?」
シトラスさんが笑顔のまま、首を縦にこくこく振る。
行けば分かるってことなのかな…?
「まあ、今日はお試しみたいなものだからいいか…。わかりました。大森林ってところに行ってみます。それで、なんで新規プレイヤーは他にもいるのにシトラスさんは俺にだけ声をかけたんですか?」
そう、今も新規プレイヤー達がちょいちょい水晶の前に降り立っている。その中からわざわざ俺に声をかけたのは気になっていた。
「まあ、そうなりますよね〜。実は私、鑑定という技能を極めてるんですよ!で、ネロさん、特殊技能を持ってますよね?なんの特殊技能までかは見えてないんですけど、特殊技能ってかなりレアでしてね。それに私の勘がビビビ!っと反応したんですよ!なので、将来有望そうな新人さんと早めに仲良くなっておこうかなーって思いまして〜!」
シトラスさんが、あはは〜!っと笑った。
なるほど、そういうことか。
鑑定技能持ちは他プレイヤーの技能とかまで見れるのか。
「あ!安心してくださいね!鑑定妨害って技能もエレモスにはありますから!普通に取得するか、装備とかで妨害機能が付いてるものが割とあるので、後々それを手に入れるのもオススメですよ!」
「鑑定対策もできるんですね。ところで技能ってどうやって手に入れるんですか?」
「技能は専門店があって、そこで書物みたいになって売っていますよ!結構お高いですけどね!あとは特定条件で覚えたりもできます!条件などはネットのゲーム攻略板などに載っていたりもしますので見てみるといいですよ!」
技能って専門店とかあるのか!
どんな技能が売ってるのかちょっと気になるな…。今度見に行ってみるか。
「なるほど、ありがとうございます。じゃあ、せっかくアドバイスして貰ったので、とりあえずは言われた通り大森林に向かってみます」
「ええ、ぜひそうしてみてください!あっ、ネロさん、冒険の前に武器を手に入れないと!初心者用の武器も扱うお店がすぐそこにあるので、そこで武器を購入するといいですよ!それとこれ応援ってことでいくつか便利なアイテムをプレゼントです!」
はい、どーぞ♪、と言ってシトラスさんが小さい袋を渡してきた。
「その袋、小さいですが中には色々なアイテムが入ってますから!ちなみにステータス画面の所持品って所にもアイテムはいくつか収納できるので、その袋と合わせて使うと良いですよ〜!」
「え!アイテムに、そんな便利な袋まで貰っていいんですか?」
「いいんですよ〜♪言ったでしょう?親切なお姉さんですよ〜って!」
「あはは、確かに親切なお姉さんでしたね。ありがとうございます!助かります。あと武器は確かにあった方がいいですね。武器屋に寄ってから行ってきます」
「ええ!準備をして、未知がいっぱいの冒険を楽しんできてください♪いってらっしゃーい!」
シトラスさん、最初は怪しい人かと思ったけど、普通に良い人だったな。
手を振るシトラスさんと別れて、俺は言われた武器屋を目指して歩きだした。
「うふふっ…。さて、ネロさんは私の期待に応えてくれるでしょうか…?」
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