エレフセリアコズモス 〜最弱が魅せる最強のプレイ動画〜

シェル・ティー

第1話 いざ!ファンタジー空間へ!

 今から1年前、世界で初となるフルダイブ型VRMMORPG「エレフセリアコズモス」が、全世界で一斉に発売された。


 開発会社が事前に配信していた、通称「エレモス」のプレイ動画は瞬く間に話題を呼び、世界中が大注目する中で迎えた販売初日。とんでもない倍率の予約抽選を勝ち抜いてプレイを開始したプレイヤー第一陣は、そこで予想を遥かに上回るファンタジー空間を見せつけられる。


 まずプレイヤー達が目にしたのは地球の表面積並みの広さがあるという超広大なフィールドに、圧倒される自然環境と、そこで息づく多種多様なモンスター達の姿だった。

 そして目を奪われる光景から我に返ったとき、普段感じている五感がちゃんと機能していることに続いて驚く。

 さらに街に行けば、ゲーム世界の住人が明確な自我を持ち交流できることに驚愕した。


 次にプレイヤー達は、プレイの自由度に心を奪われる。

 エレモスではフィールドへ冒険に出掛けることから、鍛治、錬金、栽培、裁縫、料理、釣り、街での出店などなんでもできた。

 ちなみに御伽話に出てくるような多様な種族と交流をして、ゲーム世界の住人と結婚までできるらしい。


 モンスターとの戦闘ではカッコいい魔法も使えて、街での生活でも火を起こしたり、水を出したりと魔法が普通にとけ込んでいる。そんな非日常のファンタジー空間は、世界中のプレイヤー達をあっという間に魅了した。


 連日様々な系統のプレイ動画がネット上に配信され、遂にはニュース番組でエレモスの配信コーナーをやるほどの社会現象にまでなってしまった。


 世界中でエレモスの人気はとどまることを知らず、発売してから1年経った今でも需要と供給はまったく追いついていない。

 日本でも予約の注文が殺到しては、毎回凄まじい倍率の抽選が行われて、ネット上が阿鼻叫喚のお祭り騒ぎになっている。


 そんななか高校1年の夏休み直前。近所の商店街で行われていたクジ引きで、特別賞に置かれていたエレモスを、俺が引き当ててしまった!


 いままでゲームはあまりやってこなかったんだけど、話題の"エレモス"となると流石に興味の度合いが違う。


 家に帰った俺は、ワクワクしながらさっそくエレモスをプレイしようとしていたのだった。





「えーと、電源を入れてっと…」


 エレモスのヘルメットのようなゲーム機を頭につけ、自室のベットに横になる。

 電源を入れるとゲーム機からキュイイインという起動音がした。


 あ、そうだ。

 親友達にエレモスが手に入ったことを伝えとくか。


 俺は携帯電話を操作して、連絡アプリから同じクラスの親友3人組のトークグループを開く。


 『俺もエレモス手に入ったよ。夏休みは廃人になるかも…笑』っと、これ見たら驚くかなあ。


 2人は半年前くらいにエレモスを手に入れていて、俺とも一緒にプレイしたい!とずっと言っていたからな。


 と思っていたらすぐに2人から返信がきた。なになに…。


『ウソだろ!?マジか!やったな行人!!』

『オー!これで行人も一緒にエレモスできるネ!』

『となりゃあ、序盤から最強の武器と防具を渡しにいくか!』

『あと装飾品とアイテムもネ』

『それにレベル上げか!』

『ワタシとタダノリいたら、序盤のモンスターなんて楽チンダヨ』

『行人はゲームとかあんまやってないから慣れてないもんな!俺とラオが全力でサポートしてやるぜっ!』


 そんな感じに、凄い勢いで2人がトークグループに投稿していく。はは、本当に良い友人達だ。

 でも…、だからこそ最初から頼りきりにはなりたくない。


『2人ともありがとうな。でも最初は自分の力でゲームに慣れてみるよ』

『最初から2人におんぶに抱っこは嫌だからね。俺も一緒にプレイできるのを目指して、早くゲームに慣れてくるわ!』

 

 と、こんな感じでいいかな。きっと2人なら気を悪くしたりしないだろう。

 案の定2人からは『だったらすぐに慣れてくるんだぞ!』とか、『困ったことあたら、すぐ相談するんダヨ?』と返信が来た。

 

「あはは、了解と…!」


 携帯を置いて部屋の壁掛け時計を見る。

 いまの時間は14時か、とりあえず4時間くらいプレイしてみようかな。


「よし、準備完了!スタートボタンを押してっ…!」

 

『ようこそ、エレフセリアコズモスへ。ゲームの世界にログインします』


 機械音声がして、見ていた景色がすぅーーと遠くなった。





 気がついたら目の前が、自室の天井からどこかの大広間のような場所に変わっていた。目線の少し先には、閉じている両開きの扉がある。


「あ、格好が変わってる…」


 格好がいつの間にか、麻布でできた服と半ズボンになっていた。足にはちょっとシワのある革靴を履いてる。


 自分の格好を見ていたら、前にある両開きの扉が重い音をたてて開いた。

 扉の向こうから、タキシードを着た二足歩行のぬいぐるみのような犬?が歩いてくる。


「へ…?ぬいぐるみ?」


 ぽかんと口を開けて惚けていたら、ぬいぐるみ犬が目の前まで来て胸に手をあててお辞儀した。


「ようこそ、エレフセリアコズモスへ!ボクはあなたのキャラクター制作をアシストします、コロンといいます!よろしくお願いします♪」


 コロンと名乗るぬいぐるみ犬が可愛らしい声で喋った。


「!?、あ、えっと、よろしく?すごい…、これがゲームの世界か…」


 コロンの見た目は1メートルくらいで、モフモフしてて抱き心地が良さそうだ。


「驚きました?ふふ〜!、あなたにはこれからもっとたくさんの驚きが待っていますよ♪さあ、まずはあなたのキャラクター名を決めましょう!」


 そう言うと、コロンがフワフワしている手を振った。

 ピコンっと目の前の空間に、宙に浮くキーボードが出現する。


 おお!魔法みたいだ!


「キャラクター名か、うーん…"ネロ"にしよう」


 キーボードを操作して「ネロ」とカタカナで入力する。


「ネロさん、いいキャラクター名ですね!」


「では次に、ネロさんのアバターを決めましょう」


 ピコンっと、今度は自分の体を編集できる画面が出てくる。あと注意事項も出てきた。



※注意事項: 種族を選ぶことで、特定パーツが付与される場合があります。特定パーツには"感覚"もあるためご注意ください。また、性別を変えることはできません。



「へー、種族に、身長や体型とかまで選べるんだ…」


 種族は、ファンタジー関連の定番であろうエルフやドワーフから、人族、獣人族、鬼人族や竜人族、機械人族など他にも様々な種族がある。

 また身長から体型、髪型髪色に瞳の色なども自由に変えられるようだ。


 せっかくゲームの世界にきたのだからと、種族をちょっと気になった"怪魔人族"というものにしてみる。

 画面をタップすると、俺の胸元が透けて、心臓の辺りに青白い火の玉が現れた。


 わお、なんだこれ面白い。種族はこれにしようかな。

 服を着てると透けた胸元が隠れるしね。

 上着があれば見た目は普通の人間にしか見えない。

 

 体型とかはそのままでいいか。


「アバターは決定でよろしいですか?」


「うん、これで決定で」


「はい、登録しました〜!では次に最初のジョブを選んでくださいね!」


「お!アールピージーゲームとかでよくある、ジョブ選択ってやつでしょ?知ってるぜ〜」


 俺、知ってるんですよドヤァ、という顔をしてコロンを見る。


「あはは!そうです!そのジョブ選択です♪」


 コロンに笑われた。


「ふふ…、えっとですね〜、ジョブはメインが1つ、サブに3つ就くことができます。メインとサブは入れ替えることも可能です。今はメインの1つを選んでもらいます!残りの3つは、ゲームを楽しみつつ自分に合ったジョブを見つけていってくださいね♪」


 へー、ジョブって4つも就けるんだ。本業と副業みたいな感じかな?


「ちなみに就いたばかりのジョブは、基本的に初級の等級となります。ジョブのランクを上げていくと等級が進化して、中級、上級、ものによっては特級にまで上がっていきますよ!」


「等級なんてあるのか。奥が深いなあ」


 俺の前に「選択可能なジョブ一覧」という画面が出てきた。


 ふむふむ、数がめちゃくちゃ多い…。

 色々と面白そうなジョブがあるけど、ゲーム自体が初心者の俺は、無難そうな【戦士】にしておこうかな。


「コロン、ジョブは【戦士】にするよ」


「かしこまりました〜、登録します!」


 コロンが指を振った。俺の頭の辺りから光のエフェクトが出てきて降りかかる。

 これでジョブが戦士になったのかな?


「それでは最後に、これからの冒険に備えて、技能を3つプレゼントしましょう!次の中から選んでください」


 技能?そんなシステムもあるのか。目の前にまた画面が現れたので目を通していく。



習得可能な初期技能


戦闘関連

【剣術】【槍術】【弓術】【斧術】【盾術】【体術】【火魔法】【水魔法】【風魔法】【土魔法】【光魔法】【闇魔法】【銃撃】【砲撃】【従魔術】【召喚術】


非戦闘関連

【生活魔法】【鍛治】【錬金術】【料理】【裁縫】【採取】【採掘】【鑑定】【探知】【調合】【栽培】



特殊技能

【超速反応】



 むむ、これはまた悩むなあ。

 ん?特殊技能って欄がある。


「コロン、特殊技能っていうのがあるんだけど、これはなにかな?」


「おや、ネロさんは適性持ちですね!特殊技能とは、"適性があるプレイヤーにのみ出現する"特別な技能のことです。かなりレアですよ!特殊技能に関してはすでに取得されていることになるので、3つの選択肢には入りません」

 

 そうなのか!レアもの…、ちょっと嬉しい。

 これ、説明とか出てこないのかな。

 超速反応の文字を指でタップしてみる。あ、出てきた。



特殊技能【超速反応】

動体視力、反射神経が非常に高い者に現れる特殊技能。

敏捷のステータス値が+200%上昇する。



 え?俺って反射神経とか良い方だったんだ…。

 自分のことって、意外と気づいてないこと多いもんだよね。

 なんて、自分について考えながらも技能の説明を見ていく。


「よし…!コロン、技能を3つ選んだよ」


 一通り目を通して考えた結果、俺が選んだものは【剣術】【鍛治】【錬金術】だった。



技能【剣術Lv:1】

剣を装備して戦うとき、剣で与えるダメージが+50%上昇する。



技能【鍛治Lv:1】

素材を2つ組み合わせて、武器、防具が作れる。



技能【錬金術Lv:1】

素材を2つ掛け合わせて、別の素材に作り変える。



 俺が選んだ技能をコロンが登録してくれる。


「はい!これでキャラクター制作は終了です!ではネロさん、後ろをご覧ください〜!」


「後ろ…?って、あれはっ!?」


 コロンに言われて後ろを振り返る。


 振り向いた先にはテラスがあり、そこから見える外の景色に驚愕した。


 テラスから、遥か彼方に悠然と聳え立つ超巨大な大樹が見える。

 大樹は葉の部分が青色に輝き、太く逞しい幹には翡翠の線が走り、まるで大樹の血管の様に脈動していた。


「うふふ〜!驚きますよね〜!あそこに見える大樹こそっ!精霊達の住処であり、この世界を神聖な魔力でもって支えている、世界樹"パナギア"です!そして、ネロさんの冒険がはじまる場所でもありますよ!」

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