第5話 戦いの行方

 肘からから先が失くなった自分の右腕を見て、思わず声が出る。


「うわ、グロい!痛みはそんなに感じないけど、骨とかまで再現してるから絵面が酷いな…」


 と、思っていたら千切れた腕の断面が急速に治っていくではないか。


「え…、どういうこと?」


 失くなってしまった肘から先は再生しなかったけど、なぜか傷口がキレイに塞がった。


 いまいちゲームの仕様が分からない。けど、千切れたままよりはありがたいな。

 ただ傷口は治ったけど、先程の激突で体力が半分近く減ってしまった。


 白コボルトの方を見る。あちらもだいぶダメージが大きそうだ。片腕の爪が全て砕けて、指なども折れている。


 むこうの傷は治る様子がない。

 プレイヤーの方は治る仕様なんだろうか?


 ん?待てよ…、女神様の加護に、状態異常無効って効果があるけど、もしかして本来なら出血などになるはずが、それらを状態異常と判断されて傷が塞がったとか?


「フーッ、フーッ…!」


 思考していたら、白コボルトが睨んできた。


 息は荒いが、闘志はいまだ健在って感じだな。


 今さっき使用した、高威力の技【崩拳】の|再使用可能時間(クールタイム)をチラッと確認する。

 クールタイムは5分か…。

 これはもう崩拳はこの戦いで使用できないかな。


「そろそろ決着をつけようか…。俺も追い込まれているしな」


「ガルルルッ…!グルァアアアアッ!!」


 俺の意思が、伝わった気がする。

 白コボルトが傷ついてない方の腕を構えた。俺も健在な方の左腕を構える。


 互いの間にある空気が張り詰め、俺達は同時に動きだした。

 お互いの距離があっという間に縮まる。


 白コボルトが爪で攻撃すると見せかけて、わざと爪を空振りさせて、空振りの勢いのまま一回転して足でもって攻撃してきた。音速を超えて、ソニックブームを放ちながら蹴りが俺に迫る。

 

 ああ無理だな、これは避けられないわ。

 蹴りの軌道は見えてはいるけど、自分も勢いがついていて躱す余裕はない。


 だったら…、狙うのはクロスカウンターだ。


 コボルトの蹴りが俺に当たる間際、俺も白コボルトの胴体に拳を当てる。


「《連撃》!」


 俺の連撃が決まる。と、同時に白コボルトの蹴りが俺を薙ぎ払った。吹き飛ばされるなか、白コボルトの胴体から骨が砕ける音がした。


《ネロの体力が0になりました。戦女神ネヴァリアの加護の効果で復活します。残り復活回数が0になりました》


 あー、ついに復活効果を使いきったか…。


 ぶっ飛ばされた先で、復活して立ち上がる。

 復活した際に失くなっていた右腕も再生した。


 立ち上がって白コボルトの方を見る。

 向こうは、草の上に仰向けに倒れていた。


「コヒュー…、コヒュー…、グルルル…」


 白コボルトの方に近づくと、苦しそうな呼吸音が聞こえてきた。胴体に打ち込んだ連撃で肋骨などが折れて、内臓に骨が刺さったのかもしれない。


「グルル…」


 近づく俺に、こちらを見ながら白コボルトが「とどめをさせ」と言ったような気がした。


「………………いや、やめとくよ」


「グルル…?」


「まあ、俺は復活効果があったからなあ。ズルしてたようなもんだな。お前は…、強かったよ。途中から戦うのが少し楽しかったし。死なせたくない」


 あ、そうだ。シトラスさんから貰ったアイテム袋の中に回復薬という物があったな。あれを使ってみるか。

 俺はアイテム袋から回復薬の瓶を取り出すと、コボルトのお腹に中身をかけた。さらにもう一本取り出して、口に瓶を近づけて回復薬を少しずつ飲ませる。


 白コボルトの苦しそうにしていた呼吸が、徐々に落ち着いてきた。

 体の状態が良くなったようで、白コボルトが起きあがる。

 おお、回復薬すごいな…!


「グル…………」


 白コボルトが無言で自分のお腹をさすって状態を確かめた後、こちらを凝視してきた。


「あー、ええっと〜…、できれば戦いはこのくらいにしてさ、このフィールドから出してくれないかな…?」


 頬をかきながらお願いしてみる。ダメかな…?


 コボルトがお腹に手を当てながら立ち上がり、立ち上がったと思ったら片膝をついて頭を下げてきた。


《特殊個体のコボルトが、従魔になることを望んでいます。従魔にしますか? YES/NO 》


「へ…?従魔??」


 どういうこと?

 白コボルトの方を見る。


 白コボルトが静かに見つめ返してきた。


「えぇーと、俺と一緒に冒険したいってこと…?」


「グルル」


 白コボルトが肯定するように短く唸る。


 マジか、こんなことがあるのか。


「そうか…、わかった。嬉しいよ、これから一緒に冒険していこう!よろしくな!」


 しばらく戦って、友情みたいなのが芽生えたのかもな。

 そんなことを考えながらYESの文字をタップする。


《おめでとうございます。特殊個体のコボルトがネロの従魔になりました》


《特殊クエスト【強者を求めし白き戦士】が、特別な行動でもってクリアされました》


《超格上との戦闘で勝利したため、称号【格上殺し】がネロに付与されました》


《Lv:1の状態で、超格上との戦闘に勝利したため称号【異常者】がネロに付与されました》


《従魔術などを使わずモンスターを従えたため、称号【魂の契り】がネロに付与されました》


 白コボルトを従魔にしたとたん、ゲームのアナウンスがたて続けにピコン、ピコンと鳴った。

 なんか称号が3個も手に入ったんだけど。


《従えた従魔に、名前をつけてください》


 最後にピコンとアナウンスが出る。

 名前か。片膝をついたままの白コボルトを見る。


「うーん、白い毛がキレイだし、あんまり捻りもないけど、ハク…、とかどうかな?」


「グル…、グルルー!!」


 お、良かったらしい。白コボルトが嬉しそうに唸った。


「じゃあ、改めてこれからよろしくな!ハク!」


 俺がハクに、よろしくという意を込めて握手を求める。


 すると突然、パァーー!とハクの体が銀色に強く光りだした。

 ハクの体のシルエットが、光りの中で変わりだす。身長が徐々に縮んで、人型のシルエットになっていく。

 銀色の光が収まると、そこには身長150センチくらいの女の子がいた。

 白い毛皮のコートに腰巻きという格好で、銀色の長髪を黒い紐でポニーテールにしている。頭の上には三角の耳がピンっと立ち、お尻の辺りではフサフサしてる立派な尻尾が揺れていた。


「グルルー!」


 よろしくー!って感じで、俺が差し出した手を女の子が握ってきた。




「………はい?」

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